この研究は、カザフスタン、トルコの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何のための研究か

口から十分に食事がとれない人に、チューブなどを使って消化管へ栄養を届ける方法を経腸栄養と呼びます。現在市販されている経腸栄養の製品の多くは、カゼインやホエイといった乳由来のたんぱく質を主な原料としています。研究チームは、乳糖を分解しにくい体質の人が成人人口の推定65%にのぼることや、牛乳たんぱく質へのアレルギーが使用を妨げる場合があることを背景として挙げ、植物由来の原料に関心が集まっていると説明しています。

ただし、経腸栄養の製品に求められるのは栄養の中身だけではありません。エネルギー密度、浸透圧(溶けている成分の濃さを表す指標)、粘度、投与中の安定性といった物理的・化学的な条件も満たす必要があり、細いチューブを詰まらせずに流れることも重要です。植物性のたんぱく質に置き換えれば自動的にこれらの課題が解決するわけではない、と論文は指摘しています。

そこで研究チームが着目したのがアマランサス(Amaranthus hypochondriacus)です。グルテンを含まない擬似穀物で、リジンが多くアミノ酸のバランスがよく、食物繊維やスクアレン、トコフェロールなどの成分を含むと紹介されています。一方で、穀粒そのものはたんぱく質・でんぷん・脂質・繊維・フェノール類が複雑に絡み合った構造をもち、水への溶けやすさや懸濁液の安定性、飲料に向いた流動性の面では制約があります。研究の目的は、アマランサス全粒粉を酵素で分解した液の可溶性画分を土台として植物由来の経腸栄養用処方を作り、その性質を実験的に調べることでした。全粒粉の酵素分解物を多成分の経腸栄養処方の主たる機能的基材として評価した研究は、著者らの知る限り先例がないとしています。

どのように作り、何を測ったか

カザフスタンのペトロパブロフスク地域で収穫されたアマランサスを洗浄・乾燥して製粉し、水と1対5で混ぜたうえで、2段階の酵素処理を行いました。まずでんぷんを分解するα-アミラーゼを加えて65℃で1時間、続いてたんぱく質を分解するアルカラーゼを加えて55℃で1時間処理し、最後に90℃で10分加熱して酵素の働きを止めています。遠心分離して得た上澄みが、処方の基材となる可溶性画分です。分解の効率は、上澄みを凍結乾燥した乾物量が、原料として用いたアマランサス粉の初期乾物量に占める割合として示され、80.0%でした。

この上澄みに、ミネラルとビタミンのプレミックス、エンドウ豆たんぱく質、サフラワー油とレシチンからなる油相、マルトデキストリン、安定剤を加えて均質化し、最終製品としました。処方は1リットルあたり約1000kcal、たんぱく質50g、脂質50g、炭水化物90gを目標に設計されています。比較のため、アマランサス分解液の代わりに蒸留水を用い、他の材料と工程はすべて同じにした対照試料も用意し、添加物だけの寄与を切り分けられるようにしました。

測定項目は多岐にわたります。たんぱく質はケルダール法、脂質はソックスレー法、灰分、総炭水化物、食物繊維をそれぞれ確立された方法で定量し、アミノ酸はUPLC-MS/MSで分析しました。物性としては37℃での粘度、浸透圧、pHを測定し、さらに内径2.0〜4.0mm・長さ90cmのポリウレタン製チューブを使った重力式の投与試験で、200mLが流れきる時間や詰まり・分離の有無を調べています。市販の経腸栄養製品2種類も同じ条件で比較対象としました。消化については、INFOGEST 2.0という国際的に統一された試験管内消化プロトコルに従い、胃相と腸相の各段階で総フェノール量とDPPH・ABTSによる抗酸化活性を測定しています。すべて独立に調製した3回分の試料で実施されました。

報告された主な結果

酵素分解によって、栄養成分の構成は乾物あたりで変化しました。たんぱく質は14.84%から11.34%へ、脂質は6.54%から4.61%へ減少しています。著者らはこれを、変性したたんぱく質や細胞壁成分などが不溶性画分とともに沈殿して取り除かれたためと説明しており、単純な成分の変化ではなく、相の分離と選択的な可溶化として解釈すべきだとしています。一方で炭水化物は70.18%から77.42%へ増えており、糖鎖の結合が切れて単糖の単位が利用可能になったことを反映するとされます。

強化後の最終処方では、たんぱく質25.46%、脂質24.95%となり、エネルギー値は1リットルあたり491.74kcalから1014.7kcalへ上昇しました。たんぱく質・脂質・炭水化物のいずれも、分解液と添加物だけの対照試料の中間の値となっており、最終的な組成が両者の寄与の合計であることを示しています。得られたエネルギー密度と栄養素の配分は、欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)の経腸栄養に関する推奨と概ね合致すると報告されています。

遊離アミノ酸の構成は、原料の穀粉、分解液、最終処方の間で大きく異なりました。穀粉では遊離のアルギニン、リジン、ヒスチジンが少なく、これはアマランサスの貯蔵たんぱく質ではこれらがペプチドに結合した形で存在するという既知の特徴と一致します。分解と強化を経ると、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、トレオニン、メチオニンなどで顕著な増加がみられました。ただし著者らは、対照試料のアミノ酸分析を行っていないため、アマランサス分解液だけの寄与を定量的に切り分けることはできないと明記しています。

必須アミノ酸については、WHO/FAO/UNUが定めた成人の必要量パターンと比較したところ、評価した7種すべてが基準値を満たすか上回りました。ヒスチジン117.9%、イソロイシン125.7%、ロイシン135.1%、リジン126.6%、トレオニン116.1%という値が報告されています。最も余裕が小さかったのはバリンの101.7%で、測定のばらつきを考えると下限が基準値に近づくため、形式的には基準を満たすものの解釈には慎重さが必要だと著者ら自身が述べています。また、用いた酸加水分解法ではトリプトファンや含硫アミノ酸が分解されてしまうため、メチオニンは検出されず、トリプトファンとシステインは分析の対象外でした。これは実際に含まれていないことを意味するのではなく、試料前処理の方法上の限界によるものだと説明されており、完全なアミノ酸スコアの算出とたんぱく質の生物価に関する確定的な結論はできないとしています。

試験管内消化の結果では、フェノール類と抗酸化活性の生物学的接近性(消化によって取り出される割合)が、胃相から腸相へと段階的に高まりました。腸相での大きな上昇は、膵酵素と胆汁酸が中性付近のpHで働き、食品構造の中に留まっていたフェノール化合物の放出を促すことと整合すると述べられています。酵素分解した液は、DPPHとABTSの両方で原料の穀粉より有意に高い抗酸化活性を示し、腸相では4試料中で最も高い応答を示しました。注目されるのは対照試料の挙動です。同じビタミンプレミックスや添加物を含むにもかかわらず、対照試料はすべての段階で分解液と最終処方より有意に低い値にとどまりました。この結果から著者らは、最終処方で観察された高い生物学的接近性は、添加した市販原料ではなく、酵素分解によって放出されたアマランサス由来の生理活性成分によるものだと考えています。総フェノール量については、最終処方が腸相で4試料中最も高い応答を示しました。ただし著者らは、試験管内の測定を超えた生理学的な意味合いについては、さらなる検証が必要だと付言しています。

この研究が示していること

この研究は、アマランサス全粒粉を酵素で分解して可溶性の画分を取り出し、それを土台に植物由来の材料で強化するという工程が、経腸栄養の処方に求められる栄養面と物性面の条件を同時に検討する対象になりうることを、実験データとともに示したものです。著者らの枠組みの特徴は、栄養組成だけで適性を判断せず、物性、チューブ投与時の挙動、試験管内での消化までを一つの実験系にまとめて評価した点にあります。

とりわけ、添加物だけの対照試料を並べて比較した設計によって、抗酸化やフェノール類に関する測定値の多くが、添加した市販原料ではなく穀物そのものに由来する成分の寄与であることが切り分けられました。同時に、アミノ酸分析の方法上の制約や、対照試料のアミノ酸分析が行われていないことなど、まだ結論を出せない部分も著者らは率直に示しています。分離したたんぱく質を使う従来の植物性処方とは異なり、全粒穀物の成分を保ったまま加工性を高めるという発想が、どこまで成立しうるかを測った一歩として位置づけられる報告です。

著者:Dina Khamitova(Department of Biology, School of Sciences and Humanities, Nazarbayev University, Kabanbay Batyr 53, Astana Z05H0P9, Kazakhstan)、Saule Saduakhasova(Department of Food Technology and Processing Products, Technical Faculty, Saken Seifullin Kazakh Agrotechnical University, Zhenis Avenue, 62, Astana 010000, Kazakhstan)、Dana Toimbayeva(Department of Food Technology and Processing Products, Technical Faculty, Saken Seifullin Kazakh Agrotechnical University, Zhenis Avenue, 62, Astana 010000, Kazakhstan)、Zhanna Kamirova(Department of Food Technology and Processing Products, Technical Faculty, Saken Seifullin Kazakh Agrotechnical University, Zhenis Avenue, 62, Astana 010000, Kazakhstan)、Neslihan Göncüoğlu Taş(Food Quality and Safety (FoQuS) Research Group, Department of Food Engineering, Hacettepe University, Ankara 06800, Turkey)、Vural Gökmen(Food Quality and Safety (FoQuS) Research Group, Department of Food Engineering, Hacettepe University, Ankara 06800, Turkey)、Svetlana Kamanova(Aron R&D Co. LLP, Akmeshit Street, 5, Astana 010000, Kazakhstan)、Kadyrzhan Makangali(Department of Food Technology and Processing Products, Technical Faculty, Saken Seifullin Kazakh Agrotechnical University, Zhenis Avenue, 62, Astana 010000, Kazakhstan)、Nurlan Dautkanov(Department of Crop Production Processing, Kazakh Research Institute of Processing and Food Industry, Almaty 050060, Kazakhstan)、Gulnazym Ospankulova(Aron R&D Co. LLP, Akmeshit Street, 5, Astana 010000, Kazakhstan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dina Khamitova, Saule Saduakhasova, Dana Toimbayeva, et al. Enzymatically Hydrolyzed Amaranth as a Base for Enteral Nutrition: Nutritional Characterization, Phenolic Bioaccessibility, and Physicochemical Properties. Foods 2026-08-27. DOI: 10.3390/foods15173028. 原著ライセンス:CC BY.