日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
チョコレート、特にカカオを多く含むダークチョコレートは、血圧や血中脂質など心血管の健康に関わる指標との関係が研究されてきました。カカオに含まれるポリフェノールの一種であるフラバノールがその背景にあると考えられており、記憶などの認知機能や気分との関係を調べた研究もあります。しかし、ダークチョコレートと抑うつ症状との関係についての証拠は限られ、特に高齢者を対象とした研究は多くありません。
高齢者は身体の病気、睡眠の問題、社会的なつながりの喪失などにより抑うつが起こりやすいとされます。70歳以上が人口の約23%を占める日本では、抑うつ症状と関連する食習慣を探ることには意味があります。研究チームは、名古屋市に住む地域在住の高齢者を対象に、本人が回答したダークチョコレートの摂取状況と抑うつ症状との関連を調べました。
何をどのように調べたか
研究チームは、国立長寿医療研究センターが行っている高齢者の長期追跡研究のデータを用い、ある一時点の状況を比べる「横断研究」として分析しました。名古屋市緑区の70歳以上の住民に郵送で参加を呼びかけ、2023年6月から2024年8月に調査を受けた人のうち、要介護認定を受けている人や認知機能の低下が疑われる人、必要なデータが欠けている人などを除いた2,957人が分析対象となりました。平均年齢は78.0歳で、48.4%が女性でした。
ダークチョコレートはカカオ70%以上のものと定義され、参加者はアンケートで、過去1週間ほどのチョコレートの摂取頻度と、ダークチョコレートを週1〜2回以上食べている場合はその習慣がどのくらい続いているかを答えました。これをもとに、チョコレートをほとんど食べない群、ダークチョコレート以外のチョコレートを食べる群、ダークチョコレートを2年以下続けている群、2年を超えて続けている群の4つに分けました。なお、食べる量は尋ねておらず、この質問票は正式な妥当性の検証を受けていないと著者らは述べています。
抑うつ症状は、高齢者向けの15項目の質問票(日本語版高齢者用うつ尺度)で評価し、15点中6点以上を「抑うつ症状あり」としました。分析では、年齢、性別、教育年数、所得、体格、喫煙、飲酒、食品摂取の多様性、糖尿病や高血圧などの持病、認知機能の点数といった影響しうる要因を考慮したうえで、各群で抑うつ症状がみられる見込み(オッズ)を比べました。
主な結果
抑うつ症状のある人の割合は4群で8.3%から13.2%の範囲にあり、ダークチョコレートを2年を超えて続けている群で最も低くなっていました。
チョコレートをほとんど食べない群と比べると、ダークチョコレートを2年を超えて続けている群の抑うつ症状のオッズは、多くの要因を考慮した主要な分析で0.73倍でした。ただし、この推定値は統計的な不確かさの範囲が1をわずかにまたいでおり(95%信頼区間0.53〜1.01)、明確な差とは言い切れない結果でした。一方、チョコレートを食べる人だけを対象に、ダークチョコレート以外を食べる群と比べた追加の分析では、2年を超えて続けている群のオッズは0.62倍で、統計的に意味のある低さが示されました。ダークチョコレートを2年以下続けている群では、どちらの比較でもほぼ差はみられませんでした。
抑うつ症状の判定基準を変える、得点そのものを分析する、抗うつ薬を使う人を除く、欠けたデータを統計的に補うといった複数の確認のための分析でも、2年を超えて続けている群の推定値はおおむね同じ方向と大きさでした。一方、継続期間を4段階に細かく分けた分析では、期間によって関連が違うという明確な統計的証拠は得られませんでした。
この研究が示すこと
著者らは、名古屋市の地域在住高齢者において、ダークチョコレートを2年を超えて食べ続けていると答えた人で抑うつ症状のオッズが低いという関連がみられたと報告しています。ただし主要な分析には不確かさが残っています。また、一時点の調査であるため、チョコレートが抑うつ症状を減らすという因果関係は示せず、抑うつ症状が食習慣に影響している可能性(逆の因果)も否定できません。継続期間が長いほど関連が強まるという関係も確立されていません。
さらに、摂取量や実際のカカオポリフェノールの量は調べておらず、健康への意識や食生活全体など測りきれなかった要因が結果に影響している可能性もあります。対象は一つの都市部に住む比較的自立した高齢者に限られます。著者らは、カカオの抗炎症作用などが関わる可能性に触れつつも、本研究ではそれらを測定していないため仮説にとどまるとしています。この研究は、高齢者の食習慣と心の健康の関係について、日本の地域在住高齢者のデータから一つの手がかりを示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Shinnosuke Nosaka(Department of Preventive Gerontology, Center for Gerontology and Social Science, Research Institute, National Center for Geriatrics and Gerontology)、Sho Nakakubo(Digital Health Research Team, Center for Gerontology and Social Science, Research Institute, National Center for Geriatrics and Gerontology)、Kanon Abe(Department of Preventive Gerontology, Center for Gerontology and Social Science, Research Institute, National Center for Geriatrics and Gerontology)、Yuka Misu(Department of Occupational Therapy, Faculty of Rehabilitation, Kobe Gakuin University; Department of Preventive Gerontology, Center for Gerontology and Social Science, Research Institute, National Center for Geriatrics and Gerontology)、Yuto Kiuchi(Department of Preventive Gerontology, Center for Gerontology and Social Science, Research Institute, National Center for Geriatrics and Gerontology)、Kota Tsutsumimoto(Department of Preventive Gerontology, Center for Gerontology and Social Science, Research Institute, National Center for Geriatrics and Gerontology)、Kentaro Nakamura(Health Science Research Unit, R&D Division, Meiji Co., Ltd)、Midori Natsume(Health Science Research Unit, R&D Division, Meiji Co., Ltd)、Mayuki Sasaki(Health Science Research Unit, R&D Division, Meiji Co., Ltd)、Hiroyuki Shimada(Cognitive Function Research, Aging Research (Partnership Field), Nagoya University Graduate School of Medicine; Department of Preventive Gerontology, Center for Gerontology and Social Science, Research Institute, National Center for Geriatrics and Gerontology; Medical Science Division, Department of Medical Sciences, Graduate School of Medicine, Science and Technology, Shinshu University)、Takao Suzuki(Department of Preventive Gerontology, Center for Gerontology and Social Science, Research Institute, National Center for Geriatrics and Gerontology)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shinnosuke Nosaka, Sho Nakakubo, Kanon Abe, et al. Self-reported dark chocolate consumption and depressive symptoms among community-dwelling older adults in Nagoya, Japan: a cross-sectional study. Frontiers in Nutrition 2026-09-11. DOI: 10.3389/fnut.2026.1924057. 原著ライセンス:CC BY.