著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Advanced Agrochem

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

Fusarium pseudograminearumは、コムギなどの穀物に「フザリウム冠腐病」を引き起こすカビの一種です。世界各地で深刻な収量低下をもたらす重要な病原菌として知られています。この病気の防除には、脱メチル化阻害剤(DMI)と呼ばれる種類の殺菌剤が今も重要な手段として使われています。

一方で、この菌がDMI殺菌剤にさらされたとき、どのような調節の仕組みでそれに適応するのかは、まだ大部分が解明されていませんでした。研究チームは、この適応を支える調節の仕組みを明らかにすることを目指しました。

何を調べたか

著者らはまず、DMI殺菌剤の一つであるテブコナゾールに耐性を示す、野外の圃場から得られた菌株を調べました。その結果、これらの菌株では、FpCYP51A、FpCYP51B、FpCYP51Cという3つのCYP51遺伝子の働きがそろって高まっていることが分かりました。

次に研究チームは、ステロール(細胞膜などの成分となる脂質の仲間)の調節に関わる重要な因子としてFpSRを特定しました。FpSRは転写因子、つまり特定の遺伝子の働きを調節するたんぱく質です。論文によると、FpSRは3つのFpCYP51遺伝子それぞれのプロモーター(遺伝子の働きを始めるスイッチにあたるDNA領域)に直接結合し、その転写を活性化していました。

主な結果

FpSRを失わせた菌では、ステロールの合成を妨げるさまざまな種類の薬剤に対して感受性が高まっていました。また、カビの細胞膜の主要なステロールであるエルゴステロールの恒常性、つまり量のバランスを保つ仕組みも乱れていました。

さらに、遺伝子の働きを網羅的に調べる解析(トランスクリプトーム解析)と、細胞内の代謝物質を網羅的に調べる解析(メタボローム解析)を組み合わせたところ、生命活動の基本となる一次代謝の経路が、FpSRに依存して広く組み替えられていることが示されました。

FpSRを欠いた菌では、カビ毒の一種であるデオキシニバレノールの産生が損なわれ、植物に病気を起こす力(病原性)やストレスへの適応力も低下していました。

研究が示すこと

著者らはこれらの結果から、FpSRは一次代謝と、カビ毒の産生などを含む二次代謝を、ストレスへの適応や病原性と結びつけて調節する広範な調節因子であると結論づけています。殺菌剤への適応と病気を起こす力の双方に、一つの転写因子が関わっていることを示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Lingling Yang(Institute of Biotechnology, National Key Laboratory of Rice Biological Breeding, Key Laboratory of Molecular Biology of Crop Pathogens and Insects, Zhejiang University, Hangzhou, China)、Mingyu Chen(Institute of Biotechnology, National Key Laboratory of Rice Biological Breeding, Key Laboratory of Molecular Biology of Crop Pathogens and Insects, Zhejiang University, Hangzhou, China)、Xin Chen(Institute of Biotechnology, National Key Laboratory of Rice Biological Breeding, Key Laboratory of Molecular Biology of Crop Pathogens and Insects, Zhejiang University, Hangzhou, China)、Zhonghua Ma(Institute of Biotechnology, National Key Laboratory of Rice Biological Breeding, Key Laboratory of Molecular Biology of Crop Pathogens and Insects, Zhejiang University, Hangzhou, China)、Chengqi Zhang(Department of Plant Pathology, School of Plant Protection, Anhui Agricultural University, Hefei 230036, China)、Zunyong Liu(Institute of Biotechnology, National Key Laboratory of Rice Biological Breeding, Key Laboratory of Molecular Biology of Crop Pathogens and Insects, Zhejiang University, Hangzhou, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lingling Yang, Mingyu Chen, Xin Chen, et al. The sterol regulatory transcription factor FpSR coordinates fungicide tolerance, metabolism, and virulence in Fusarium pseudograminearum. Advanced Agrochem 2026-10-01. DOI: 10.1016/j.aac.2026.10.016. 原著ライセンス:CC BY.