タラッリは、南イタリア・プーリア地方などで親しまれてきたリング状の焼き菓子で、小麦粉をベースにシンプルな配合で作られる伝統食品です。近年、こうした伝統的な焼き菓子に、通常は廃棄されがちな農産物の副産物や、機能性が注目される代替穀物を組み合わせることで、栄養価や香り、食感を高めようとする研究が進められています。今回紹介する研究では、レンズ豆の種皮(豆の外皮部分)と、大麦と野生コムギを交配して生まれた穀物であるトリトルデウムの粉を使い、タラッリの配合を変えることで、成分や香りの成分、食べたときの感じ方にどのような変化が起きるかを調べました。

レンズ豆の種皮とトリトルデウム粉で何が変わったのか

研究チームは、通常の小麦粉に加えて、レンズ豆の種皮やトリトルデウム粉を配合した複数のタラッリを試作し、それぞれの化学組成、代謝物のプロファイル(メタボローム解析)、そして香りや食感などの官能評価を比較しました。レンズ豆の種皮を加えたタラッリでは、食物繊維と灰分(ミネラル分の指標となる成分)の含有量が明確に増加したことが確認されています。さらにメタボローム解析では、主要なポリフェノール化合物が、無添加の対照サンプルと比べて最大550倍にまで増加していたと報告されています。

一方でトリトルデウム粉を配合した場合には、ベタインという成分やアルデヒド類がより多く含まれるようになり、香りに関わる揮発性成分のプロファイルが豊かになったとされています。実際、機能性素材を加えたタラッリ全体では、アルデヒド類・ケトン類・ピラジン類・フラン類といった香気成分が増え、より複雑な香りのプロファイルを示したと述べられています。また、食後の血糖値上昇の目安となる予測グリセミック指数についても、有意な低下がみられたことが報告されています。

官能評価では、これらの機能性素材を加えたタラッリについて、全体的な受容性は良好であり、香りの豊かさや色の濃さが増し、かたさ(食感の硬度)は逆に減少したという結果が示されています。つまり、栄養面での変化だけでなく、味わいや食感といった食べる楽しみの面でも、受け入れられやすい方向に変化した可能性が示唆されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意点

この研究は、レンズ豆の種皮やトリトルデウム粉を使ったタラッリという特定の配合・製法のもとで得られた結果であり、他の焼き菓子や別の配合比率、あるいは異なる原料の産地・品種でも同様の結果が得られるとは限りません。また、ポリフェノール含有量の増加やグリセミック指数の低下といった数値は、あくまで実験室レベルでの化学分析・メタボローム解析・予測に基づくものであり、これらの変化が実際の健康効果に直結すると断定するものではない点に留意が必要です。官能評価についても、対象となった評価者の範囲内での結果である可能性があり、より広い消費者層での評価は今後の課題となり得ます。

研究を行ったのは、バーリ・アルド・モロ大学(イタリア)の生物科学・生命工学・環境学科および土壌・植物・食品科学科、国立研究評議会(CNR)傘下のバイオメンブレン・バイオエネルギー・分子バイオテクノロジー研究所に所属する研究者らです。今回提供された情報の範囲では、日本の研究機関や日本の食品・食習慣との直接的な関わりについての記載はありませんでした。

まとめ

この研究は、伝統的な焼き菓子タラッリに、通常は使われずに終わることの多いレンズ豆の種皮と、大麦と野生コムギの交配種であるトリトルデウムの粉を組み合わせることで、食物繊維やポリフェノール、香り成分といった観点から製品の特性がどのように変わるかを検討したものです。栄養成分の変化や予測グリセミック指数の低下、香りや食感の変化などが報告されている一方で、これは一つの研究であり、その結果がすべての条件や消費者に当てはまると結論づけられたわけではありません。今後、より幅広い検証が積み重ねられることで、こうした副産物や代替穀物を活用した食品づくりの可能性がさらに明らかになっていくことが期待されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Giusy Rita Caponio, Federica De Bellis, Marica Troilo, et al. Functional enhancement of traditional taralli through lentil hulls and tritordeum flour integration: nutritional, metabolomic, and sensory insights. フード・ケミストリー:エックス (2026). DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104201. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.