日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

魚介類に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸には、炎症を抑えたり酸化ストレスを軽減したりする働きがあると考えられており、加齢に伴う難聴(加齢性難聴)を防ぐ可能性が以前から議論されてきました。加齢性難聴は聞こえにくさそのものだけでなく、認知症や社会的孤立、生活の質の低下とも関連が指摘される身近な健康課題です。ただし、これまでの研究では食事中の脂肪酸と難聴の関係について一貫した結論が得られていませんでした。今回、東北大学大学院医学系研究科の研究グループが、日本人を対象にこの関係を改めて検証した研究をジャーナル・オブ・ニュートリション・ヘルス・アンド・エイジングに発表しました。この研究は日本主導で行われており、筆頭著者と共著者の多くが東北大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野や東北メディカル・メガバンク機構に所属しています。

どのように調べたのか

研究チームは、東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査に参加した50〜79歳の日本人成人13,908人のデータを解析しました。聴力は純音聴力検査により、500Hz、1,000Hz、2,000Hz、4,000Hzという複数の周波数で測定されています。食事内容は、妥当性が確認された食物摂取頻度調査票を用いて把握し、水産物、n-3系多価不飽和脂肪酸、そして飽和脂肪酸の摂取量をそれぞれ摂取量の少ない方から多い方まで4つのグループ(四分位)に分けたうえで、聴力閾値との関係を多変量線形回帰分析によって調べました。日本人は魚介類の摂取量が国際的に見て多い集団とされており、そうした食習慣を持つ集団での検証という点がこの研究の特徴になっています。

何がわかったのか

解析の結果、水産物やn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量と聴力閾値との間には、男女とも統計的に意味のある関連は見られませんでした。一方で意外な結果として、男性においては飽和脂肪酸の摂取量が多いグループ(最も多い四分位群)は、最も少ないグループと比べて1,000Hzの聴力閾値が有意に低い、つまり聞こえが良い方向の値を示しました(差はマイナス2.23dB HL)。500〜4,000Hzの平均聴力閾値でも同様に、飽和脂肪酸摂取量が多い方が閾値が低い傾向が認められました(差はマイナス1.704dB HL)。言い換えると、この集団では飽和脂肪酸の摂取が少ないことが、必ずしも良い聴力とは結びついていませんでした。なお女性ではこうした関連は確認されていません。

この結果をどう読むか

著者らは、今回の水産物摂取量が多い日本人集団において、水産物やn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取が聴力閾値と関連しなかったこと、そして飽和脂肪酸摂取が少ないことがむしろ男性で聴力閾値の上昇(聞こえにくさ)と関連しうることを踏まえ、食事中の脂肪酸と加齢性難聴の関係は単純ではなく、性別によって異なる可能性があると結論づけています。この研究は横断研究であり、ある一時点での食事内容と聴力を比較したものです。そのため、飽和脂肪酸の摂取が聴力に影響を与えたという因果関係を証明するものではなく、あくまで集団内での関連が観察されたに留まります。一つの研究であり、この結果だけで加齢性難聴の食事対策が確定したわけではない点には注意が必要です。

まとめ

今回の研究では、魚介類をよく食べる日本人集団において、水産物やn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量と聴力の間に明確な関連は見いだされませんでした。むしろ男性では飽和脂肪酸摂取量が多い方が聴力閾値が低い傾向が示されており、食事中の脂肪酸と加齢性難聴の関係が一様ではないことをうかがわせる結果となっています。今後、他の集団や追跡調査を通じたさらなる検証が期待されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Jun Suzuki, Hiroki Tozuka, Hiyori Takahashi, et al. Seafood and polyunsaturated fatty acid intake and age-related hearing loss: a cross-sectional study conducted in Japan. ジャーナル・オブ・ニュートリション・ヘルス・アンド・エイジング (2026). DOI: 10.1016/j.jnha.2026.100971. 原著ライセンス: cc-by.