ビタミンDは骨の健康との関わりでよく知られていますが、近年はがんとの関連についても研究が進められています。なかでも、ビタミンDが働きかける『ビタミンD受容体(VDR)』という遺伝子には多様なタイプ(一塩基多型、SNP)があり、これが大腸がんのリスクと関係しているのではないかという報告がこれまでにいくつかなされてきました。しかし、その結果は研究によってばらつきがあり、一致した結論は得られていませんでした。今回紹介する研究は、タイの早期大腸がん患者を対象に、ビタミンD3の補給がVDRなどの遺伝子の働きにどう影響するか、またそれが遺伝的なタイプの違いと関係しているのかを調べたものです。
どのように調べたのか
研究では、早期大腸がん患者27名の血液(バフィーコートと呼ばれる白血球を含む層)から、全RNAとゲノムDNAを取り出しました。そして、リアルタイムPCR法という手法を用いて、VDR、RXR、CYP27B1、CYP24A1という4つの遺伝子の発現量(働きの強さ)を測定しました。あわせて、VDR、CYP27B1、CYP24A1に関わる9つの一塩基多型(SNP)と、血液中のビタミンD濃度との関連も調べられました。
わかったこと
ビタミンD3の補給を受けたグループでは、VDR、RXR、CYP27B1の発現量が有意に上昇していたことが報告されています。一方で、ビタミンDの摂取と、FokI、BsmI、ApaI、TaqI、Tru9Iといった具体的なVDRの遺伝子タイプ(SNP)との間には、有意な関連は見られなかったとされています。さらに、VDR、CYP27B1(rs10877012)、CYP24A1(rs6013897、rs158552、rs17217119)のいずれのSNPやハプロタイプ(複数のSNPの組み合わせパターン)についても、大腸がんのなりやすさとの関連は認められなかったと報告されています。
これらの結果から、ビタミンDの摂取は早期大腸がん患者においてVDRおよび関連遺伝子の発現を高める可能性があり、しかもその効果はVDR、CYP27B1、CYP24A1の遺伝的な多型とは独立している、つまり遺伝子タイプの違いに左右されにくいことが示唆されています。著者らは、こうした遺伝子発現の変化は、遺伝的な違いよりも、体内のビタミンDの状態そのものによって引き起こされている可能性があると述べています。
この研究を読むうえでの注意
この研究は、タイの早期大腸がん患者27名という限られた人数を対象にしたものであり、一つの研究として示された結果です。ビタミンDの摂取が大腸がんの予防や治療に直接つながることを証明するものではなく、結論が確定したものでもありません。今後、より大規模な集団や異なる背景を持つ患者を対象とした研究によって、今回の結果がさらに検証されていくことが期待されます。
まとめ
今回の研究では、早期大腸がん患者にビタミンD3を補給したところ、VDR、RXR、CYP27B1という遺伝子の発現が高まったことが報告される一方、調べられたVDR、CYP27B1、CYP24A1の遺伝子タイプ(SNP)そのものは、大腸がんのなりやすさやビタミンDへの反応とは明確な関連が見られませんでした。ビタミンDと大腸がんの関係を理解するうえで、遺伝的な背景だけでなく、体内のビタミンDの状態自体に着目する必要性を示す知見といえます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:早期タイ人大腸がん患者におけるビタミンD摂取、VDRレベルおよび関連遺伝子多型とビタミンD3補給後の関連(メディカル・サイエンシズ・2026年08月)