この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Actas Españolas de Psiquiatría

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとした研究か

注意欠如・多動症(ADHD)は、年齢に見合わない不注意・多動・衝動性が続く発達の状態で、著者らは小児や思春期での世界的な有病率が約7.6%、中国の全国調査では6歳から16歳の就学児で6.4%と報告されていることを紹介しています。遺伝的な要因や脳内の神経伝達物質の働きの乱れについては研究が進んでいるものの、症状の現れ方が人によって大きく異なるため、まだ分かっていない要因が残っていると論文は述べています。

この研究チームが注目したのは、体全体の炎症の程度と、栄養状態としてのビタミンDです。用いた指標のひとつは「全身免疫炎症指数(SII)」で、血液検査で分かる好中球・血小板・リンパ球という3種類の数値を組み合わせて計算する値です。著者らは、一つの比率だけを見るより体全体の炎症の負荷を反映しやすい可能性があると説明しています。もうひとつは血液中の25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)で、これは体のビタミンDの状態を示す指標です。ビタミンDの受け手となるタンパク質はADHDに関わるとされる脳の領域にも存在し、免疫の調整にも関わることが知られている、と論文は背景を整理しています。

そのうえで著者らは、ADHDでは炎症の負荷が高くビタミンDの状態が低いのではないか、そしてこの二つは互いに無関係ではないのではないか、という仮説を立てて検討しました。

どのように調べたか

これは中国の一施設の外来診療記録をさかのぼって調べた「後ろ向き」の症例対照研究です。2024年3月から2025年9月までの外来記録から、6歳から12歳で新たにADHDと診断され、まだ治療を受けていない子ども78人が対象となりました。比較群は同じ外来を同時期に受診し、ADHD以外の発達・学習・軽い行動上の相談で評価を受けた子ども40人で、年齢と性別の分布がそろうように選ばれています。比較群の子どもたちはADHDの基準を満たさず、診断も記録されていませんでした。著者らは、この比較群は地域の健康な子どもの集団ではなく、あくまで外来を受診した子どもの比較群であると明記しています。

症状の程度は、保護者が回答する中国語版SNAP-IVという評価尺度で、不注意、多動・衝動性、反抗という三つの側面について測られました。血液検査の値は、診察時点で記録にあった直近の結果を用いています。一部の子どもの検査結果は他の医療機関の報告に基づくものだったため、ビタミンDの値はすべて元の記録と照合し、単位をng/mLにそろえてから解析されました。解析では両群の値の比較、症状得点との相関、年齢・性別・体格・採血の季節などを調整した統計モデルなどが行われ、結果の安定性を確かめるための追加解析も実施されています。

報告された主な結果

著者らの報告によると、ADHD群は比較群よりもSII、CRP(炎症の程度を示す血液検査の値)、好中球・リンパ球比、血小板・リンパ球比がいずれも有意に高く、血中ビタミンDは有意に低いという結果でした。SIIの中央値はADHD群で698.58、比較群で424.98でした。なおCRPについては、参加者全員があらかじめ決めた除外基準(10 mg/L)を下回っており、著者らはこれを急性の感染を示すものではなく、軽度の炎症寄りの偏りとして解釈すべきだと述べています。

ビタミンDを臨床上の区分で分けると、ADHD群では78人のうち11人が20 ng/mL未満、55人が20〜29.9、12人が30以上でした。比較群では40人のうち3人、9人、28人という分布で、比較群では30 ng/mL以上に入る子どもが多い一方、ADHD群は低い区分に入りやすい傾向が示されました。この傾向は採血の季節ごとに分けても方向性が変わらなかったため、著者らは季節の偏りだけで説明されるものではないとしています。

研究対象全体で見ると、SIIが高いほど不注意・衝動性・反抗の得点が高く、ビタミンDが高いほどこれらの得点は低いという相関が見られ、SIIとビタミンDの間にも逆向きの相関がありました。ただし著者らは、これはADHD群と比較群を合わせた集団での傾向であり、ADHDの子どもの中での症状の重さとの関係を示すものではないと注意を促しています。実際、ADHDの三つの臨床タイプ(混合型、多動・衝動優勢型、不注意優勢型)の間では、SIIやビタミンDに有意な差は見られませんでした。ただしこのタイプ別の比較は検出力が限られていたと報告されています。

統計モデルでは、SIIの高さがADHDの状態と強く関連する一方、ビタミンD単独の影響は統計的に有意ではありませんでした。注目されたのは二つを掛け合わせた「交互作用」の項で、これは有意でした(オッズ比3.06、95%信頼区間1.59〜6.80)。この交互作用は、調整する項目を増やしたモデルや別の計算手法でも有意なまま残りました。交互作用が有意とは、炎症の指標とADHDの関連の強さがビタミンDの状態によって変わるという意味です。実際に予測確率を計算すると、ビタミンDが20〜29.9および30以上の区分ではSIIが高いほどADHDである確率が高く見積もられましたが、20 ng/mL未満の区分では確率が一様に高く、SIIによる上乗せは見られませんでした。著者らは、これは単純に両者が足し合わさって効くという形ではないと述べ、20未満の群は人数が少ないため慎重に解釈すべきだとしています。

なお、この集団の中での見分けやすさを探索的に評価したところ、SIIで0.808、ビタミンDで0.781、両者を含むモデルで0.836という値が得られました。著者らはこれを診断性能の評価ではなく、あくまで今回のデータ内での探索的な検討であると位置づけています。

この研究が示すもの

著者らはこの外来集団において、小児のADHDが高い炎症の負荷と低いビタHミンDの状態と関連していたと結論づけています。そして、SIIとビタミンDの間に統計的に有意な交互作用が認められたことは、炎症と栄養状態を切り離して考えるのではなく、両者が組み合わさったパターンとしてとらえる視点があり得ることを示すものだとしています。

ただし論文自身が強調しているとおり、これは一施設の記録をさかのぼって調べた研究であり、比較群も外来を受診した子どもたちです。原因と結果の向きを判断したり臨床の場で実際に用いることを考える前には、前向きの研究による検証が必要だと著者らは明記しています。この研究が伝えているのは、ADHDという状態を理解するうえで免疫と栄養にまたがる観点が検討に値するという、一つの手がかりです。

著者:Tingting Lu(Department of Child Health Care, Dongyang Maternal and Child Health Hospital, 322100 Jinhua, Zhejiang, China)、Yingying Chen(Department of Child Health Care, Dongyang Maternal and Child Health Hospital, 322100 Jinhua, Zhejiang, China)、Feiping Hu(Department of Child Health Care, Dongyang Maternal and Child Health Hospital, 322100 Jinhua, Zhejiang, China)、Yingping Zhu(Healthcare Department, Dongyang Maternal and Child Health Hospital, 322100 Jinhua, Zhejiang, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tingting Lu, Yingying Chen, Feiping Hu, et al. Association Among Systemic Immune-Inflammation Index, Vitamin D Status and Clinical Subtypes of ADHD: A Retrospective Investigation. Actas Españolas de Psiquiatría 2026-09-22. DOI: 10.62641/aep.2224. 原著ライセンス:CC BY.