日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ大豆の「赤み」を調べたのか
豆乳や豆腐は、淡い黄色をしているものと期待されることが多い食品です。ところが加工の途中で赤みを帯びる「赤変」と呼ばれる現象が古くから知られており、品質上の問題として扱われてきました。食品の色は、消費者が鮮度や品質を判断する手がかりになるため、想定と違う色の変化は商品価値を下げる要因になります。
著者らによれば、この赤変はこれまで、脂質の酸化にともなう非酵素的な褐変の一種として大まかに解釈されてきました。しかし赤い色のもとになっている色素そのものは化学的に同定されておらず、どのようにできるのかも十分に分かっていませんでした。そこで研究チームは、大豆の加工中に現れる未同定の黄色色素と赤色色素の性質を明らかにすることを目的に、pH・加熱・リポキシゲナーゼ(大豆に含まれ、不飽和脂肪酸の酸化を進める酵素)による酸化が色素の変化に与える影響を調べ、質量分析によって構造の手がかりを探りました。
色素をどう取り出し、何を調べたか
研究チームは、豆腐製造の工程を模して色が変わった豆腐を大量に用意し、凍結乾燥して粉にしたうえで脂質を取り除き、メタノール水溶液で色素を抽出しました。さらに吸着樹脂を使ったカラムでの精製と分取HPLC(成分を時間差で分離する装置)によって、黄色色素と赤色色素を別々の画分として取り分けています。
取り分けた色素については、紫外可視吸収スペクトルで色の性質を測定し、さらにpHを変えた緩衝液中での加熱や、温度・時間を変えた加熱によって、それぞれの量がどう増減するかをHPLCで追跡しました。加えて、品種や収穫年の異なる大豆について、大豆粉・豆乳・豆腐の各段階での色素量を比べ、豆乳にリポキシゲナーゼを加えたり加熱したりしたときの変化も調べています。構造の手がかりは、高分解能の質量分析(LC-ESI-QTOF-MS/MS)などで得ました。
なお著者ら自身が述べているとおり、二つの色素は完全には分離しきれず、精製や保存の間に少しずつ変化する不安定さもあったため、得られたものは「純粋な色素」ではなく「目的の色素を多く含む画分」と位置づけられています。
報告された主な結果
加熱実験では、黄色色素は加熱時間が延びるほど減り続けたのに対し、赤色色素は加熱とともに増え、およそ300分でピークに達したあと減少に転じました。温度を変えた実験でも、黄色色素は50℃までほとんど変わらず60℃を超えると減っていき、逆に赤色色素は温度が上がるほど増えたと報告されています。
pHの影響も大きく、赤色色素ができたのは弱酸性から中性、とくにpH6付近で最も多く、アルカリ性(pH8、pH10)ではほとんど検出されませんでした。赤色色素自体の安定性もpH4〜6で比較的高く、pH8や10では大きく減りました。著者らは、この範囲が豆腐のおおよそのpHにあたることから、加工や保存の間に赤色色素が残りやすい条件だと考えられると述べています。
材料別に見ると、両方の色素は大豆粉・豆乳・豆腐のいずれからも検出され、赤色色素は大豆粉より豆乳、豆乳より豆腐で多い傾向がありました。黄色色素が大豆粉の段階から存在することから、著者らはこれを大豆の種子そのもの由来の前駆物質とみています。一方で、黄色色素が多い試料ほど赤色色素も多いという明確な関係は見られませんでした。品種・収穫年による違いもあり、同じ宮城シロメでも2023年産は2024年産より赤色色素が多く、豆腐試料では約4.6倍の差があったと報告されています。リポキシゲナーゼ処理への反応も品種で異なり、宮城シロメでは酵素の濃度や反応時間を増やすほど黄色色素が減ったのに対し、GL3500では酵素処理だけより加熱の影響が大きく、加熱後に赤色色素が高くなりました。
質量分析では、黄色色素と赤色色素の分子関連イオンの間に、正・負どちらの測定条件でも一貫して2ダルトンの差が見られました。断片化のパターンもよく似ており、著者らは両者が近い骨格を共有し、わずかな構造の違いしかないと解釈しています。この2の差は水素原子2個が失われることに相当し、酸化や脱水素にともなう変化と矛盾しません。吸収スペクトルでも、黄色色素の約420nmの肩から赤色色素の約510nmの極大へと約90nm長波長側にずれており、これは色のもとになる部分の共役がより長く広がったことと整合すると説明されています。なお、大豆サポニンの一種であるソヤサポゲノールAやB、リボフラビン、主要なイソフラボン類とは分子量や断片化の様子が一致せず、データベース検索でも該当する既知の大豆成分は見つかりませんでした。
この研究が示すこと
以上の結果から、著者らは、赤色色素が単独で生じる別の物質ではなく、黄色色素が加工中の酸化的な変化を経て姿を変えたものだという仮説を支持しています。これまで「黄色が抜ける(退色する)」と捉えられてきた現象が、実際には色のもとが壊れきるのではなく、別の色をもつ物質へ変わる過程を含んでいる可能性を示した点が、この研究の要点です。
ただし著者ら自身が限界として挙げているように、色素の正確な化学構造はまだ分かっておらず、NMRによる構造決定にも至っていません。赤色色素の量と、目で見える赤みの強さとの関係も定量的には評価されていないため、この色素は赤変に関連する物質であって、色の変化を決める唯一の要因とは位置づけられていません。酵素による酸化と熱による酸化がそれぞれどれだけ寄与しているかも、今回の結果からは切り分けられていません。
それでも、色素の増減が温度やpHによって系統的に変わること、加工の段階が進むほど赤色色素が増えること、そして品種や収穫年で挙動が異なることが具体的に示されたことは、長く経験的に語られてきた大豆の赤変を、化学的な現象として捉え直す手がかりになります。
著者:Shiori Idogawa(Taishi Foods Inc., 68 Aza-Okinaka, Kawamorita, Sannohe-machi, Sannohe-gun 039-0141, Aomori, Japan)、Serina Imaruoka(Taishi Foods Inc., 68 Aza-Okinaka, Kawamorita, Sannohe-machi, Sannohe-gun 039-0141, Aomori, Japan)、Taiki Miyazawa(New Industry Creation Hatchery Center (NICHe), Tohoku University, Sendai 980-8579, Miyagi, Japan)、Taiki Miyazawa(New Industry Creation Hatchery Center (NICHe), Tohoku University, Sendai 980-8579, Miyagi, Japan)、Ohki Higuchi(New Industry Creation Hatchery Center (NICHe), Tohoku University, Sendai 980-8579, Miyagi, Japan)、Kazuaki Akasaka(Department of Human Health and Nutrition, Shokei Gakuin University, 4-10-1 Yurigaoka, Natori 981-1295, Miyagi, Japan)、Teruo Miyazawa(New Industry Creation Hatchery Center (NICHe), Tohoku University, Sendai 980-8579, Miyagi, Japan)、Teruo Miyazawa(New Industry Creation Hatchery Center (NICHe), Tohoku University, Sendai 980-8579, Miyagi, Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shiori Idogawa, Serina Imaruoka, Taiki Miyazawa, et al. Characterization of Yellow and Red Pigments Associated with Soybean Reddening During Processing. Foods 2026-08-27. DOI: 10.3390/foods15173030. 原著ライセンス:CC BY.