この研究は、オーストラリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:International Journal of Food Microbiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を知ろうとした研究か

チョコレートの風味は、カカオ豆の発酵の段階でつくられる「前駆物質」と呼ばれる化学成分に大きく左右されます。この発酵には酵母をはじめとする微生物が関わっていますが、研究チームは、カカオに由来する個々の酵母株がそれぞれどのような働きをしているのかは、まだ十分に解明されていないと述べています。

そこで研究チームは、カカオから分離された6種類の酵母と、比較の基準として広く使われるパン酵母(サッカロミセス・セレビシエ)1株を取り上げ、カカオ発酵に近い条件のもとで、それぞれの特徴を並べて調べました。

どのように調べたか

調べたのは主に四つの側面です。糖をどれだけ使うか(糖利用)、有機酸——酸味のもとになる成分——をどれだけ作り変えるか、香りのもととなる揮発性成分をどのように生み出すか、そしてゲノム(遺伝情報の全体)の中で関連する遺伝子がどう注釈づけられるか、という点です。

培地は2種類が使われました。ひとつはカカオの果肉(パルプ)から抽出した液をもとにした培地、もうひとつはカカオ果肉の成分を人工的に再現した合成培地です。ゲノムについては、自動の注釈ツールによる解析に加え、特定の機能に絞って類似した配列を探す「相同性検索」も行われています。

報告された主な結果

カカオ果肉抽出液の培地では、クルイベロミセス・マルキシアヌスY1A、マイエロチーマ・ギリエルモンディY1、オガタエア・ポリモルファY3Aの3株が、糖の消費と有機酸の変換がもっとも強く現れたと報告されています。一方、クウォニエラ属のY4とY6Bは糖を多く残し、ロデロミセス・オルソプシロシスY5はその中間の性質を示しました。

合成培地で香り成分のプロフィールを調べると、中鎖脂肪酸・アルコール類・エステル類・カルボニル化合物といった成分の出方で、株ごとの違いがさらにはっきり分かれました。Y3Aは脂肪酸エチルエステルに関連する産生が持続し、Y1Aは酢酸エステルに偏った特徴を示しました。興味深いことにY4は、糖の利用そのものは弱かったにもかかわらず、エステルに関連する産生は強く現れています。

ゲノムの注釈では、中心的な代謝機能についてはどの株でも広く共通した裏づけが得られた一方、ショ糖(スクロース)の利用やエステル生成に関わる特徴に、よりはっきりした差が見られました。自動注釈だけでは説明しきれなかった部分については、絞り込んだ相同性検索によって、Y1Aにショ糖利用に関わる候補遺伝子が、Y3AとY4にはエステル生成に関わる候補遺伝子が見つかったと報告されています。

この研究が示すこと

複数の測定を組み合わせたこのデータセットは、炭素源の処理、有機酸の変換、香り成分に関わる代謝のいずれにおいても、株ごとにはっきりした違いがあることを示しました。試験された条件のもとでは、Y1AとY3Aが全体としてもっとも良好な特徴を示し、混合培養やパイロット規模のカカオ発酵でのさらなる評価に値すると論文は述べています。

ただし著者らは、ゲノムにもとづく分類の確定、安全性、技術的な安定性、規制上の適合性については、スターター(発酵の種菌)としての利用を考える前にあらためて確認が必要だと明記しています。カカオ発酵に関わる酵母を「ひとまとめ」ではなく株ごとに見ていくことの意味を、この研究は具体的な比較データとして示したといえます。

著者:Khadijat Oladayo Ganiyu(School of Chemical Engineering, UNSW Sydney, NSW, 2052, Australia)、Jian Zhao(School of Chemical Engineering, UNSW Sydney, NSW, 2052, Australia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Khadijat Oladayo Ganiyu, Jian Zhao. Integrated metabolite, volatile, and genome annotation profiling reveals distinct functional phenotypes in cocoa-derived yeasts. International Journal of Food Microbiology 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.ijfoodmicro.2026.112083. 原著ライセンス:CC BY.