できたての生米麺はもちもちしていても、冷蔵庫で数日置くとかたく締まってしまうことがあります。これは「でんぷんの老化(β化)」と呼ばれる現象で、加熱によって一度ほどけたでんぷんの分子が、冷えて保存されるあいだに再び規則正しく並び直すことで起こります。ゲル状だった構造が締まり水分を抱え込みにくくなることで、食感が硬くパサついたものへと変化し、賞味期限を縮める大きな要因になっています。今回紹介する研究では、この老化を遅らせる手立てとして、小麦由来の「小麦グルテン(WG)」と大豆由来の「大豆分離たんぱく質(SPI)」という2種類のたんぱく質を米粉に加え、それぞれが生米麺の品質にどう影響するかを比較しています。

何を、どうやって調べたのか

研究チームは、水分12.99%・全でんぷん量73.80%・アミロース含量19.42%・たんぱく質含量7.33%のインディカ米(籼米)を原料とし、そこに小麦グルテン(たんぱく質含量82.36%)または大豆分離たんぱく質(たんぱく質含量90.03%)を、米粉重量に対して0・1・3・6%の割合で加えた試料(Control、WG-1・WG-3・WG-6、SPI-1・SPI-3・SPI-6)を用意しました。米を4時間浸漬してから製粉し、100メッシュのふるいにかけて米粉とした上で、たんぱく質を混合しています。

ゲル試料は95℃で30分加熱して完全に糊化させたのち、4℃で1日・7日・14日・21日保存して老化させ、硬さの変化を測定しました。生米麺は米麺製造機を使って90℃で加工し、直径2mmの穴から押し出して作られています。評価には、粘度変化を見る急速粘度測定(RVA)、熱特性を調べる示差走査熱量測定(DSC)、水分の状態を見る低磁場核磁気共鳴(LF-NMR)、たんぱく質とでんぷんの分布を観察する共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)、でんぷんの結晶構造を調べる小角X線散乱(SAXS)、赤外分光(FTIR)など、複数のスケールでの分析手法が組み合わされています。

研究でわかったこと

まず、WGとSPIはいずれも米でんぷんの糊化・老化を抑え、保存中の水分の移動を制限し、ゲル構造の再配列を抑制して、ゲルの硬さの増加を穏やかにすることが確認されました。ただし、そのメカニズムには違いがあると報告されています。WGはたんぱく質どうしが連続した網目構造(ネットワーク)を作ることでゲル全体を引き締め、麺の食感を最適化する方向に働いたのに対し、SPIはでんぷんの老化そのものと水分の移動を抑えることで、麺が硬くなる速度を遅らせる方向に働いたとされています。

硬さの変化を数値で見ると、無添加のControl群は21日間の保存でゲルの硬さが189.27gまで上昇したのに対し、WG-6群は126.97g、SPI-6群は83.52gにとどまりました。特にSPI-6の米麺は、14日間の保存後の硬さ増加率がわずか1.44g/日と、老化を抑える効果がもっとも高かったと報告されています。一方でWGについては、1〜6%の添加量を増やすほど麺の硬さそのものは上がる一方、べたつき(付着性)や茹で減量(調理時に麺から溶け出す成分の割合)は減る傾向が見られました。これは、WGが吸水してねばりのある立体網目構造を作り、ゲルの骨格を強化する性質によるものと考察されています。

興味深いのは、SPIの添加量が多ければ多いほど良いわけではないという点です。SPIを3%を超えて加えると、かえって麺の品質が低下する傾向が見られました。著者らは、これはSPIがでんぷんの老化を強く抑えすぎることが関係している可能性があるとしています。老化によって形成されるはずのゲルネットワークの再構築まで妨げてしまい、結果として麺としての望ましい食感が損なわれると考えられます。低磁場核磁気共鳴による水分測定でも、SPIを加えた試料はWGを加えた試料に比べて、保存中の水分の状態変化(自由水への移行)がより強く抑えられていたことが示されています。

顕微鏡観察(CLSM)では、でんぷんが緑色、たんぱく質が赤色に染色され、たんぱく質がでんぷんゲルの骨格表面だけでなく、網目の隙間や空孔の中にも分布している様子が確認されました。また赤外分光分析では、たんぱく質を加えてもでんぷんとの間に新しい化学結合は生じておらず、主に水素結合などの非共有結合を介した相互作用によって老化が抑制されていると考察されています。

この研究の見方

この研究は、米麺の老化を抑えるための一つの実験的知見であり、WGとSPIそれぞれの添加が万能に品質を高めるわけではないことも示しています。実際、SPIは3%を超えると品質面でマイナスに働く可能性がある一方、WGは添加量を増やすほど硬さ自体は上がるという、単純に「多いほど良い」とは言えないトレードオフが観察されています。今回の実験はインディカ米由来の米粉を対象とした室内実験であり、他の米品種や実際の製造・流通条件でも同様の結果が得られるかは、この論文の範囲だけでは分かりません。研究チームには中国・河南工業大学、鄭州軽工業大学、集美大学などに所属する研究者が名を連ねています。

米や麺の食感・保存性を高める工夫は、私たちの食卓にも身近なテーマです。今回の知見は、たんぱく質の種類や添加量によって狙える効果が異なることを示すものであり、今後の製品開発や、より幅広い条件での検証につながる基礎的なデータの一つと位置づけられます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Shanni Wang, Yike Zhang, Lei Wang, et al. Effects of exogenous proteins on retrogradation properties of rice starch, gel properties of raw rice flour and eating quality of fresh wet rice noodles. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1915300. 原著ライセンス: cc-by.