果物は収穫された瞬間から追熟や劣化が進み、輸送や貯蔵の間にどれだけ品質を保てるかは生産者にとって大きな課題です。収穫後すぐに果実の温度を下げる「予冷」という工程は、経験的に品質保持に役立つとされてきましたが、その効果を貯蔵期間や果実の種類ごとに詳しく検証した研究は限られています。今回紹介するのは、コンファレンス種の西洋ナシと、スイートドリーム種のモモを対象に、水を使った予冷処理(ハイドロクーリング)が収穫後の品質・香り・生化学的な特性にどのような影響を与えるかを調べた研究です。

どのように調べたのか

研究では、収穫後の果実を通常の大気環境、あるいは制御された気相環境のもとで貯蔵し、西洋ナシは5か月または7か月、モモは15日または30日という異なる期間で保管しました。さらに貯蔵後に常温に置く「日持ち期間」も設定し、それぞれの段階で物理化学的な性質、生化学的・生理学的な変化、揮発性の香り成分、そして人が実際に味わって評価する官能特性までを幅広く分析しています。予冷処理の効果を見るにあたっては、果実の中心温度をどれだけ下げるかという条件が比較され、その中でも中心温度を10℃下げる処理(研究内でH10と呼ばれる条件)が主要な比較対象として扱われました。

わかったこと

ハイドロクーリングを行うと、果実の追熟が遅くなる傾向が示されました。これにより官能的な品質や栄養的な質が保たれやすくなり、結果として食品廃棄の削減につながる可能性が示唆されています。また、収穫時点での果実の成熟度そのものが貯蔵後の品質に強く影響しており、指標としては果実の硬さと、吸光度差指数(I AD、果実の成熟度を光の吸収特性から推定する指標)が重要であったと報告されています。

特に長期間の貯蔵において、中心温度を10℃下げるH10処理が最も良い結果を示し、果実の硬度、可溶性固形分(糖度に関わる成分)、滴定酸度(酸味に関わる指標)が維持されやすいことが確認されました。さらに、西洋ナシに見られる黒斑病や表皮のすこし(スカルド)、モモの内部褐変や果肉の褐変といった障害の発生も軽減される傾向が見られ、呼吸のピークが遅れる一方でエチレンや二酸化炭素の発生パターン自体は処理間で大きくは変わらなかったとされています。長期の制御貯蔵下にある西洋ナシでは、抗酸化能やフェノール化合物(植物由来の抗酸化物質の一種)の保持も促進される傾向が示されました。官能評価では、H10処理が味わいを損なうことなく食感に関わる特性を改善したとされ、香り成分の分析でもエステルやアルデヒドといった揮発性成分が良好に保持されていたと報告されています。

この研究をどう読むか

この研究は、西洋ナシとモモという特定の2品種を対象に、限られた貯蔵条件・期間のもとで行われた一つの研究であり、結論が広く確定したわけではありません。ハイドロクーリングの効果は果実の種類や収穫時の成熟度、貯蔵条件によって左右されると考えられ、他の品種や産地の果実にそのまま当てはまるとは限りません。あくまで研究report内で示された傾向として受け止めることが妥当です。

まとめ

この研究では、収穫後の水冷式予冷処理が西洋ナシとモモの品質保持や貯蔵期間の延長に役立つ可能性が示され、特に果実の中心温度を10℃下げる処理が長期貯蔵において良好な結果を示したと報告されています。収穫後の温度管理の工夫が、果物の鮮度維持や食品廃棄の削減につながる可能性を示す一例として参考になる研究といえます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Laia Torregrosa, Gemma Echeverria. Effect of hydrocooling on postharvest quality, aroma and biochemical attributes of ‘conference’ pears and ‘sweet dream’ peaches. 食品科学技術誌 (2026). DOI: 10.1007/s13197-026-06867-6. 原著ライセンス: cc-by.