スーパーで買う牛乳のもとになる「生乳」には、目に見えないたくさんの微生物が住んでいます。これらは搾乳された直後から、農場の環境や季節、さらには保存・輸送の仕方によって構成が変わっていくと考えられています。では、研究者が生乳を分析する際の『やり方の違い』そのものが、検出される微生物の顔ぶれに影響を与えてしまうことはあるのでしょうか。今回紹介する研究は、健康なホルスタイン種の牛から搾った生乳を対象に、この『測り方』の問題と『季節』の影響を丁寧に切り分けて調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、生乳をどう処理するかによって2つの方法を比較しました。1つは搾乳後すぐに農場でその場で凍結する方法(オンサイト法)、もう1つは冷蔵状態で輸送してから実験室で凍結する方法(実験室法)です。さらに、プロピディウムモノアザイド(PMA)という薬剤処理を行うことで、生きている菌(生菌)と死んでいる菌(死菌)を区別する『バイアビリティPCR』という手法も併用しました。加えて、9月・11月・1月という異なる季節に採取した生乳も比較しています。
その結果、まず処理方法の違いによって微生物叢の構成に差が見られました。冷蔵輸送を経た場合、Lactobacillus(ラクトバチルス)属やTuricibacter(ツリシバクター)属といった菌の割合が増える一方で、Streptococcus(ストレプトコッカス)属、Bradyrhizobium(ブラディリゾビウム)属、Acinetobacter(アシネトバクター)属の割合は減少したと報告されています。つまり、輸送中の低温環境そのものが、検出される菌の構成を変化させてしまう可能性があるということです。
一方で、生菌と死菌を区別した場合の違い(β多様性という指標で評価)は、オンサイト法と実験室法の違いに比べるとわずかなものだったとされています。
続いて行われたオンサイト法での季節比較では、はっきりとした季節変動が示されました。9月にはLactobacillus属、Turicibacter属、Bacillus(バチルス)属の相対的な割合が高く、11月にはStaphylococcus(スタフィロコッカス)属、Phenylobacterium(フェニロバクテリウム)属、Bradyrhizobium属が、1月にはPhyllobacterium(フィロバクテリウム)属が多く見られたとのことです。そして、この季節による違いの大きさは、PMA処理(生菌・死菌の区別)による違いよりも大きかったと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
研究チームは、低温での保存・輸送が、特に環境由来で日和見的にふるまう可能性のある微生物の評価を不正確にしうると指摘しています。また、バイアビリティPCRという手法は生菌・死菌を区別する情報を与えてくれる一方で、生乳の微生物叢全体の評価そのものを大きく変えるものではなかったとまとめられています。
ただし、この研究には限界もあります。分析に使われた乳サンプルの数が限られていたこと、また単一の農場・単一の飼育管理方式のデータのみに基づいていることです。そのため、この結果がすべての農場や飼育環境に当てはまるかどうかは、今回の研究だけでは確定できません。今後、異なる条件下でのさらなる検証が必要になると考えられます。
まとめ
今回紹介した研究では、生乳の微生物叢を調べる際の『処理方法(その場凍結か、冷蔵輸送後の凍結か)』と『季節』という2つの要因が、検出される菌の構成に影響を与えることが示唆されました。特に季節による変動は、生菌・死菌を区別する手法による違いよりも大きかった点が興味深いところです。生乳の微生物叢を正確に評価するためには、こうしたサンプル処理の条件を意識することが重要だと言えそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:低温保存と季節性が生乳の微生物叢に与える影響:従来法とバイアビリティPCRによる評価(アニマルズ・2026年07月)