この研究は、イラン、スペインの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
プラスチック廃棄物の蓄積が世界的な課題となる中、再生可能な原料からつくられる生分解性フィルムや食べられる(可食)フィルムが代替包装材として注目されています。著者らは、魚ゼラチン(FG)とカルボキシメチルセルロース(CMC)という2種類の天然素材を組み合わせたフィルムを基礎に、そこへ「ペルシャガム」(PG)を加えることで性質がどう変わるかを調べました。
ペルシャガムは、主にイランに分布する山地のアーモンドの木(Amygdalus scoparia Spach)の樹皮からにじみ出る天然の多糖類です。水をよく保つ性質や乳化のはたらき、フィルムを形成する能力をもつ素材として関心を集めてきました。一方で論文では、FG・CMC・PGの3成分を組み合わせた系について、液体の流れ方(レオロジー)と、できあがったフィルムの性質との関係を体系的に調べた報告はこれまでなかったと述べられています。本研究はその空白を埋めることを狙ったものです。
何をどう調べたか
研究チームは、FG・CMC・PGの重量比を60/40/0(PGなしの対照)、54/36/10、48/32/20、42/28/30、36/24/40の5通りに変え、溶液を平らな容器に流し込んで乾かす「溶液キャスティング法」でフィルムをつくりました。ここで重要なのは、PGを増やすと同時にFGとCMCの割合が減っていく設計になっている点です。著者ら自身も、観察された変化はPGが増えた効果だけでなく、FGとCMCが減った効果との組み合わせとして解釈すべきだと繰り返し注意を促しています。
まず、フィルムになる前の溶液について、ずり速度を変えながら粘度を測る定常せん断試験と、小さな振動を加えて弾性的な性質(貯蔵弾性率G′)と粘性的な性質(損失弾性率G″)を分ける動的粘弾性試験を行いました。できあがったフィルムについては、厚み、引っ張った時の強さ(引張強度)、切れるまでの伸び(破断伸び)、水蒸気の通りやすさ(水蒸気透過度)、水への溶けやすさ、水を吸って膨らむ度合い、光の通りにくさ(不透明度)を測定しています。さらに分子レベルの構造や表面の形を調べるために、赤外分光(FT-IR)、X線回折(XRD)、示差走査熱量測定(DSC)、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)による観察も行いました。
主な報告結果
溶液はどの配合でも、かき混ぜる力を強めるほど粘度が下がる「シアシニング(擬塑性)」のふるまいを示しました。これはフィルムを流し込んで均一に広げる工程に関わる性質です。興味深いことに粘度の変化は単純ではなく、PG置換10%では粘度と稠度係数が上がった一方、20〜40%では下がりました。ずり速度10/秒での粘度は、対照の366.30 mPa·sに対し10%で416.30 mPa·sまで上昇し、40%では185.90 mPa·sまで低下しています。著者らは10%では分子同士のつながりが増えて均一な網目ができ、それ以上では網目の組み替えと不均一さの増加が起きたのではないかと考察しています。なお、すべての配合は500 mPa·s未満で、キャスティングに適した範囲だったと述べられています。
振動試験では、PGを含まない対照は低い周波数では粘性的、高い周波数では弾性的という「弱いゲル」の挙動を示しました。これに対しPGを含む配合では、測定した全周波数でG′がG″を上回り、より固体的・弾性的な応答へと傾きました。ただし著者らは、これは必ずしも網目が強くなったことを意味せず、連続的に力を加えた時には高置換の系のほうが流れやすかったことと合わせて、配合に応じた網目の再編成として理解すべきだとしています。
フィルムの機械的性質ははっきり低下しました。引張強度は対照の21.02 MPaから40%PGで3.46 MPaへ、破断伸びは67.39%から39.03%へと下がっています。著者らはこの引張強度の低下を約84%の損失と計算し、取り扱いや加工、包装の際にかかる力に耐える能力を大きく損なう、これらの配合の重要な実用上の制約だと明記しています。水蒸気透過度も0.741から0.948 g mm/kPa h m²へ、対照比で約28%増加しており、水分バリア性能は悪化しました。SEM観察では、PGが多い条件で膜の連続性が乱れ、微細な割れや孔ができていて、これが水蒸気の通り道になりうると説明されています。
一方で改善した性質もあります。水への溶解度は対照の約37%から40%PGで22.22%へと下がりました。これは高水分の食品に接する用途を考えるうえでの指標となる性質です。著者らは、ペルシャガムがもともと水に溶けにくい画分を多く含むことがこの一因かもしれないと述べつつ、使用したガムの純度や溶解する画分の比率を独自に測定していないため、その寄与は直接には決められないと限界を明示しています。膨潤率は10%置換を除いて全体として上昇し、不透明度は1.24から0.82 UA/mmへ下がって、PGがフィルムの透明性を高めたと報告されています。厚みは0.055〜0.057 mmの範囲で、配合間に有意な差はありませんでした。
この研究が示すこと
この研究が伝えているのは、天然素材を混ぜ合わせたフィルムの性質が「成分を足せば良くなる」という単純な足し算では決まらないということです。ペルシャガムを少し加えた段階では溶液の粘度が上がり、全体として透明性が増し、水への溶けにくさも改善しました。しかし同じ方向にさらに進めると、強度と伸びが大きく失われ、水蒸気を通しやすくなりました。著者らはこれを、PGが増えたという一面ではなく、3つの高分子それぞれの寄与とその相互作用の総和が変わった結果として説明しています。
著者らの結論は、FG/CMC/PGの三成分フィルムが調整可能な機能特性を示し、ペルシャガムが生分解性フィルムの天然改質剤として可能性をもつということです。同時に、PGを多く含む配合は機械的強度と水分保護の両方が損なわれるため、実用に向けてはさらなる改良と用途ごとの検証が必要だとも述べられています。素材の配合比そのものが性能を左右する調整ノブになりうること、そしてその調整には得るものと失うものの両方があることを、この研究は具体的な測定値とともに示しています。
著者:Seyed Fakhreddin Hosseini(Department of Seafood Processing, Faculty of Marine Sciences, Tarbiat Modares University, P.O. Box 46414-356, Noor, Iran)、Maryam Allahyari(Department of Seafood Processing, Faculty of Marine Sciences, Tarbiat Modares University, P.O. Box 46414-356, Noor, Iran)、M. Carmen Gómez-Guillén(Instituto de Ciencia y Tecnología de Alimentos y Nutrición (ICTAN, CSIC), Calle José Antonio Novais, 6, Madrid, 28040, Spain)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Seyed Fakhreddin Hosseini, Maryam Allahyari, M. Carmen Gómez-Guillén. Rheological, physicochemical, and structural properties of fish gelatin/carboxymethyl cellulose/Persian gum ternary edible films. Scientific Reports 2026-09-27. DOI: 10.1038/s41598-026-73069-7. 原著ライセンス:CC BY.