ぬか漬けは日本で古くから親しまれてきた発酵食品で、独特の酸味や香りは乳酸菌と酵母がぬか床の中で発酵を行うことで生まれます。しかし家庭や食品工場でぬか床を管理するには手間と時間がかかるうえ、発酵を担う微生物の組み合わせを一定に保つスターター技術が確立されていないため、仕上がりの品質にばらつきが出やすいという課題があります。この研究では、ぬか漬けらしい香りや風味を持つ調味液を、短時間かつ安定した品質で作れるようにすることを目指し、乳酸菌と酵母を使った連続発酵の条件を探っています。著者らは日本の研究機関に所属しており、選抜には食品企業である株式会社ピックルスコーポレーションが選んだ酵母も使われています。

どうやって乳酸菌と酵母を選んだのか

研究ではまず、研究室で分離した乳酸菌31株と、ピックルスコーポレーションが選抜した酵母(Saccharomyces sp. A)を使い、ぬか・酵母エキス・グルコースを原料とした培地を用意しました。90℃で5分間加熱殺菌したのち乳酸菌を加えて30℃で24時間発酵させ、そのあと加熱殺菌してから酵母を加えてさらに30℃で72時間発酵させるという、乳酸発酵と酵母発酵を順番に行う「連続発酵」の手順が取られています。できあがった発酵物は香りの強さなどを人が確かめる官能評価にかけられ、Latilactobacillus sakei K6-1、Leuconostoc mesenteroides K6-3、Levilactobacillus brevis K13-12、Liquorilactobacillus nagelii K16-11、Lactiplantibacillus plantarum K15-11の5株が候補として絞り込まれました。なお、この後の実験ではL. plantarum Pne-12とSaccharomyces sp. Aを組み合わせた発酵物が比較の基準として使われています。

続いて、選ばれた乳酸菌株と市販の酵母9株、そしてSaccharomyces sp. Aを組み合わせて同様に発酵物を作り、においの強さに加えて酸っぱいにおい、果物のようなにおい、アルコールのにおいという観点から官能評価が重ねられました。この段階で、K15-11株を除く乳酸菌4株と、酵母のS. cerevisiae BおよびS. cerevisiae var. diastaticus Cの2株が選抜されています。

香りの成分を機器で確かめる

最後に、選び直された乳酸菌と酵母の組み合わせについて、発酵温度を30〜40℃の範囲で変えながら発酵物を作り、官能評価とあわせてGC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)による香気成分の分析が行われました。その結果、K6-1、K13-12、K16-11のそれぞれとS. diastaticus Cを組み合わせた場合に、エステル類とアルコール類を合わせたピーク面積の合計が増える傾向が見られ、なかでもフェニルエチルアルコールと3-メチル-1-ブタノールという成分の増加が目立ったと報告されています。官能評価では、K16-11株とS. diastaticus Cを40℃で発酵させた発酵物のにおいが特に強く評価され、酸っぱいにおい・果物のようなにおい・アルコールのにおいが感じられた一方で、不快なにおいは認められなかったとされています。これらの結果から、著者らはK16-11株とS. diastaticus Cを用いた発酵物の有用性が示唆されるとまとめています。

この研究を読むときに気をつけたいこと

この報告は学会の講演要旨としてまとめられたものであり、香りの強さや成分の変化についての知見が中心です。ここで示されたのはあくまで発酵条件や菌の組み合わせを絞り込む過程の結果であり、実際の食品としての味や品質、保存性、安全性を保証するものではありません。また、健康への効果について述べたものでもない点に留意する必要があります。今回選ばれた菌株の組み合わせが、他の原料条件やスケールでも同様の結果を示すかどうかは、この要旨だけからは分かりません。

まとめ

この研究では、ぬか漬け特有の香りを短時間・安定した条件で再現する調味液づくりに向けて、乳酸菌と酵母の組み合わせや発酵温度を段階的に絞り込む取り組みが行われました。K16-11株とS. diastaticus Cという組み合わせが有望として示されていますが、一つの研究段階の結果であり、今後さらに検証が重ねられていくと考えられます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Kota Matsue, Manami Nakanishi, Takehisa Kumagai. 乳酸菌と酵母の連続発酵によるぬか漬け様調味液の技術開発. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_296.