日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

高齢者施設に入所している方の中には、血液中の亜鉛濃度が低い状態、いわゆる「亜鉛欠乏」を抱える人が少なくないとされています。亜鉛は体内でさまざまな働きに関わる微量元素ですが、施設入所者を対象に、この状態が年を追ってどう変化していくのかを継続的に追跡した記録はこれまで十分に整理されてきませんでした。今回、日本の介護施設で毎年実施されている健康診断のデータをもとに、入所者一人ひとりの血清亜鉛値が前年からどう移り変わったのかを調べた研究が、アナルズ・オブ・ジェリアトリック・メディシン・アンド・リサーチ誌に2026年8月に掲載予定です。

この研究は、著者のNorifumi Kudeken氏(Kubagawa Medical Clinic、沖縄県那覇市)による日本主導の研究です。所属先が日本の医療機関であることが、日本主導と位置づける根拠になっています。

どのように調べたのか

研究は、沖縄県内にある1つの介護施設で2021年から2025年にかけて実施された年次健康診断のデータを後ろ向きに解析したものです。血清亜鉛値が60μg/dL(9.2μmol/L)未満の場合を「亜鉛欠乏」と定義し、隣り合う2年分の測定値を1つのペアとして、次の4パターンのいずれかに分類しました。すなわち、①前年も今年も欠乏が続く「持続的欠乏」、②前年は欠乏だったが今年は回復した「回復」、③前年は欠乏でなかったが今年は欠乏になった「欠乏への移行」、④前年も今年も欠乏でない「持続的非欠乏」です。さらに、年齢、性別、施設内のケアユニット、アルブミン値、貧血の有無、推定糸球体濾過量(eGFR)といった入所者の特徴別に、これらの変化パターンがどう違うかも探索的に集計されています。ベースラインの亜鉛値が欠測していた1ペアを除外した結果、166人の入所者から得られた361組の連続した年次ペアが解析の対象となりました。

わかったこと

解析の結果、前年に亜鉛欠乏だった217ペアのうち、163ペア(75.1%、95%信頼区間69.0〜80.4%)が翌年も欠乏が続く「持続的欠乏」でした。一方、前年に欠乏でなかった144ペアのうち、67ペア(46.5%、95%信頼区間38.6〜54.7%)が翌年には欠乏へと移行していました。つまり、いったん低亜鉛の状態になると多くの場合そのまま続きやすく、また欠乏でなかった人でも半数近くが翌年には欠乏に転じるという傾向が記述的に示されたことになります。

特徴別の集計では、持続的欠乏は85歳以上の入所者、施設内の「ケアユニット2」に属する入所者、アルブミン値が3.5g/dL未満の入所者で記述的に多く見られました。また、欠乏への移行は、アルブミン値が3.5g/dL未満の場合や貧血がある場合により多く見られる傾向がありました。

この研究を読むうえでの注意

著者自身も述べているように、ケアユニットに関する所見はこの施設固有の事情を反映している可能性があり、他の施設にそのまま当てはまるとは限りません。また、これらの結果はあくまで記述的なものであり、2年分のペア単位での集計にとどまるため、亜鉛値の変化が栄養状態や病気の原因になっているのか結果なのかといった因果関係を明らかにするものではありません。1つの施設・1つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意が必要です。

まとめ

この研究では、沖縄の介護施設に入所する高齢者を対象に、血清亜鉛値の年ごとの変化を追跡したところ、低亜鉛の状態は多くの場合翌年も続きやすく、欠乏でなかった人でも欠乏へと移行することが少なくないことが示されました。こうした好ましくない変化は、アルブミン値の低下や貧血といった栄養面・臨床面での脆弱さを示す特徴を持つ入所者でより目立つ傾向がありましたが、これらはあくまで観察に基づく記述的な結果であり、今後さらなる研究による検証が期待されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Norifumi Kudeken. Annual transitions in serum zinc status among long-term care facility residents in Japan. アナルズ・オブ・ジェリアトリック・メディシン・アンド・リサーチ (2026). DOI: 10.4235/agmr.26.0141. 原著ライセンス: cc-by-nc.