著者の所属・活動拠点の国は、マレーシア、インドネシアです。

掲載誌:Journal of Food Science and Technology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

食品包装には、石油など再生できない資源から作られるプラスチックや合成添加物が多く使われ、環境への負担が問題になっています。そこで、分解されやすい天然由来の素材に、植物由来の成分を組み合わせた包装の開発が進められています。中でも「アクティブ包装」は、酸化を抑える働きや微生物の増殖を抑える働きを包装材そのものに持たせ、食品の保存に積極的に関わる包装です。

植物の精油には抗酸化作用や抗菌作用が知られています。一方で、揮発しやすく、光・酸素・熱に弱いため、そのままでは食品分野で使いにくいという課題があります。このため、精油を何かで包み込んで保護する「カプセル化」が必要になります。

今回の研究チームは、クローブなどに含まれる香り成分オイゲノールを、魚由来のゼラチンで作る極細繊維のフィルムに閉じ込めることを試みました。著者らは、魚ゼラチンがイスラム教徒の消費者にも受け入れられるハラールの素材である点にも触れています。さらに、筒状の糖分子で内側の空洞に他の分子を抱え込める「β-シクロデキストリン」をオイゲノールと同時に加えると、保護と機能がどう変わるかも調べました。論文によれば、β-シクロデキストリンを高分子の溶液へ精油と一緒に直接加えるやり方や、魚ゼラチンを2種類の紡糸方法で同じ研究の中で比べた例は、これまでほとんど報告されていません。

どのように作り、何を調べたか

フィルムは「電界紡糸(エレクトロスピニング)」という方法で作られました。これは、高い電圧をかけて液体を細く引き伸ばし、1マイクロメートルより細い繊維を作る技術です。加熱をほとんど必要としないため、熱に弱い成分も閉じ込めやすいとされています。

研究チームは2つの方式を比べました。1つは、ゼラチンとオイゲノールなどを混ぜた溶液を1本の針から押し出す「単一ノズル方式」です。もう1つは「同軸方式」で、二重構造の針を使います。内側からはオイゲノール(またはオイゲノールとβ-シクロデキストリン)を含む溶液を、外側からはゼラチンだけの溶液を出します。こうすると、芯の成分をゼラチンの外皮で覆った二重構造の繊維ができます。オイゲノールの量はゼラチンの重さに対して1%、3%、5%の3段階とし、β-シクロデキストリンはオイゲノールと分子の数が同じになる割合で加えました。

できたフィルムについて、電子顕微鏡で繊維の形と太さを観察しました。あわせて、赤外分光で成分同士の結びつき方を、熱分析で熱への強さを調べました。オイゲノールがどれだけ繊維内に残ったか(封入効率)、抗酸化性、細菌とカビに対する増殖抑制効果も測定しています。

主な結果

どのフィルムでも、表面がなめらかで欠陥のない円柱状の繊維ができました。ゼラチンだけの繊維が最も細く、平均の直径は265ナノメートルでした。オイゲノールを加えると繊維は太くなり、β-シクロデキストリンを多く加えると太さのばらつきが大きくなりました。一方、同軸方式の繊維は単一ノズル方式より細い傾向がありました。赤外分光では新しい化学結合を示す信号は現れませんでした。著者らはこの結果から、オイゲノールが水素結合などの比較的弱い相互作用によってゼラチン内に保持されていると解釈しています。

熱分析では、オイゲノールやβ-シクロデキストリンを加えると、フィルムが融ける温度が上がりました。同軸方式では、ゼラチンだけのフィルムが191℃だったのに対し、両方を加えたフィルムでは201℃に達しました。オイゲノールが繊維内に残った割合は、単一ノズル方式で78.9〜87.2%でした。β-シクロデキストリンを加えると89.8%まで高まり、同軸方式でオイゲノールとβ-シクロデキストリンを併用したフィルムでは最高の90.6%でした。

抗酸化性は、オイゲノールの量が多いほど高くなる傾向がありました。有害な反応を起こしやすい分子(ラジカル)を消す能力を調べる試験では、83.3〜96.6%の値が得られました。最も高かったのは、同軸方式でオイゲノール5%とβ-シクロデキストリンを併用したフィルムです。ただし、鉄イオンを還元する力でみた別の抗酸化試験では、同軸方式に限り、β-シクロデキストリンを加えると値がやや下がりました。

微生物への効果は、フィルムの小片を培地に置き、周囲にできる菌が育たない範囲の直径で評価しました。黄色ブドウ球菌では9.8〜14.5ミリ、大腸菌では8.6〜14.0ミリで、オイゲノールが多いほど抑制は強まりました。同軸方式は単一ノズル方式より良い傾向を示しました。一方、細菌に対しては、β-シクロデキストリンを加えると抑制効果がむしろ下がりました。著者らは、オイゲノールがβ-シクロデキストリンの空洞に強く抱え込まれ、短い試験時間内に十分放出されなかったためと考えています。対照的に、カビの一種である黒コウジカビ(アスペルギルス・ニガー)に対しては、同軸方式でオイゲノール5%とβ-シクロデキストリンを併用したフィルムが最も強い抑制を示し、その直径は15.5ミリでした。

研究が示すこと

著者らは総合的に、同軸方式でオイゲノール5%とβ-シクロデキストリンを組み合わせたフィルムが、熱への強さと機能性の両面で最も優れていたと結論づけています。ゼラチンの外皮とβ-シクロデキストリンによる二重の保護が、揮発しやすい精油成分を繊維内にとどめる助けになったと考えられます。ただし、β-シクロデキストリンを加えると細菌への効果がかえって下がった結果もあり、成分を守ることと素早く放出することの兼ね合いも見えてきました。

今回の評価は実験室でのフィルムの性質に関するもので、実際の食品の保存に使った試験はまだ行われていません。著者らも、実際の食品で試す価値があるとしています。この研究は、魚ゼラチンと植物由来成分を組み合わせた環境にやさしいアクティブ包装の材料として、作り方の違いが性能を左右することを示した一例といえます。

原著論文の著者・所属:Kaiser Mahmood(Laboratory of Halal Science Research, Halal Products Research Institute, Universiti Putra Malaysia, 43400, Serdang, Selangor, Malaysia; Postgraduate School, Universitas Brawijaya, Malang, East Java, 65145, Indonesia)、Hanisah Kamilah(Department of Crop Science, Faculty of Agricultural and Forestry Sciences, Universiti Putra Malaysia, Sarawak Campus, Bintulu, Sarawak, Malaysia; Laboratory of Halal Science Research, Halal Products Research Institute, Universiti Putra Malaysia, 43400, Serdang, Selangor, Malaysia)、Yus Aniza Yusof(Department of Process and Food Engineering, Faculty of Engineering, Universiti Putra Malaysia, 43400, Serdang, Selangor, Malaysia; Laboratory of Halal Science Research, Halal Products Research Institute, Universiti Putra Malaysia, 43400, Serdang, Selangor, Malaysia)、Erni Sofia Murtini(Faculty of Agricultural Technology, Universitas Brawijaya, Malang, East Java, 65145, Indonesia)、Nurul Huda(Postgraduate School, Universitas Brawijaya, Malang, East Java, 65145, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kaiser Mahmood, Hanisah Kamilah, Yus Aniza Yusof, et al. Eugenol doped fish gelatin electrospun nanofiber film for food active packaging. Journal of Food Science and Technology 2026-07-31. DOI: 10.1007/s13197-026-06841-2. 原著ライセンス:CC BY.