ヤギ肉(シェボン)は世界的に見れば消費量の多い食肉のひとつですが、牛肉や豚肉に比べると、部位ごとの品質データが十分に整理されてこなかった食材でもあります。どの筋肉が柔らかく、どの筋肉が硬いのかという基礎情報が乏しいままだと、加工業者や販売者は部位ごとの特性を活かした売り方をしにくく、結果として消費者から見た「食べたときの当たり外れ」が減らないという課題につながります。今回紹介する研究は、オーストラリアの牧野(レンジランド)で飼育されたヤギの肉を対象に、部位ごとの品質を測定し、その違いを整理したものです。
研究では、去勢していない雄のオーストラリア産レンジランドヤギ25頭の枝肉から、8種類の筋肉(長背最長筋・胸最長筋、大腰筋、半腱様筋、半膜様筋、内転筋、上腕三頭筋、大腿直筋、外側広筋)を採取しました。それぞれの筋肉について、肉の硬さの指標となる「せん断力」、加熱時にどれだけ水分が失われるかを示す「蒸煮損失」、肉の最終的な酸性度を示す「pH」、筋肉を構成する筋節(サルコメア)の長さを測定し、部位間で比較しています。
部位によって硬さも水分保持力も大きく異なる
分析の結果、測定したすべての品質指標において、筋肉の種類による有意な違いが確認されました。せん断力(数値が大きいほど硬いことを示す指標)は、最も低い外側広筋で29.2ニュートン、最も高い半腱様筋で50.2ニュートンとなり、同じ枝肉の中でも部位によって硬さに大きな差があることが示されています。筋節の長さも1.50〜1.99マイクロメートルの範囲で変動し、加熱によって失われる水分量を示す蒸煮損失も12.5〜19.4%の幅がありました。
一方でpHについては、全体を通じて6.14〜6.33と、どの部位でも高めの値で安定していたことが報告されています。研究では、オーストラリア産レンジランドヤギがこうした高pHになりやすい傾向を持つことを反映した結果だとしています。さらに、複数の筋肉間でpHの値には強い相関と高い一致度が見られ、ある部位のpHが高ければ他の部位でも同様に高くなる傾向が、枝肉全体を通じて一貫していたことも示されました。
また、主成分分析(複数の指標に共通する変動パターンを整理する統計手法)を用いた検討では、ヤギ肉の品質全体のばらつきに最も大きく寄与していたのはpHで、全体の変動の30.5%を占めていました。これに続いて蒸煮損失が17.2%、柔らかさに関わる指標が11.8%を占めるという結果が示されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、オーストラリア産レンジランドヤギという特定の集団・飼育環境の去勢していない雄25頭を対象に行われたものであり、他の品種のヤギや飼育条件、性別・年齢が異なる個体にそのまま当てはまるとは限りません。また、ここで示された数値は品質を評価するための基礎的な測定結果であり、特定の調理法での美味しさや栄養価を直接保証するものではない点にも注意が必要です。研究者は、これらのデータがオーストラリア産レンジランドヤギの品質に関する基盤的な目安になり、部位を活かした加工や、カット(部位)ごとのマーケティング戦略の検討に役立つ可能性があるとしています。
まとめ
今回の研究は、ヤギ肉の8つの筋肉部位を比較し、せん断力・蒸煮損失・pH・筋節長という4つの指標において、部位ごとに明確な違いがあることを示しました。特にpHは枝肉全体を通じて一貫して高めであり、品質のばらつきに最も大きく影響する要素として位置づけられています。一つの研究で得られた基礎データであり、ヤギ肉全般の品質を断定するものではありませんが、部位ごとの特性を理解するための手がかりとして参考になる内容です。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Benjamin W.B. Holman. Variation in Shear Force, Cooking Loss, pH, and Sarcomere Length of Eight Different Muscles Collected from Australian Rangeland Goats. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15173126. 原著ライセンス: cc-by.