著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:カロリー表示はなぜ効きにくいのか

米国では医療保険制度改革法(Affordable Care Act)の一環として、チェーン飲食店にメニューへのカロリー表示が義務づけられ、2018年に施行されました。しかし著者らによると、これまでの多くの研究では、カロリー表示だけでは摂取エネルギーを減らす効果は限られるとされています。一方で、表示の位置や添える情報など、条件によっては効果が見られるという報告もあります。

研究チームが注目したのは「注意の奪い合い」という観点です。食べ物はもともと人の関心を強く引く対象であり、特に本物に近い料理写真は、意識しなくても自然に目を引きつけると考えられています。そうした写真が並ぶメニューでは、カロリーの数字は見られにくくなるのではないか。著者らはこの仮説を、視線の動きを記録する方法(アイトラッキング)で確かめようとしました。

何を調べたか:メニューを選ぶときの視線を記録

分析対象は、米国南東部の公立大学に通う学部生82人です。参加者はノートパソコンの画面に表示された簡略版のデジタルメニューから、それぞれ「ふだん食べるような一食」を選びました。メニューの品目は、Arby's、Burger King、Taco Bell、Chick-fil-Aの4つのファストフード店から取られています。

メニューには、各品目の下にカロリーを表示するかどうか、各品目に料理写真を添えるかどうかという条件の違いがありました。品目数やエネルギー密度(重さあたりのカロリー)の構成も変え、参加者一人あたり12種類のメニューを見ました。ノートパソコンに取り付けた画面型の視線計測装置で、参加者が画面のどこを見ていたかを記録しています。

研究チームは、視線がある場所にとどまった回数(注視回数)を、自然に目が向く「自動的な注意」の目安として用いました。また、そこを見ていた合計時間(注視時間)を、意識的にじっくり検討する「熟慮的な注意」の目安としました。さらに、菜食や炭水化物制限などで特定の食品の摂取を何らかの形で制限していると答えた人(12人)と、そうでない人の違いも比べています。

主な結果:写真はカロリー表示から視線を奪うが、その逆は起きない

論文によると、料理写真があるメニューでは、写真がないメニューに比べてカロリー表示への注視回数が平均で約8.3回少なく、カロリー表示を見ていた時間も平均で約4.4秒短くなりました。料理写真が加わると、カロリーの数字に向けられる視線が減ったことになります。

反対に、カロリー表示があるかどうかは、料理写真への注視回数にも注視時間にも統計的に意味のある違いをもたらしませんでした。写真はカロリー表示への注意を減らしましたが、カロリー表示が写真への注意を減らすことはありませんでした。著者らはこの一方向の関係を「非対称性」と表現しています。

また、カロリー表示をどれだけ見るかには個人差がほとんどなく、表示があれば多くの人がそれを見ていました。これに対して料理写真への注意には大きな個人差があり、写真をよく見る人は一貫してよく見る傾向がありました。

食べるものを制限している人は、そうでない人に比べてカロリー表示への注視回数が平均で11.3回多くなりました。ただし、カロリー表示を見ていた合計時間には、統計的に意味のある差は見られませんでした。

研究が示すこと

著者らは、料理写真が引き起こす強い関心がカロリー情報から注意をそらし、公衆衛生の施策としてのカロリー表示の効果を弱めていると結論づけています。メニューにカロリーの数字を載せるだけでは、写真が多い一般的なファストフードのメニューで人の注意の向かう先を変えるには不十分かもしれない、という見方です。

一方で著者らは、カロリー表示をより多く見たからといって、低カロリーの品を選ぶとは限らないとも述べています。それでも、表示が判断に役立つためには、まず目に留まる必要があります。この研究は、カロリー表示の効果を考えるうえで、情報があるかどうかだけでなく、メニューの中で他の要素とどう注意を奪い合っているかが重要であることを示しています。

原著論文の著者・所属:Rachel L. Bailey(School of Communication, Florida State University, Tallahassee, FL 32306, USA)、Sun Young Park(School of Communication, Florida State University, Tallahassee, FL 32306, USA)、Pooja Ichplani(School of Communication, Florida State University, Tallahassee, FL 32306, USA)、Sol Lee(School of Communication, Florida State University, Tallahassee, FL 32306, USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rachel L. Bailey, Sun Young Park, Pooja Ichplani, et al. Eyes on the Fries: An Eye-Tracking Study of Motivated Attention and Calorie Labeling on Fast-Food Menus. Nutrients 2026-08-11. DOI: 10.3390/nu18162620. 原著ライセンス:CC BY.