著者の所属・活動拠点の国は、オーストラリアです。
掲載誌:Pest Management Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
オウトウショウジョウバエ(Drosophila suzukii、英名スポッテッド・ウィング・ドロソフィラ)は、ユーラシアと北米でサクランボやベリー類に被害を与える主要な害虫です。一方、南半球での分布は限られています。オーストラリアでは、2024年の国家優先植物病害虫リストで3番目に大きな脅威とされています。
論文の抄録によると、この害虫が世界のどこまで定着しうるかを推定したモデルはこれまでにもありました。しかし、いずれも灌漑の影響を考慮していませんでした。研究チームはこの点を補うため、灌漑を含めた潜在的な分布を推定しました。さらにオーストラリアについては、その分布が果樹などの寄主作物の商業産地とどの程度重なるかを調べました。
何を調べたか
著者らは、生物の生育に適した気候条件から潜在的な分布域を推定するモデル「CLIMEX」を使いました。分布図は、自然の降雨だけを前提にした場合と、灌漑による水の供給を加えた場合を組み合わせて作成しました。
CLIMEXでは、ある場所が生物の生息にどれだけ適しているかを「生態気候指数」という点数で表します。研究チームは、この推定分布図にオーストラリアの寄主作物の栽培地域を重ね、被害の危険がある商業産地を特定しました。
主な結果
推定された潜在的な分布域には、オーストラリアの寄主作物の商業産地がすべて含まれました。
世界全体では、灌漑を考慮すると、推定される分布範囲の広さが6%変化しました。また、分布域内の各地点の生息適性の平均は、生態気候指数で5ポイント高くなりました。さらにCLIMEXの結果から、南米、サハラ以南のアフリカ、東南アジア、オセアニアで分布が広がる可能性が示されました。
研究が示す意味
著者らは、作物の生産地と優先度の高い害虫の潜在的な分布との重なりを、簡潔な手順で評価できることを示したとしています。また、この方法はオーストラリアの他の優先植物病害虫にも、より広いモデル化の枠組みの一部として応用できるほか、他の地域の同様の事例にも使えると述べています。
害虫がどこに定着しうるかを考えるうえで、自然の雨だけでなく灌漑という人の営みも考慮に入れる重要性を示した研究だといえます。
原著論文の著者・所属:Jessica Mae Kriticos(Australian Research Council Training Centre in Plant Biosecurity Canberra Australia; Research School of Biology Australian National University Canberra Australia)、Elle Saber(Australian Research Council Training Centre in Plant Biosecurity Canberra Australia; Research School of Biology Australian National University Canberra Australia)、Eric Stone(Australian Research Council Training Centre in Plant Biosecurity Canberra Australia; Research School of Biology Australian National University Canberra Australia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jessica Mae Kriticos, Elle Saber, Eric Stone. The potential global distribution of Drosophila suzukii , including consideration of irrigation and Australian host cropping areas. Pest Management Science 2026-10-07. DOI: 10.1002/ps.71366. 原著ライセンス:CC BY.