この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

ビタミンDはカルシウムやリンの代謝に関わり、骨の健康を保つために欠かせない栄養素です。それだけでなく、遺伝子の働きの調整や細胞の増殖・分化、免疫の調整、炎症を抑える働きにも関係しているとされています。しかし世界的に見て、ビタミンDの不足や欠乏は深刻な公衆衛生上の課題になっており、骨粗しょう症や自己免疫疾患、心血管代謝疾患、一部のがんのリスク上昇と関連することが指摘されています。とりわけ妊婦や子ども、高齢者といった集団で、この問題が目立つとされています。

妊婦は栄養介入において特に重要な集団の一つです。母親のビタミンD不足は、望ましくない妊娠転帰と関連するとの報告があるほか、生まれてくる子どもの将来の成長発達に関わる要因の一つとも考えられています。今回紹介する研究は、中国山西省という中緯度から高緯度にかけての北部地域で、妊娠初期の女性を対象に、血清中のビタミンD濃度(25(OH)D)の状況を10年間にわたって調べたものです。山西省は冬が長く日照が弱く短いという気候的特徴があり、理論上はビタミンD不足のリスクが高い地域とされていますが、これまでこの地域の妊娠初期女性を対象とした大規模で長期的な研究はなかったといいます。

研究の方法

この研究は、2016年1月から2025年12月までの間に、山西省の産科・小児科病院(山西省母子保健病院)でビタミンD検査を受けた、妊娠14週未満の健康な妊婦2万693人を対象とした後ろ向きコホート研究です。対象者は15〜49歳で、高血圧や糖尿病、心疾患の家族歴がなく、妊娠合併症(妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病など)や肥満、貧血、甲状腺機能異常などの併存疾患がない、これまで健康であった妊婦に限定されています。

血液は真空採血管に採取後、遠心分離して血清を分離し、マイナス80度で保存されました。血清25(OH)D濃度は、電気化学発光法という測定手法(Roche社のElecsys Vitamin D total IIIという検査キット、cobas e 601という全自動分析装置を使用)で測定されています。測定範囲は7.50〜300 nmol/Lで、この範囲を超える検体は自動的に希釈して再測定されたとのことです。

ビタミンDの状態は、血中濃度に応じて「重度欠乏(30 nmol/L未満)」「欠乏(30以上50 nmol/L未満)」「不十分(50以上75 nmol/L未満)」「充足(75 nmol/L以上)」の4段階に分類されました。また、季節(春・夏・秋・冬)、妊婦の年齢層(20歳未満の若年妊娠、20〜34歳の適齢期妊娠、35歳以上の高年齢妊娠)、胎児数(単胎・双胎・品胎)、妊娠様式(自然妊娠か体外受精・胚移植〈IVF-ET〉か)、そして研究期間を「パンデミック前(2016〜2019年)」「パンデミック期(2020〜2022年)」「パンデミック後(2023〜2025年)」の3つに区分し、これらとビタミンD値との関連がロジスティック回帰分析という統計手法で調べられました。

わかったこと

対象者の年齢の中央値は30歳(四分位範囲26〜33歳)で、84.6%が20〜34歳の適齢期妊娠でした。ほとんどが単胎妊娠(98.9%)、初産(99.4%)、自然妊娠(99.3%)だったとのことです。

血清25(OH)D値の中央値は36.12 nmol/L(四分位範囲27.87〜47.42 nmol/L)でした。内訳を見ると、31.4%が「重度欠乏」、47.3%が「欠乏」、17.6%が「不十分」、そして「充足」に達していたのはわずか3.7%でした。重度欠乏と欠乏を合わせた「総欠乏率」は78.7%に上り、不十分まで含めた割合は96.3%と、対象者のほとんどが基準を満たしていない状態だったといいます。

年ごとの推移を見ると、重度欠乏の割合は2016年から2019年にかけて35.5%から21.8%へと減少傾向にありました。ところが2020年に34.2%へ急上昇し、2022年まで35.6%という高い水準が続きました。この時期は新型コロナウイルスの流行期と重なります。多変量解析でも、パンデミック期はパンデミック前と比べて重度欠乏・欠乏・不十分のいずれのオッズも有意に低い(=パンデミック前よりは相対的に少ない)一方、パンデミック後の期間は重度欠乏のオッズがパンデミック前より高くなる関連が見られました。論文の著者らは、外出制限などによる日光曝露の減少がこの変動の背景にある可能性を指摘しつつ、パンデミック後も2025年に重度欠乏の割合が再び35%近くまで戻ったことから、回復は不安定であり、行動変容の名残りや補充の不徹底など、他の未特定の要因が影響している可能性があるとしています。

季節による違いも明確でした。血清25(OH)D値は夏(中央値40.23 nmol/L)と秋(37.91 nmol/L)で高く、春(33.17 nmol/L)と冬(33.46 nmol/L)で低くなりました。冬を基準とした解析では、夏は重度欠乏のオッズを大きく下げる関連(調整オッズ比0.36)が見られ、秋も同様に欠乏を抑える方向の関連(調整オッズ比0.50)が示されました。一方、春は冬と比べて統計的に明確な差が見られませんでした。季節はこの研究の中で最も強い関連要因だったとされています。

年齢別では、35歳以上の高年齢妊娠グループがビタミンD値の中央値38.21 nmol/Lと最も高く、20〜34歳の適齢期グループは35.80 nmol/Lと最も低い結果でした。年齢が1歳上がるごとに重度欠乏のオッズが下がる関連(調整オッズ比0.90)も見られています。著者らは、高年齢の妊婦の方が健康意識が高く、通院や栄養指導の順守、サプリメント摂取などに積極的である可能性を、この関連の背景として挙げています。なお、若年妊娠グループ(20歳未満、22人と少数)は重度欠乏の割合が最も高い傾向にありました。

妊娠様式との関連も見られ、自然妊娠はIVF-ETによる妊娠と比べて、重度欠乏(調整オッズ比2.14)・欠乏(調整オッズ比2.21)・不十分(調整オッズ比2.07)のいずれについても高いオッズと関連していました。著者らは、体外受精を受ける女性は治療前に詳しい医学的評価や栄養状態の最適化(ビタミンDの検査や補充を含む場合がある)を受けていることが背景にあるのではないかと考察しています。一方、胎児数(単胎・双胎・品胎)については、統計的に明確な関連は見られませんでした。

この研究を読むうえでの注意点

この研究は中国・山西省という特定地域の1つの医療機関を対象とした後ろ向きコホート研究であり、対象者は同院でビタミンD検査を受けた妊婦に限られます。論文では、品胎(3つ子)の妊婦がわずか3人と極めて少なかったため、一部の解析で極端な数値が出たことを著者ら自身が明らかにしており、この少数例を除いた感度分析を追加で行うことで、主な結果が頑健であることを確認したとしています。また、季節・年齢・妊娠様式との関連が示されたものの、これらはあくまで統計的な関連であり、因果関係を直接証明するものではない点にも留意が必要です。論文の著者らは、こうした結果を踏まえ、周産期における日常的なビタミンDのスクリーニングと補充、特に冬季や若年妊娠など特定の集団に合わせた対策を呼びかけています。

まとめ

中国山西省の妊娠初期女性2万人超を対象としたこの10年間のコホート研究では、血清ビタミンD値の中央値が36.12 nmol/Lにとどまり、約8割が「欠乏」の状態にあったことが報告されました。季節が最も強い関連要因であり、夏や秋に比べて冬や春で不足が目立つこと、新型コロナウイルスの流行期に重度欠乏の割合が上昇したこと、高年齢妊娠や体外受精による妊娠でビタミンD値が高い傾向にあったことなどが示されています。これは特定地域・特定施設を対象とした一つの研究であり、結果がそのまま他地域や他集団に当てはまるとは限りません。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):中国北部の妊娠初期女性における持続的なビタミンD欠乏症とその関連要因に関する10年間の評価(2016〜2025年)(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)

著者:Haizhen Chen(Laboratory Department, Shanxi Provincial Children’s Hospital)、Quan Yun(Department of Pediatrics, Shanxi Medical University)、Xitian Fan(Department of Pediatrics, Shanxi Medical University)、Chunli Xu(Department of Pediatric Intensive Care Unit, Shanxi Provincial Children’s Hospital)、Jingjing Wei(Department of Pediatrics, Shanxi Medical University)