生ハムやサラミのような「ドライ発酵ソーセージ」は、加熱せずに乳酸菌などの微生物のはたらきと乾燥・熟成によって作られる保存食品です。発酵や熟成の過程をどのような微生物が担うかによって、風味や食感、そして保存性が変わってくることが知られています。近年では、食品そのものだけでなく、食肉加工工場の環境中から分離した乳酸菌を「スターター菌」として活用し、品質や安全性の向上に役立てようとする研究が進められています。今回紹介するのは、そうした食肉加工環境由来の乳酸菌2株を使い、牛肉のドライ発酵ソーセージを試作して品質を調べた研究です。

研究でわかったこと

この研究では、食肉加工工場の生産環境から分離された2種類の乳酸菌株、Lactiplantibacillus plantarum OP1株とLacticaseibacillus paracasei OP3株を使い、牛肉のドライ発酵ソーセージを試作しました。実験では、塩のみを加えた対照区(C)、発色剤などを含む「キュアリング剤」を加えた区(P)、そしてOP1株またはOP3株と塩を加えた2つの区、合計4つの条件のソーセージが用意されました。これらは35日間の熟成後と、さらに真空包装のまま3ヶ月間冷蔵保存した後に分析されています。

その結果、乳酸菌の総菌数は3ヶ月の保存後も1グラムあたり8.19~9.64 log CFU(コロニー形成単位)という高いレベルで維持されていたと報告されています。さらに、OP1株・OP3株を加えた区では、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)や、食品衛生上注意が必要とされるコアグラーゼ陽性ブドウ球菌の増殖が、対照区と比べて統計的に有意に抑えられていたことが示されました。このことから、これらの菌株には微生物学的な安定性を高め、望ましくない菌の増殖を抑える「バイオプロテクション(生物学的保護)」の可能性があると論じられています。

成分や食感への影響も調べられており、特にOP3株を加えた区では水分の抜け(脱水)が大きく進んでいたことが観察されました。これに伴い、たんぱく質含量や塩分濃度が相対的に高くなり、また硬さ(82.39ニュートン)やガム性、咀嚼性といった食感の指標も有意に増加したとされています。加えて、両菌株とも酸化還元電位(ORP、酸化のしやすさを示す指標)を有意に低下させ、脂質の酸化度合いを示すTBARS値についても、OP1株では有意に低下し、OP3株では感覚的に検知できるとされる限界値を下回る水準に保たれていたと報告されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、特定の食肉加工環境から分離された2種類の乳酸菌株を用いて、牛肉ドライ発酵ソーセージという特定の条件下で品質を調べたものです。得られた結果は、あくまでこの実験条件のもとでの観察であり、他の原料肉や製法、あるいは他の乳酸菌株にそのまま当てはまるとは限りません。また、微生物の増殖抑制や酸化安定性の向上が確認されたことは、直接的に「健康への効果」や「食品としての優劣」を意味するものではなく、あくまで品質・保存性に関わる物理化学的・微生物学的な特性の一つとして報告されている点に留意が必要です。一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。

まとめ

本研究では、食肉加工環境から分離された乳酸菌L. plantarum OP1株とL. paracasei OP3株を牛肉ドライ発酵ソーセージのスターター菌として用いたところ、望ましくない菌の増殖抑制や酸化安定性の向上といった品質面での特徴が見られたことが報告されました。特にOP3株では食感面での変化も大きかったとされています。今後、こうした食肉加工環境由来の乳酸菌が発酵食肉製品の品質改善にどう活用できるか、さらなる研究の積み重ねが期待されるところです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:Lactiplantibacillus plantarum OP1株およびLacticaseibacillus paracasei OP3株が牛肉ドライ発酵ソーセージの品質に及ぼす影響(アプライド・サイエンシズ・2026年08月)