この研究は、オランダ、中国、サウジアラビアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:European Journal of Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとしたのか
がんは世界的に大きな健康課題であり、著者らは、世界保健機関の報告として2020年に約1000万人ががんで亡くなり、これは世界の全死亡のおよそ6分の1にあたると紹介しています。なかでも肺がんは最も多く診断され、がんによる死亡の最大の原因とされています。病期や地域によって異なるものの、肺がんの5年生存率は4〜17%の範囲と報告されており、著者らはこのことが、予防につながる「変えられる要因」を見つける重要性を裏づけると述べています。
生活習慣のうち、食事と睡眠はどちらも健康に深く関わります。著者らによれば、不健康な睡眠と不健康な食事は、全身の炎症や抗酸化力の低下といった共通の悪影響の仕組みを持つと考えられています。ところが、これまでの疫学研究の多くは食事と睡眠を別々に扱ってがんリスクを評価しており、両者を一つの「食事・睡眠パターン」としてまとめて定量的に検討した研究は限られていました。そこで研究チームは、地中海食の遵守度と健康的な睡眠を組み合わせたパターンと、肺がん発症リスクとの関連を調べることを主な目的としました。あわせて、地中海式の生活文化に伴うことの多い昼寝(シエスタ)の習慣が、地中海食と肺がんリスクの関連を変化させるかどうかも探索しています。
どのように調べたか
用いたのは、英国の大規模コホート研究「UKバイオバンク」のデータです。2006年から2010年にかけて、イングランド・スコットランド・ウェールズから37〜73歳の50万人以上が参加したもので、質問票や面接、身体計測に加えて血液・尿・唾液などの検体も集められています。今回の解析では、食事内容をたずねる「24時間思い出し質問票(Oxford WebQ)」に一度以上回答した人を対象とし、調査開始時点ですでにがんと診断されていた人は除外しました。追跡は参加時点から2023年9月まで続けられ、最終的に19万2034人が解析に含まれ、追跡期間の中央値は14年でした。
食事については、地中海食への近さを点数化する指標(MEDAS)を、Oxford WebQで得られる11の食品カテゴリー(オリーブ油、野菜、果物、赤身肉、加糖・炭酸飲料、ワイン、豆類、魚介類、菓子類、ナッツ、白身肉)に合わせて改変したものを使い、複数回答えた人は平均点を用いました。点数が高いほど地中海食に近い食生活を意味します。睡眠については、睡眠時間、不眠、いびき、日中の眠気、朝型か夜型かという5項目それぞれを「良好なら1点」として合計した睡眠スコアを作り、高いほど健康的な睡眠とみなしました。
解析では、食事スコアと睡眠スコアをそれぞれ3分割し、掛け合わせて9段階の「食事・睡眠パターン」を作成しました。最も低い段階を基準とし、追跡中の死亡という競合するできごとを考慮できるFine-Gray型の統計モデルを用いています。年齢・性別に加え、喫煙、飲酒、コーヒー摂取、身体活動、世帯収入、就業状況、BMIといった要因も調整しました。さらに、追跡2年未満の人を除く感度分析や、性別ごとの解析も行っています。
主な報告結果
追跡期間中、1156人が新たに肺がんと診断されました。すべての調整を行ったうえで、地中海食の遵守度が最も高い層は最も低い層に比べて肺がんリスクが21%低く、睡眠スコアが最も高い層は最も低い層に比べて26%低いという結果が報告されています。食事と睡眠はそれぞれ単独でも、肺がんリスクの低さと結びついていたことになります。
そして本研究の中心的な結果として、食事と睡眠を組み合わせたパターンでは、段階が上がるほどリスクが低くなる傾向がみられました。最も良好な段階に該当する人は、最も低い段階の人に比べて肺がんリスクが43%低いと報告されています。あわせて行われた交互作用の解析では、食事と睡眠が互いを強め合う(相乗)ことも打ち消し合う(拮抗)ことも示されませんでした。これは、両者がそれぞれ独立にリスクの低さと結びつき、組み合わさることで差が積み重なっていく、という読み方と整合する所見です。喫煙状況がこの関連を変化させるという証拠も得られませんでした。性別に分けた解析では、女性では最も良好な段階で関連がはっきりしていた一方、男性では中〜高程度の段階で関連がみられ、最も高い段階では同様の結果になりませんでした。著者らはこれを、男性の該当者で肺がんの発生件数が少なく統計的な検出力が限られたためと考えられると説明し、男性の結果は慎重に解釈すべきだとしています。
肺がん以外のよくあるがんについて行った探索的な解析では、同じように一貫した関連はみられませんでした。また、昼寝の習慣が地中海食と肺がんリスクの関連を変えるという証拠も得られていません。著者らは、肺が外界と接する器官として常に高い酸化ストレスにさらされているため、抗酸化・抗炎症の働きを高める生活習慣の影響が特に表れやすいのではないか、という説明の可能性を挙げています。
この研究が示すこと
著者らは、この研究が観察に基づくものであり、因果関係を証明するものではないと明確に述べています。食事と睡眠はいずれも自己申告で、喫煙も「吸わない・以前吸っていた・現在吸っている」という大まかな区分でしか調整できていないため、喫煙による影響が残っている可能性は否定できないこと、参加者が英国の一集団に限られるため他の集団にそのまま当てはまるとは限らないことも、限界として挙げられています。
そのうえで本研究が伝えているのは、食事と睡眠という二つの生活習慣を別々にではなく、まとめて一つのパターンとして捉える視点の価値です。大規模な集団を長期間追った結果、両者がともに良好な人ほど肺がんの発症が少ないという段階的な関連が観察されました。生活習慣とがんリスクの関係を考えるうえで、複数の行動を組み合わせて評価することの意味を示した報告だといえます。
著者:Yiming Chen(Department of Epidemiology, Maastricht University, Maastricht, Limburg, the Netherlands)、Enyu Tong(Department of Health, Ethics and Society, Maastricht University, Maastricht, Limburg, the Netherlands)、Xiaoman Jin(Department of Epidemiology, Maastricht University, Maastricht, Limburg, the Netherlands)、Yufeng Rao(Department of Epidemiology, Maastricht University, Maastricht, Limburg, the Netherlands)、Evan Y. W. Yu(Key Laboratory of Environmental Medicine and Engineering of Ministry of Education, and Department of Epidemiology & Biostatistics, School of Public Health, Southeast University, Nanjing, Jiangsu, China)、Abdulmohsen Al-Zalabani(Department of Family and Community Medicine, College of Medicine, Taibah University, Madinah, Saudi Arabia)、Maurice Zeegers(Department of Epidemiology, Maastricht University, Maastricht, Limburg, the Netherlands)、Anke Wesselius(Department of Epidemiology, Maastricht University, Maastricht, Limburg, the Netherlands. [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yiming Chen, Enyu Tong, Xiaoman Jin, et al. Mediterranean diet adherence, healthy sleep, and lung cancer risk: a prospective study of 192,034 UK Biobank participants. European Journal of Nutrition 2026-08-27. DOI: 10.1007/s00394-026-04080-x. 原著ライセンス:CC BY.