赤ワインやブドウの皮に含まれる成分として知られるレスベラトロールは、抗酸化作用を持つポリフェノールの一種です。肝臓に脂肪がたまる非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)に対して、このレスベラトロールをサプリメントとして摂ることに意味があるのか、これまで複数の研究で調べられてきましたが、結果は一貫していませんでした。今回、イランのタブリーズ医科大学の研究グループが、既存のメタ解析をさらに統合する「アンブレラレビュー」という手法を用いて、この問題を整理し直しました。
NAFLDは肝臓の細胞に中性脂肪がたまる状態で、肝臓の重さの5〜10%程度を占めるほど脂肪が蓄積すると発症するとされ、欧米やアジアで人口の約3割に及ぶともいわれる身近な問題です。放置すると肝硬変や肝がんに進行する可能性があり、肥満や2型糖尿病、脂質異常、インスリン抵抗性、慢性炎症とも深く関わっていることから、早い段階での対策が求められてきました。レスベラトロールについては、肝臓の脂肪の分解に関わるSIRT1やAMPKという酵素を活性化させ、脂肪の合成を担う酵素(ACCやSREBP-1c)の働きを抑えたり、脂肪酸の燃焼を促したりする仕組みが動物実験などから示唆されており、肝臓を保護する候補として注目されてきた経緯があります。
何を、どう調べたのか
研究チームは2025年6月までに発表された文献をPubMed、Scopus、Web of Science、Google Scholarの4つのデータベースで検索し、NAFLD患者を対象にレスベラトロール摂取の効果を調べたメタ解析を集めました。最終的に9件のメタ解析(いずれもランダム化比較試験を基にしたもの)が対象となり、重複する試験を整理した結果、8件の元となる試験・266人のNAFLD患者のデータが解析に使われています。摂取量は1日300〜3000ミリグラム、摂取期間は8〜26週間と、研究によって幅がありました。参加者の年齢は18〜70歳で男女どちらも含まれています。解析の質はAMSTAR2という評価基準で確認され、含まれたメタ解析のうち7件は「バイアスのリスクが低い」、2件は「中程度」と評価されました。また、証拠の確かさを判定するGRADEという手法では、体重とBMI(体格指数)に関する証拠は「質が高い」、それ以外の項目は「中程度」と位置づけられています。
結果として見えてきたこと
統合解析の結果、レスベラトロール摂取群では、対照群(プラセボなど)と比べて肝機能の指標であるALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)の値が平均で4.79 IU/L低下し、体重も平均0.666キログラム減少するという、統計的に意味のある差が見られました。ALTは肝細胞の損傷を示す代表的な指標であり、その低下は肝臓への負担がいくらか和らいだ可能性を示すものとして著者らは説明しています。一方で、同じ肝機能に関わるAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)やGGT(ガンマ・グルタミルトランスフェラーゼ)には統計的に意味のある変化は見られませんでした。また、空腹時血糖値やインスリン抵抗性の指標(HOMA-IR)といった血糖関連の項目、LDLコレステロール・HDLコレステロール・中性脂肪・総コレステロールといった脂質関連の項目、TNF-αやhs-CRPといった炎症の指標についても、有意な変化は確認されませんでした。BMIや腹部の肥満の指標であるウエスト周囲径、ウエスト・ヒップ比についても、目立った変化はなかったとされています。
ただし、著者らは体重減少に関する結果について注意も添えています。個々の試験を1つずつ除いて計算し直す感度分析では、ある試験(Asghariらの研究)を除くと体重減少の効果が統計的に有意ではなくなり、さらに出版バイアスの補正(トリム・アンド・フィル法という手法)を行うと、この効果自体が有意ではなくなったと報告されています。つまり体重への効果は、解析に含める試験の選び方によって結果が変わりうる、比較的不安定なものだったといえます。ALTの低下についても、特定の試験を除くと有意差が消える場合があったとされ、著者らはサンプルサイズや摂取量のばらつきがこうした結果に影響している可能性を指摘しています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究はあくまで既存のメタ解析やランダム化比較試験を集めて再解析したものであり、新たに人に対する臨床試験を行ったものではありません。対象となった元の試験は8件、参加者は266人にとどまり、規模としては大きくありません。著者ら自身も、含まれる試験数が比較的少ないこと、試験間で摂取量や対象者の特徴にばらつきがあることを限界として挙げており、レスベラトロールが肝機能や体重に及ぼす効果を明確に示すには、より質が高く、対象人数の多い、摂取量を統一した臨床試験が今後必要だと結論づけています。今回の結果は、レスベラトロールのサプリメントが血糖値や脂質、炎症の指標を改善したという証拠にはなっておらず、体重やALTへの効果も慎重な解釈が必要な段階にあるといえます。
今回の論文に、日本の研究機関や日本の食品・食習慣に関する記述は見当たりませんでした。
まとめ
今回のアンブレラレビューでは、NAFLD患者を対象とした複数のメタ解析を統合した結果、レスベラトロールのサプリメント摂取によって肝機能の指標ALTと体重にわずかな低下が見られたと報告されています。一方で、血糖値やインスリン抵抗性、脂質プロファイル、炎症マーカー、BMIや腹部肥満の指標には統計的に意味のある変化は確認されませんでした。体重やALTの結果についても、解析方法によって結果が変動する不安定さが指摘されており、著者らは今後さらに質の高い臨床試験の蓄積が必要だとしています。あくまで一つの統合解析であり、これをもってレスベラトロールの脂肪肝への効果が確立したとは言えない段階です。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Roghayeh Molani‐Gol, Aliasghar Ebrahimi, Sara Safari, et al. Effects of Resveratrol Supplementation on Metabolic and Anthropometric Outcomes in Non-Alcoholic Fatty Liver Disease: An Umbrella Review and Updated Meta-Analysis. インターナショナル・ジャーナル・フォー・ビタミン・アンド・ニュートリション・リサーチ (2026). DOI: 10.31083/ijvnr48116. 原著ライセンス: cc-by.