著者の所属・活動拠点の国は、中国、ベルギーです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ジャガイモでんぷんは、とろみ付けやゲル化、品質の安定化に役立つ素材として、スープやソース、パン、麺など多くの食品に使われています。一方、加工しないままのでんぷんは冷水に溶けにくく、加工条件の変化に弱いことがあります。また、時間がたつと分子が再び寄り集まって硬くなる「老化」を制御しにくいという弱点もあります。そこで、あらかじめ水と熱を加えてでんぷんの結晶構造を壊しておく「α化(プレゼラチン化)」という物理的な加工が注目されてきました。

著者らによると、α化でんぷんの性質は主に二つの要因で決まります。一つはどこまで糊化させたかを示す「糊化度」、もう一つはその後の乾燥方法です。糊化度の影響は比較的よく調べられてきましたが、部分的に糊化させたでんぷんを食品に使った場合の効果や、乾燥工程の役割は十分に分かっていませんでした。凍結乾燥は糊化直後の構造を保ちやすい反面、コストが高い方法です。熱風乾燥は安価ですが、長時間の乾燥中に分子の再配列(老化)が進む可能性があります。

研究チームは二つの仮説を立てました。一つは、完全に糊化させなくても、中程度に糊化したでんぷんで麺の品質を高められるというものです。もう一つは、同程度の糊化度でも、乾燥方法によってでんぷんの構造や機能が変わり、麺の品質にも違いが出るというものです。この研究では、糊化度と乾燥方法を変えたジャガイモでんぷんの構造を多面的に調べ、さらに小麦粉に加えて麺の品質との関係を検討しました。

どのように調べたか

研究チームは、10%のジャガイモでんぷん液を60℃の湯浴で30秒、3分、18分間加熱し、糊化度の異なる試料を作りました。加熱時間が長いほど糊化が進みます。急冷した液は二つに分けました。一方は約48時間凍結乾燥し、もう一方は40℃の熱風乾燥機で24時間乾燥させ、それぞれ粉末にしました。

これらの試料について、加熱時の吸熱量、結晶の割合、分子レベルの規則的な並び(短距離秩序)、加熱・冷却時の粘りの変化、粒子の形を分析しました。さらに、各でんぷんを加えた麺を作り、麺帯の色と、ゆでた麺の食感を測定しました。食感の測定には、物を2回押しつぶして人がかむ動作を模す試験を用い、硬さや弾力、かみごたえなどを数値化しました。比較対象には、小麦粉だけの麺と、加工していないジャガイモでんぷんを加えた麺を用いました。

主な結果

加熱時間が長くなるほど、でんぷんを溶かすのに必要な熱量と結晶の割合は、どちらの乾燥方法でも低下しました。著者らは、α化によってでんぷんの結晶構造が崩れたと解釈しています。ただし、18分間加熱した試料では、熱風乾燥品の相対結晶化度が18.55%で、凍結乾燥品の10.90%より有意に高くなりました。研究チームは、ゆっくり進む熱風乾燥の間にでんぷんが老化し、新しい結晶ができたためと考えています。分子レベルの並びを調べた分析でも、熱風乾燥による部分的な再配列を支持する結果が得られました。

粘りの性質にも違いがありました。α化したでんぷんはいずれも、測定開始時の粘度が未加工のでんぷんより高くなり、冷水でも膨らんで粘りを出す性質が備わったことを示しました。その傾向は凍結乾燥品のほうが強く出ました。また、高温でかき混ぜても粘りが崩れにくくなり、特に熱風乾燥品でその安定性が高まりました。粒子の形も異なり、凍結乾燥品はばらばらの薄片状に、熱風乾燥品は密に詰まった塊状になっていました。

麺では、α化でんぷんを加えた麺帯は、小麦粉だけの麺や未加工でんぷんを加えた麺より明るくなりました。赤みと黄色みも小麦粉だけの麺より抑えられました。この効果は、凍結乾燥品を加えた麺でより顕著でした。食感では、30秒加熱した凍結乾燥品を加えた麺の硬さ、ガム性、かみごたえが、比較対象の麺より有意に高くなりました。一方、糊化度が上がるにつれてこれらの値は下がりました。熱風乾燥品を加えた麺は、同じ加熱時間の凍結乾燥品の麺や小麦粉だけの麺より一貫して軟らかくなりました。著者らは、熱風乾燥中にできた再結晶部分が、グルテンとでんぷんのつながりを途切れさせた可能性を挙げています。

研究が示すこと

この研究は、α化でんぷんの性質が糊化の程度だけでなく、乾燥工程によっても大きく左右されることを示しました。著者らは、糊化度の低い凍結乾燥でんぷんは硬めの麺づくりに、糊化度の高い熱風乾燥でんぷんは軟らかめの麺づくりに向く可能性があると述べています。ただし、これらは機器による食感測定に基づく見方です。消費者に受け入れられるかどうかは、人による官能評価で確かめる必要があると、著者ら自身が注意を促しています。

原著論文の著者・所属:Fen Xu(Tianjin International Joint Research and Development Center for Food Science and Engineering, Tianjin 300134, China; Tianjin Key Laboratory of Food and Biotechnology, School of Biotechnology and Food Science, Tianjin University of Commerce, Tianjin 300134, China)、Chenxing Wang(Tianjin International Joint Research and Development Center for Food Science and Engineering, Tianjin 300134, China; Tianjin Key Laboratory of Food and Biotechnology, School of Biotechnology and Food Science, Tianjin University of Commerce, Tianjin 300134, China)、Hanyi Duan(Tianjin International Joint Research and Development Center for Food Science and Engineering, Tianjin 300134, China; Tianjin Key Laboratory of Food and Biotechnology, School of Biotechnology and Food Science, Tianjin University of Commerce, Tianjin 300134, China)、Lingyi Li(Tianjin International Joint Research and Development Center for Food Science and Engineering, Tianjin 300134, China; Tianjin Key Laboratory of Food and Biotechnology, School of Biotechnology and Food Science, Tianjin University of Commerce, Tianjin 300134, China)、Jianfu Liu(Tianjin International Joint Research and Development Center for Food Science and Engineering, Tianjin 300134, China; Tianjin Key Laboratory of Food and Biotechnology, School of Biotechnology and Food Science, Tianjin University of Commerce, Tianjin 300134, China)、Honghai Hu(Institute of Food Science and Technology, Chinese Academy of Agricultural Sciences (CAAS), Integrated Laboratory of Potato Staple Food Processing Technology of the Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Key Laboratory of Agricultural Product Processing and Storage of the Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Beijing 100193, China)、Christophe Blecker(Department of Food Science and Formulation, Gembloux Agro-Bio Tech, Université de Liège, Passage des Déportés 2, B-5030 Gembloux, Belgium)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fen Xu, Chenxing Wang, Hanyi Duan, et al. Comparative Analysis of Pre-Gelatinized Potato Starch Prepared by Different Drying Methods and Its Influence on Noodle Quality. Foods 2026-10-21. DOI: 10.3390/foods15203752. 原著ライセンス:CC BY.