著者の所属・活動拠点の国は、イギリスです。
掲載誌:Ecology and evolution
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
海鳥の餌となる小魚の分布を細かく知りたい
海鳥は世界的に最も絶滅の危機にある鳥類グループの一つです。北海でも、ここ数十年で多くの海鳥の個体群が減少しています。その背景には、気候変動、商業漁業、餌の得やすさなどが複合的に関わっていると考えられています。特に繁殖期の海鳥は、営巣地の近くで餌を探さなければならず、必要なエネルギーも多くなります。そのため、身近な海域にどれだけ餌があるかが重要になります。
北海の多くの海鳥は、群れで泳ぐ小型の魚を餌にしています。こうした魚は「フォレージフィッシュ(餌魚)」と呼ばれます。その代表が、イカナゴの仲間であるサンドイールと、ニシンの仲間の小魚スプラットです。餌魚は寿命が短く、個体数が急増と急減を繰り返します。このため、捕食者にとって餌がどれだけ得られるかを評価するには、分布と量が場所と時期によってどう変わるかを把握する必要があります。
しかし、サンドイールの資源評価は北海を7つの広い管理海域にまとめた単位で行われています。海鳥と餌の関係を調べるには、この単位では粗すぎます。海底の砂をすくい取る調査は精度が高い一方で、対象が局所的です。また、サンドイールには浮き袋がないため、音波を使った魚群探知では捉えにくいという問題があります。研究チームは、餌魚の量を細かな空間・時間単位で推定したモデルがないことを重要な知識の空白と位置づけました。そして、北海全域を対象に、この2種の量の分布を細かく推定することを目指しました。
性格の異なる調査を一つのモデルにまとめる
著者らは、2000年から2020年までの複数の漁業独立調査を組み合わせました。漁業独立調査とは、商業漁獲とは別に、科学目的で行われる調査です。用いたデータは次のとおりです。サンドイールについては、範囲は限られるものの狙いを絞った冬季の採泥調査。スプラットについては、餌魚を対象とするものの実施時期が限られる音響調査。両種に共通して、北海を広く長期間カバーする底引き網調査です。
底引き網は本来、海底付近の魚を対象とする漁具です。サンドイールは小さく細長く、砂に潜ることもあるため、網に入りにくいとされてきました。そのため、底引き網調査のデータはこれまでサンドイールの研究には使われていませんでした。研究チームは、魚の体長ごとの漁具の捕獲効率を補正したうえで、これらのデータを精度の高い採泥調査と統合しました。調査の種類による違いもモデルの中で考慮しています。著者らによれば、これらのデータを一つの時空間モデルに統合してサンドイールを扱ったのは、この研究が初めてです。
繁殖期の海鳥が実際に食べられる大きさに注目するため、サンドイールは体長16センチ以下を対象としました。この上限は、雛への給餌に関する文献をもとに設定されたものです。すべての大きさを含めて解析し直した場合も、結果はおおむね同様でした。
解析にはベイズ統計に基づく時空間モデルを用いました。このモデルでは、水深、海底の底質、溶存酸素などの環境条件との関係を推定します。それに加えて、環境条件では説明しきれない場所と年ごとの変動も推定します。これらをもとに、北海全域について10キロメートル間隔の格子で、毎年7月時点の量を予測しました。なお、サンドイールの予測は量の相対的な指標であるのに対し、スプラットの予測は絶対量に近い推定です。著者らは、2種の量を直接比べることはできず、分布の傾向だけを比較できるとしています。
主な結果
検証用に取り分けたデータに対して、両種のモデルの予測は観測値とよく一致しました。サンドイールの空間分布の予測は、先行研究のモデルと相関係数0.75でおおむね一致しました。資源評価と年ごとの変動を比べると、一致の度合いは海域によって異なりました。最も一致したのはスカゲラク海峡と北海北部・中部を含む海域で、相関係数は0.75でした。一方、他の海域では弱い相関にとどまりました。スプラットの年変動は、国際海洋探査委員会(ICES)の資源評価と中程度に相関しました(相関係数0.555)。
環境条件との関連も報告されています。サンドイールの量は、溶存酸素濃度や海底の傾斜と正の関連を、シルト(細かな泥)の含有量などと負の関連を示しました。また、水深75メートルより浅い場所で多いと予測されました。スプラットの量は、海底付近の流れの速さと負の関連を、海底の傾斜などと正の関連を示しました。水深200メートル未満の場所や、植物プランクトン濃度が高い場所で多いと予測されました。これらは関連として示されたものであり、因果関係を確かめたものではありません。
サンドイールは、北海の主な砂堆(海底の砂の高まり)に分布すると予測されました。これは、主要な漁場とおおむね重なっていました。さらに、漁場に隣接する海域にも中程度の量が予測されました。こうした海域は、地域の捕食者にとって重要である可能性があると著者らは述べています。シェトランド諸島周辺や北海北部の一部などは、資源評価が行われていない海域です。これらの海域についても推定を示し、その地域の量を示す唯一の推定値となりました。各海域とも、年ごとの大きな増減が見られました。
スプラットは、当初は主に北海南東部に分布していました。その後、時間とともに西側の英国沿岸へと広がり、スコットランド東岸沖でも増加が見られました。北海全体では、21年間の調査期間を通じて増加傾向を示しました。その中で、おおむね3〜4年ごとに多い年と少ない年を繰り返していました。
環境条件では説明しきれない変動も分析されました。サンドイールでは、この変動が南部・西部で高い状態から、北部中央で高い状態へと時間とともに移っていきました。スプラットでは、この変動の影響が強く表れました。著者らは、選んだ環境条件だけではスプラットの分布を十分に説明できず、ほかの要因が関わっている可能性があると考えています。また、スプラットについては、音響調査と底引き網調査で方法も調べる水深の範囲も大きく異なります。著者らは、このことが真の個体数の推定に不確かさをもたらした可能性を指摘しています。
研究が示すもの
この研究は、北海全域でサンドイールとスプラットの量を、過去約20年にわたって細かな空間・時間単位で推定したものです。サンドイールには使えないと考えられてきた底引き網調査のデータも、補正して統合すれば妥当な結果を出すモデルに活用できることを示しました。著者らは、推定した分布データを公開しています。これにより、海鳥などの捕食者と餌の関係を広い範囲で調べるための基盤が整いました。
原著論文の著者・所属:Benaksas S(Ecology & Evolutionary Biology, School of Biosciences, University of Sheffield Sheffield UK.)、Lynam C(Centre for Environment, Fisheries and Aquaculture Science, Lowestoft Laboratory Suffolk UK.)、Daunt F(UK Centre for Ecology & Hydrology, Bush Estate Midlothian UK.)、Nnanatu CC(Centre for Environment, Fisheries and Aquaculture Science, Lowestoft Laboratory Suffolk UK.)、van der Kooij J(Centre for Environment, Fisheries and Aquaculture Science, Lowestoft Laboratory Suffolk UK.)、Webb TJ(Ecology & Evolutionary Biology, School of Biosciences, University of Sheffield Sheffield UK.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Benaksas S, Lynam C, Daunt F, et al. Seabird Prey in Space and Time: Combining Multiple Datasets to Model the Distribution of Sandeel (<i>Ammodytes marinus</i>) and Sprat (<i>Sprattus sprattus</i>) in the North Sea. Ecology and evolution 2026-10-29. DOI: 10.1002/ece3.74570. 原著ライセンス:CC BY.