ザリガニ料理は下ごしらえとして一度加熱してから冷凍し、食べる際に再加熱するという流通形態がとられることがあります。しかし冷凍保存や再加熱の過程で、食品の『香り』はもとの状態から変化してしまうことが知られています。今回紹介する研究は、こうしたプレクック(下加熱済み)のザリガニについて、冷凍保存と再加熱がその揮発性の香気成分にどのような影響を与えるかを詳しく調べたものです。
研究を行ったのは、中国・江西師範大学生命科学学院、同大学化学化工学院、江西師範大学淡水魚加工国家研究開発分中心、江西省検査検定総院食品検験検測研究院に所属する研究者らです。
研究でわかったこと
研究チームは、電子鼻(E-nose)とヘッドスペース固相マイクロ抽出-ガスクロマトグラフィー質量分析法(HS-SPME-GC-MS)という2種類の分析手法を組み合わせて、プレクックザリガニの香気成分を調べました。さらに、鍵となる香気物質を絞り込むために、直交偏最小二乗判別分析(OPLS-DA)と相対オーダー活性値(ROAV)という統計的な手法を用いて、詳しく検討しています。
まず官能評価(人の感覚による評価)では、4分間の予備加熱を行ったザリガニで最も高いスコアが得られました。そのうえで冷凍保存と再加熱を行った条件を比較したところ、『予備加熱4分・冷凍30日・再加熱2分』という条件(研究内ではY4-D30-F2群と呼ばれています)が最も高い官能評価スコアを示したと報告されています。
電子鼻による分析では、W1W、W1S、W2Wという3種類のセンサーの応答値が他のセンサーよりも有意に高くなりました。これは、プレクックザリガニ中に無機硫化物、アルカン類、芳香族化合物、有機硫化物が多く含まれていることを示すとされています。
GC-MS分析では、加熱直後のプレクックザリガニから39種類の揮発性香気成分が検出されましたが、冷凍保存と再加熱を経ると75種類にまで増加したことが確認されました。さらにOPLS-DAモデルを用いた解析により、変数重要度(VIP)が1以上となる、群間で差のある揮発性化合物が21種類選び出されました。加えてROAV分析の結果、(E)-2-ノネナール、ドデカナール、リナロールといった化合物が、プレクックザリガニの香味の質を左右する重要な物質であることが確認されたとしています。
これらの結果から、研究チームは、予備加熱の時間を適切に延ばすことでザリガニの香りの特徴が高まる可能性があること、また冷凍保存期間と再加熱時間の両方が揮発性香気成分の組成に影響を与え、両方の処理時間を延ばすことで香気成分の種類が増えることを結論としています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この記事で紹介した内容は、要旨に基づく一つの研究結果であり、香気成分の種類や量の変化についての報告にとどまります。香りの変化が味や品質、安全性の良し悪しに直結するかどうかについて、この要旨は断定していません。また、今回の記事はこの論文の要旨に基づいて作成しており、実験の詳細な条件(使用したザリガニの産地や個体数、具体的な冷凍温度など)については要旨に記載がないため触れていません。
まとめ
本研究は、電子鼻とGC-MSという2つの分析技術を組み合わせることで、プレクックザリガニの冷凍保存・再加熱に伴う香気成分の変化を明らかにしようとしたものです。予備加熱4分・冷凍30日・再加熱2分の条件で官能評価が最も高くなったこと、揮発性香気成分が39種類から75種類に増加したこと、(E)-2-ノネナール、ドデカナール、リナロールが香味を左右する主要成分として同定されたことが報告されています。研究チームは、これらの結果がプレクックザリガニ製品の保存中における香味調整に科学的根拠を提供しうるとしています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:冷凍保存と再加熱後のプレクックザリガニにおける揮発性香気成分の変化(DOAJ(オープンアクセス学術誌ディレクトリ)・2026年09月掲載予定)