著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Plants

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

緑茶の中には、光に敏感で新芽が黄色くなる「黄金芽(Huangjinya、HJY)」という品種があります。この品種は爽やかでまろやかな味わいと苦渋みの少なさで知られ、市場でも高い評価を得ていますが、その「苦渋みが少ない」という特徴がどのような仕組みで生まれるのかは、これまで十分に解明されていませんでした。今回、中国・宜賓学院(Yibin University)の研究チームが、この黄金芽と、一般的な緑葉品種「福選9号(Fuxuan 9、FX)」を比較することで、味の違いを生み出す代謝と遺伝子発現の仕組みを調べました。

研究チームはまず、同じ茶園で同じ条件下で栽培された両品種の新芽(各50株以上からランダムに採取し、3反復のサンプルとした)を用いて、遊離アミノ酸と総フラボノイド含量を測定しました。その結果、黄金芽のアミノ酸含量は32.79 mg/gと福選9号より11.61%高く、総フラボノイド含量も22.96 mg/gと28.17%高いことがわかりました。フラボノイドは本来、苦渋みに関わる成分ですが、含量が多いのに苦渋みが弱いというのは一見矛盾するように見えます。この謎を解くため、研究チームは网羅的な代謝物解析(メタボロミクス)と遺伝子発現解析(トランスクリプトミクス)を組み合わせました。

研究でわかったこと

UPLC-MS/MS(超高速液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析)を用いた解析では、1228種類の代謝物が検出され、うち601種類が両品種間で有意に異なっていました。これらの差のある代謝物は、フラボノイドおよびフラボノール生合成経路に強く集中しており、フラボノイド関連の代謝物が186種類と最も多く検出されました。

特に注目されたのが、渋み・苦みの主要因とされる「カテキン」の内訳です。カテキンには、苦みを主に引き起こす非エステル型(カテキン、ガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキンなど)と、強い持続的な渋みをもたらすエステル型(エピガロカテキンガレート=EGCG、ガロカテキンガレート=GCGなど)があります。分析の結果、黄金芽では非エステル型カテキンが福選9号より有意に少ない一方、エステル型カテキン(EGCG、GCGなど)の量には両品種で明確な差が見られませんでした。エステル型カテキンには抗酸化作用などの機能性も期待されているため、これが保たれていることは、風味の改善と機能性成分の維持という両方の利点につながる可能性があるとされています。

次に、この代謝の違いを生む遺伝子を探るため、新芽のRNAを次世代シーケンサー(イルミナ社製プラットフォーム)で解析したところ、9099個の遺伝子で発現量に差がありました。その中で、非エステル型カテキンの合成に直接関わる酵素をコードする遺伝子「CsLAR(ロイコアントシアニジン還元酵素)」が、黄金芽で顕著に発現が低下していることが確認されました。これは代謝物レベルでの非エステル型カテキンの減少と一致する結果です。一方、同じくカテキン合成に関わる遺伝子ANRの発現には両品種で明確な差はなく、ANSという遺伝子は黄金芽で発現が低下していました。

さらに研究チームは、CsLAR遺伝子の発現を制御する「プロモーター」と呼ばれるDNA領域(約1900塩基対)を両品種からクローニングし、タバコの葉に導入してGUS染色による活性測定を行いました。その結果、両品種のプロモーターはどちらも遺伝子発現を引き起こす活性を持っていましたが、配列を比較すると、嫌気応答に関わるとされる制御配列(ARE)が福選9号のプロモーターにのみ存在するという、1か所だけの違いが見つかりました。両品種のプロモーターには同じ光応答配列が含まれていたため、遮光処理を行って光への反応性を調べたところ、黄金芽ではCsLARの発現量が37%低下したのに対し、福選9号では22%の低下にとどまり、黄金芽の方が光の変化により敏感に反応することが示されました。この結果から、研究チームはプロモーター配列そのものだけでなく、転写因子(遺伝子発現をオン・オフする調節タンパク質)による制御も関与している可能性を指摘しています。実際に、両品種間で発現が異なる転写因子が385個見つかり、AP2/ERF、FAR1、bHLH、RWP-RK、WRKY、MYBといったファミリーに属する転写因子(MYBファミリーで19個、WRKYファミリーで19個など)がCsLARのプロモーター領域に結合しうる配列を持つことも確認されました。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、茶の品種による代謝物の違いを網羅的に調べた基礎研究であり、黄金芽の苦渋みの少なさに関わる可能性のある代謝的・遺伝的な特徴を示したものです。ただし、論文の著者ら自身も指摘している通り、代謝物や遺伝子発現の違いと実際の「苦渋みが少ない」という味覚の関係を直接裏付けるには、今後、精密な官能評価(人が実際に味わって評価する試験)が必要だとしています。また、CsLARの発現を制御している具体的な転写因子を特定するには、酵母ワンハイブリッド法やデュアルルシフェラーゼ法といった追加の分子生物学的な検証実験が必要であるとも述べられています。つまり、今回の結果は黄金芽の風味形成に関わる「候補」を示した段階であり、単一の研究であって、これだけで結論が確定したわけではない点には注意が必要です。なお、本研究はいずれも中国・宜賓学院に所属する研究者によって行われたもので、日本の研究機関や日本の茶に関する記載は要旨・本文中には見当たりませんでした。

まとめ

この研究では、苦渋みの少ない茶品種「黄金芽」と一般的な緑葉品種「福選9号」を比較し、黄金芽では渋み・苦みの主因とされる非エステル型カテキンの蓄積が少ない一方、機能性が期待されるエステル型カテキンは維持されていることが示されました。この違いの背景には、カテキン合成に関わる遺伝子CsLARの発現低下と、光への感受性の違いが関与している可能性が示唆されています。今後、より優れた風味を持つ茶品種の育種に向けた基礎的な手がかりになることが期待されますが、味覚との直接的な因果関係の検証はこれからの課題です。

原著論文の著者・所属:Linghui Wang(Faculty of Agriculture, Forestry and Food Engineering, Yibin University, Yibin 644001, China)、Quan Xu(Faculty of Agriculture, Forestry and Food Engineering, Yibin University, Yibin 644001, China)、Miao Xu(Faculty of Agriculture, Forestry and Food Engineering, Yibin University, Yibin 644001, China)、Xin Tong(Faculty of Agriculture, Forestry and Food Engineering, Yibin University, Yibin 644001, China)、Lianxin Liu(Faculty of Agriculture, Forestry and Food Engineering, Yibin University, Yibin 644001, China)、Ding Tang(Faculty of Agriculture, Forestry and Food Engineering, Yibin University, Yibin 644001, China)、Suyu Xia(Faculty of Agriculture, Forestry and Food Engineering, Yibin University, Yibin 644001, China)、Ji Huang(Faculty of Agriculture, Forestry and Food Engineering, Yibin University, Yibin 644001, China)、Wei Li(Faculty of Agriculture, Forestry and Food Engineering, Yibin University, Yibin 644001, China)、Zhao Xia(Faculty of Agriculture, Forestry and Food Engineering, Yibin University, Yibin 644001, China)、Qiulan Huang(Faculty of Agriculture, Forestry and Food Engineering, Yibin University, Yibin 644001, China)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Linghui Wang, Quan Xu, Miao Xu, et al. Integrated Transcriptomics and Metabolomics Analysis of the Formation Mechanism of Low Bitterness and Astringency in “Huangjinya” Tea. プランツ (2026). DOI: 10.3390/plants15162508. 原著ライセンス: cc-by.