著者の所属・活動拠点の国は、トルコです。

掲載誌:Journal of Ethnic Foods

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

研究の目的:メニューを「食文化の記録」として読む

トルコには「メイハーネ」と呼ばれる伝統的な居酒屋があります。そこでは、アニスで香りづけしたアルコール度数40%以上の蒸留酒「ラク」を飲みながら、「メゼ」と呼ばれる小皿料理を大勢で分け合って食べます。著者らによれば、ラクの食卓ではメゼは前菜ではなく、メインの食事以上に中心的な存在であり、分かち合いや会話と深く結びついています。

スペインのタパスや日本の居酒屋など、酒と小皿料理を囲む文化は世界各地にあります。著者らは、メイハーネの特徴を、豊富なメゼの品ぞろえがラクという一つの伝統的な酒と一体になっている点にあると説明しています。

これまでトルコのラクやメイハーネに関する研究は、歴史や飲酒の作法、文化的な意味を扱うものが中心でした。著者らの知る限り、現在のメニューを使ってメイハーネ料理の構成を直接分析した研究はなかったといいます。そこで研究チームは、メニューを食文化の構造を示す資料として扱い、どのような料理がどれほど広く提供されているのか、地域による違いはあるのかを明らかにしようとしました。

何をどのように調べたか

研究チームは、トルコの七つの地理的地域にまたがる23県から、107軒のメイハーネのメニューを集めました。収集時期は2025年9月から11月です。対象は、ラクを提供していること、Googleの利用者評価が4.0以上であること、写真やウェブサイト、QRコードなどでメニューを確認できることを条件に選ばれました。著者らは、評価は店の質の指標ではなく、メニュー情報を入手・確認するための実用的な基準だと説明しています。また、この標本はトルコ全体のメイハーネを統計的に代表するものではなく、地域ごとのメニューの多様性を記録するためのものだとしています。

分析対象は、ラクと一緒に出されるメゼ、温かい前菜、サラダです。研究チームは、それぞれの品目を野菜、ヨーグルト、豆類、チーズ、魚介などの主な材料ごとに分類しました。そのうえで、各分類が全品目の中で占める割合と、何割のメニューに少なくとも1回登場するか(普及率)を計算しました。地域ごとの比較も行われています。

なお、著者らは、メニューが示すのは店側が何を提供しているかであり、客が実際に何を食べているかではないと断っています。

主な結果:野菜とヨーグルトが土台、魚介は温かい料理で存在感

107のメニューからは、合計5287品目が集まりました。内訳は、メゼが3301品、温かい前菜が1399品、サラダが587品です。

メゼでは、野菜を主材料とするものが32.38%で最も多く、ヨーグルト(19.60%)、豆類・種実(11.24%)、魚介(10.42%)、チーズ(10.36%)が続きました。これらを合わせると、メゼ全体の約84%を占めます。一方、肉を主材料とするメゼは3.15%にとどまりました。著者らはこの構成について、メゼが満腹になるための主食ではなく、少量ずつ味わう食卓の添え物であることを反映していると解釈しています。

普及率で見ると、野菜とヨーグルトのメゼはすべてのメニューに登場しました。チーズのメゼも99.07%、豆類・種実のメゼも96.26%のメニューに含まれていました。研究チームは、メイハーネ料理には野菜、ヨーグルト、豆類、チーズを軸とする強固な「核」があると報告しています。これに対し、魚介のメゼ(49.53%)や肉のメゼ(42.99%)は、目にはつくものの限定的な位置づけでした。

個別の食材では、ナスを使ったメゼが95.33%のメニューに登場し、最も広く見られました。焼きナスのサラダなどが各地で繰り返し登場し、ナスはメイハーネ料理の標準的な中心食材になっていると著者らは述べています。ピーマン・トウガラシ類のメゼも71.03%のメニューに見られ、辛い赤ペッパーのペーストや焼きピーマンが中心でした。

豆類では、ひよこ豆のメゼが79.44%のメニューにありました。ただし、その88.39%はフムスでした。そら豆のメゼは62.62%のメニューに登場しましたが、その95.9%はペースト状の「ファヴァ」でした。研究チームは、これらの豆が多様な料理としてではなく、ほぼ一つの定番の形で広まっていると指摘しています。フムスは東地中海やトルコ南東部の伝統に、ファヴァはイスタンブールのラクの食卓に由来するとされますが、いずれも地域を越えて全国的な定番になったといいます。

温かい前菜では、構成がメゼとは異なっていました。魚介が31.24%で最も多く、野菜(23.95%)、肉(17.58%)、パイ・生地もの(10.65%)が続きました。著者らは、魚介の多さが魚介とラクの強い文化的な結びつきと合致していると述べています。サラダは、グリーンサラダ(40.37%)と定番サラダ(40.25%)が全体の約8割を占め、新鮮でシンプルな付け合わせが中心でした。

この研究が示すこと

この研究は、店のメニューという身近な資料を体系的に読み解くことで、メイハーネの食卓が野菜やヨーグルト、豆類、チーズを中心とする共通の型に支えられていることを示しました。フムスやファヴァのように、特定の地域に由来する一品が全国共通の定番として定着している様子も浮かび上がっています。

トルコのラク文化は、これまで主に歴史や作法の物語として語られてきました。この研究は、そうした文化を、料理の構成や品ぞろえの広がりという測定可能な形でとらえようとした試みだといえます。

原著論文の著者・所属:Öznur Cumhur-Değirmenci(Department of Tourism Management, Faculty of Applied Science, Bilecik Şeyh Edebali University, Bilecik, Türkiye)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Öznur Cumhur-Değirmenci. Investigation of meyhane cuisine through menu analysis: structure and composition of the raki table in Türkiye. Journal of Ethnic Foods 2026-10-01. DOI: 10.1186/s42779-026-00340-7. 原著ライセンス:CC BY.