著者の所属・活動拠点の国は、セルビアです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:加熱食品にできる物質を二つの面から調べる
アクリルアミドは、でんぷんを多く含む食品を高温で揚げる、焼く、炒る、トーストするといった加熱の際にできる化学物質です。原料に含まれるアミノ酸の一種(アスパラギン)と糖が反応する「メイラード反応」で生じ、穀物やジャガイモを使った食品と特に結びつけられています。神経への毒性や発がん性が指摘されており、国際がん研究機関(IARC)は「おそらく人に対して発がん性がある」グループに分類しています。EUでは2017年に規則が設けられ、食品事業者に、含有量を合理的に達成できる範囲でできるだけ低く抑える対策が求められています。ただ論文によると、一部の食品では低減が実用上の限界に近づいており、品質や風味を損なわずにさらに大きく減らすことは技術的に難しいとされています。
研究チームの目的は二つです。一つは、セルビアの成人が食事からどれだけのアクリルアミドを摂取しているかを推計し、神経への影響と腫瘍(がん)につながる影響のリスクを評価すること。もう一つは、アクリルアミドができやすい市販の加工食品について、消費者が品質や安全性をどう受け止めているかを調べることです。著者らは、従来より多く幅広い食品試料を使い、実際に集めた食事データをもとに、摂取量のばらつきまで考慮する確率的な手法で推計した点を新しさとして挙げています。
何を調べたか:食事調査、食品の分析、意識調査
調査は2025年後半にセルビアで、18〜64歳の成人を対象としたオンラインのアンケートとして行われました。参加者は主にSNSを通じて集められ、自由に参加できる方式です。食事についての調査には683人、意識についての調査には691人が回答しました。
食事調査では、ビスケット・クッキー、ウエハース、ポテトチップス、パン類、押出成形スナック、トルティーヤチップス、クラッカー・グリッシーニ、ミューズリー・グラノーラ・コーンフレーク、オートミール、ピーナッツの10種類の市販食品を取り上げました。回答者は、ふだんどのくらいの頻度でどれだけ食べるかを答える質問票と、前日24時間に食べたものを思い出して答える方式の両方に回答しています。
食品中のアクリルアミドは、企業の品質管理の一環として認定検査機関で測定された、合計875試料の分析結果を用いました。平均濃度が最も高かったのはポテトチップスで、1kgあたり約589マイクログラムでした。
摂取量は、各食品の摂取量と含有濃度を掛け合わせ、体重で割って求めました。その際、人による違いや推計の不確かさを反映させるため、モンテカルロ・シミュレーションと呼ばれる、乱数を使って多数の計算を繰り返す手法を用いています。リスクの評価には「暴露マージン(MOE)」を使いました。これは、わずかながら測定できる影響が出る基準となる量を、推計された摂取量で割った値で、大きいほど摂取量がその基準量から離れていることを意味します。
意識調査では、食品群ごとに最初に思い浮かぶ製品や、22項目の意見への賛否、品質の特徴(味、見た目、食感など)や安全上の危険要因(化学的・微生物的な危険、包装、表示など)のうち何を重視するかを尋ねました。
主な結果:神経への影響は懸念なし、発がん性の面では懸念
推計された1日の平均摂取量は、成人女性で体重1kgあたり0.287〜0.345マイクログラム、成人男性で0.272〜0.273マイクログラムでした。女性の値の幅は、二つの食事調査の方法のどちらを使ったかによるものです。
神経への毒性についての暴露マージンは、問題がないとされる目安の100を大きく上回り、平均で女性1246〜1498、男性1575〜1581でした。よく食べる人たちの層でも目安を上回っており、著者らはリスクは低いと報告しています。
一方、腫瘍につながる影響については、懸念が小さいとされる目安が10,000以上であるのに対し、得られた値はどの調査方法、男女、摂取量の層でもこれを大きく下回りました。論文はこれを公衆衛生上の懸念を示すものとしています。
摂取源として最も大きかったのはポテトチップスで、全体の25.1〜34.4%を占めました。次いでパン類が17.3〜23.0%で、論文ではパンがセルビアの主食で日常的に多く食べられていることを反映していると説明しています。ビスケット・クッキーは9.5〜12.1%で、そのほかの食品群はそれぞれ10%未満でした。
欧州食品安全機関(EFSA)が示した欧州の成人の平均摂取量(体重1kgあたり1日0.4〜0.6マイクログラム)と比べると、今回の値はやや低めでした。ただし著者らは、EFSAの推計は家庭で調理した食品を含むより幅広い食品を対象にしているなど、対象の食品や方法が異なるため、比較には限りがあると述べています。
意識調査では、品質・安全性・健康によいかという点で最も信頼が高かったのは、ナッツ・豆類、そしてすぐに食べられる製品や家庭で作った製品でした。また、各食品群で最初に思い浮かぶ製品としては、スナックではポテトチップス(59.5%)、穀物製品ではオートミール(59.2%)などが目立ち、どの製品が挙がるかは年齢や学歴などの属性と関連していました。
この研究が示すこと
この研究は、セルビアの成人のアクリルアミド摂取量が欧州の推計と比べて特に高いわけではない一方、発がん性の観点から見ると余裕が十分とはいえない水準にあることを示しました。主な摂取源として、ポテトチップスに加え、日常的に食べられるパン類が大きな割合を占めていた点も特徴です。摂取量の推計と消費者の受け止め方を並べて調べたことで、アクリルアミドができやすい食品について、安全性の評価と人々の信頼のあり方を一緒に考える材料を提供しています。
原著論文の著者・所属:Bozidar Udovicki(Department of Food Safety and Quality Management, Faculty of Agriculture, University of Belgrade, Nemanjina 6, 11080 Belgrade, Serbia)、Nevena Macanovic(Faculty of Agriculture, University of Belgrade, Nemanjina 6, 11080 Belgrade, Serbia)、Ilija Djekic(Department of Food Safety and Quality Management, Faculty of Agriculture, University of Belgrade, Nemanjina 6, 11080 Belgrade, Serbia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Bozidar Udovicki, Nevena Macanovic, Ilija Djekic. Food Safety and Quality Interplay of Acrylamide Sensitive Products. Foods 2026-10-23. DOI: 10.3390/foods15213800. 原著ライセンス:CC BY.