著者の所属・活動拠点の国は、イギリス、アメリカ、マン島です。

掲載誌:Frontiers in Environmental Archaeology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

研究チームは、18〜19世紀のイングランド北東部に暮らした人々のビタミンD不足に、小氷期の気候変動がどう関わっていた可能性があるかを調べました。小氷期には、太陽活動が弱い時期や大規模な火山噴火が重なっていました。著者らは、当時の健康状態を工業化や緯度だけで説明するのではなく、こうした自然環境の変化も含めて捉えようとしました。

何を、どのように調べたか

対象は、イングランド北東部ノースシールズのコーチ・レーンにある、クエーカー教徒の墓地から出土した人骨と歯、そして埋葬記録です。この墓地は、地域が工業化へと移行していた時期に使われていました。

研究チームは21人分、計30本の歯の組織データを調べました。うち27本は既報のデータです。注目したのは、歯の内部にある象牙質に、十分に硬くならなかった部分が残る「球間象牙質(IGD)」でした。これは歯の形成中にビタミンDが不足した可能性を示す手がかりで、形成時期をたどることで、異常が起きた年齢や繰り返し方を調べられます。

また、197人分の埋葬記録を分析し、死亡年と死亡時年齢が分かる109人について出生年を推定しました。その年代を、太陽活動の低下期や大規模な火山噴火の時期と照合しました。さらに、ほかの18〜19世紀の遺跡で報告された歯や骨の所見と比較し、緯度、工業化、社会経済的な違いとの関係を検討しました。

主な報告結果

歯の分析では、対象者の多くにIGDが繰り返し見られました。新たに調べた3本のうち、組織を読み取れたのは2本で、既存のデータと合わせると、ある1人では約1〜18歳に計18回、別の1人では出生直後から約16歳半までに計7回の異常が確認されました。多くはほぼ年ごとに繰り返され、一部は数年間にわたっていました。研究チームは、このパターンが季節的なビタミンD不足を強く示唆すると解釈しました。

埋葬記録から出生年を推定できた109人のうち、41%は太陽活動の低下期に生まれていました。また、84%に当たる91人は、大規模な火山噴火が起きた年から、その後10年間までの期間に生まれていました。太陽活動の低下期と火山活動の影響が重なる期間に生まれた人は38%でした。これらは、集団が気候の影響を受け得る時代に暮らしていたことを示す年代上の結果です。

他地域との比較では、緯度が高いほど、あるいは工業化が進んだ地域ほど、歯の石灰化異常が一貫して多いという傾向は見られませんでした。著者らは、緯度や工業化のどちらか一つだけでは、当時の異常の多さを十分に説明できないと報告しています。

この報告が示すこと

著者らは、小氷期のビタミンD不足を理解するには、太陽活動や火山活動という環境要因に加え、緯度、食生活、社会経済的条件、屋外で過ごす機会などが重なり合う状況を考える必要があると結論づけています。工業化と自然環境は、互いに競合する説明ではなく、組み合わせて捉えるべき要因だという位置づけです。

ただし、墓標がないため、出土した個人と埋葬記録の人物を対応させることはできません。そのため、特定の気候変動と個人の歯の異常が同じ時期に起きたかは検証できず、数年間続く異常が小氷期の強い影響を表すという考えも仮説にとどまります。歯の分析例や比較資料も限られるため、著者らは、この集団の結果を工業化時代全体へ広く当てはめることはできないとしています。

原著論文の著者・所属:Ellen J. Kendall(Department of Archaeology, Durham University)、Anne Marie Sohler-Snoddy(Department of Biology, University of North Carolina Greensboro)、Ross Kendall(Department of Archaeology, Durham University)、Hannah Koon(Department of Archaeological & Forensic Sciences, University of Bradford)、Rebecca Gowland(Department of Archaeology, Durham University)、Marie C. Weale(Manx National Heritage)、Ian Chaplin(Department of Earth Sciences, Durham University)、Sophie Edwards(Department of Earth Sciences, Durham University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ellen J. Kendall, Anne Marie Sohler-Snoddy, Ross Kendall, et al. 'The bright sun was extinguish'd': metabolic health and vitamin D status in a Little Ice Age population (18th–19th c.) in North East England. Frontiers in Environmental Archaeology 2026-11-05. DOI: 10.3389/fearc.2026.1909791. 原著ライセンス:CC BY.