加齢とともに歩行や階段の上り下り、ベッドからの立ち上がりが少しずつおっくうになる——こうした『粗大運動制限』と呼ばれる状態は、要介護や入院につながる手前のサインとして知られています。この段階での予防に食事がどう関わるのかはまだよくわかっていません。中国の成都体育学院などに所属する研究者らのグループは、食事に含まれる食物繊維の『密度』に着目し、アメリカの大規模な高齢者追跡調査データを使ってこの関係を調べました。

研究の舞台となったのは、アメリカで実施されている高齢者対象の全国調査『Health and Retirement Study(HRS)』と、それに連動する2013年の栄養調査『Health Care and Nutrition Study(HCNS)』です。研究チームは、2012年時点で歩行や入浴などの基本動作に困難がなかった50歳以上の成人5,388人を対象に、2022年まで隔年で行われた追跡調査を分析しました。食事の内容は、164種類の食品・飲料についての摂取頻度を尋ねる郵送式のアンケート(ハーバード大学が開発した食物摂取頻度質問票をもとにしたもの)で把握されています。研究チームが着目したのは、食物繊維の総摂取量そのものではなく、摂取エネルギー1,000キロカロリーあたりの食物繊維量(グラム)で表す『食物繊維密度』です。総カロリーの多い少ないに影響されにくい指標として用いられました。

食物繊維密度が高い人ほど、動作の制限が起きにくい傾向

追跡期間中に2,018人が新たに歩行や入浴などの動作制限を経験しました(対象者全体に占める割合は32.7%)。年齢、性別、人種、学歴、総エネルギー摂取量、BMI、喫煙、飲酒、運動習慣、高血圧、糖尿病、自己評価の健康状態など多数の要因を考慮したうえで解析したところ、食物繊維密度が統計的な標準偏差1つ分高くなるごとに、動作制限が新たに起こるリスクは0.86倍(95%信頼区間0.82〜0.90)と算出されました。食物繊維密度が最も高いグループ(上位4分の1)は、最も低いグループ(下位4分の1)に比べてリスクが0.72倍という結果でした。別の統計手法(AIPWという手法)を用いて実際のリスクの差を見積もったところ、上位グループは下位グループに比べて動作制限が起きる割合が9.0ポイント低いという推計も得られています(下位グループ37.6%に対し上位グループ28.6%)。また、死亡を『競合するイベント』として扱う統計モデル(Fine-Gray法)でも、標準偏差1つ分あたりのハザード比は0.82(95%信頼区間0.77〜0.87)と、傾向は変わりませんでした。

研究チームはこの関連が特定の解析方法に依存したものでないかを確かめるため、非常に多くの角度から検証を行っています。動作制限の定義を『2項目以上の困難』『3項目以上の困難』『繰り返し起こる困難』などに変えても、また食物繊維の測り方を総摂取量や外れ値を除いた値に変えても、結果はおおむね同じ方向を示しました。日常生活動作(ADL)や手段的日常生活動作(IADL)、移動能力の制限といった関連する指標で見ても、食物繊維密度が高いほどリスクが低いという同様の傾向が確認されています。年齢別に見ると、65歳未満と65〜74歳では関連がはっきりしていた一方、75歳以上では統計的にはっきりした関連は見られませんでした。論文では、この年代差について、75歳以上ではすでに動作制限が起きている割合自体が高いこと(55.4%)や、より健康な人が生き残って調査対象に残っている可能性(生存者選択)、一度きりの食事調査では晩年の食生活を十分に反映できない可能性などが考察されていますが、著者らは『75歳を超えると食物繊維が無関係になる』という決めつけはすべきでないと注意を促しています。

この結果をどう受け止めるか

論文の著者らは、この関連を『食物繊維そのものの効果』と単純に解釈すべきではないと強調しています。食物繊維密度が高いグループは、そもそも喫煙率が低く、運動習慣がある人が多く、自己評価の健康状態も良く、女性の割合も高いなど、生活習慣や健康状態そのものに違いがありました。実際、食事全体の質(野菜や果物の摂取傾向など)を追加で調整すると、関連の強さはやや弱まっています(標準偏差1つ分あたりのオッズ比が0.77から0.85に変化)。つまり食物繊維密度は、食事の質や健康意識、経済的な余裕など、より幅広い生活習慣を映し出す『目印』である可能性があり、繊維そのものが原因であるとは言い切れません。また、食事調査は一度きりの自己申告であり、記憶違いや申告のかたよりが生じやすいこと、果物・野菜・豆類・全粒穀物など由来の異なる食物繊維をひとまとめに扱っていて種類ごとの違いは検討できていないこと、追跡調査が2年おきのため動作制限が始まった正確な時期はわからないことなど、著者ら自身がいくつもの限界を挙げています。もともと動作に不自由のなかった人だけを対象にしていますが、それでも体調の衰えが先に始まっていて、それが食生活の変化につながった可能性(逆の因果関係)も完全には否定できないとしています。

研究は観察に基づくものであり、食物繊維を積極的に摂ることで動作制限を防げると証明したものではありません。著者らも、今回の結果から具体的な摂取目標を導くべきではないとしたうえで、今後は食事の繰り返し調査や、繊維の由来ごとの分析、腸内細菌や炎症に関わる指標を組み合わせた研究、実際に食事を変える介入試験が必要だと述べています。

まとめ

今回の追跡調査では、摂取エネルギーあたりの食物繊維量が多い人ほど、その後数年間で歩行や入浴といった基本動作に制限が生じるリスクが低いという関連が、さまざまな解析方法を通じて一貫して見られました。ただしこれは一つの観察研究の結果であり、食物繊維の摂取と運動機能の関係を確定づけるものではなく、生活習慣や食事全体の質など他の要因が影響している可能性も残ります。今後さらに研究が積み重ねられることが期待されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Tao Cai, Tao Cai, Tao Cai, et al. Dietary fiber density and incident gross motor limitation among middle-aged and older adults: a prospective cohort analysis. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1922715.