オレンジジュースを作ると、果汁を搾ったあとに大量の「搾汁粕(皮や果肉の残りかす)」が出ます。この搾汁粕には食物繊維やポリフェノールなどの成分が残っていることが知られていますが、廃棄されることも多く、有効活用するための研究が続けられています。今回紹介する研究では、ネーブルオレンジ(Citrus sinensis Osbeck)の搾汁粕を粉末にする際に、乾燥方法の違いが粉末の性質にどう影響するかが調べられました。
研究を行ったのは、中国供銷合作社系列の済南果樹研究所(Jinan Fruit Research Institute, China Supply and Marketing Cooperatives)と山東農業工程学院(Shandong University of Agricultural Engineering)の研究者らです。
研究でわかったこと
この研究では、ネーブルオレンジの搾汁粕を粉末にするために、熱風乾燥(HAD)、ヒートポンプ乾燥(HPD)、そしてマイクロ波前処理とヒートポンプ乾燥を組み合わせた複合乾燥(MW-HPD)という3種類の方法が用いられました。それぞれの方法で作った粉末について、物理的な性質、栄養的な質、そして機能性(抗酸化力など)が系統的に比較されています。
まず乾燥時間については、マイクロ波で7分間前処理してからヒートポンプ乾燥(60℃)を行う方法(MW-HPD)が、従来の熱風乾燥(60℃)に比べて乾燥時間を約300分短縮したことが報告されています。この方法で得られた粉末は、色合いや粉体としての流れやすさ(流動性)も改善していたとされています。
粉末の物性については、ヒートポンプ乾燥(60℃)で作った粉末が最も小さく均一な粒度分布を示し、保水性(3.79 g/g)と保油性(1.86 mL/g)も他より高かったと報告されています。一方、熱風乾燥(60℃)の粉末はかさ密度が最も高く(0.84 g/mL)、圧縮成形を伴う用途に向く可能性が示唆されています。またヒートポンプ乾燥(60℃)の粉末は比表面積が比較的大きく、機能性食品の原料としての可能性が示唆されています。
成分面では、マイクロ波前処理を伴うヒートポンプ乾燥(7分、60℃)の粉末で総フェノール含量が最も高く(9.07 mg/g)、これは熱風乾燥(60℃)の粉末より53.73%高い値だったとされています。一方、ヒートポンプ乾燥(60℃)の粉末は水溶性食物繊維の含量が最も高く(10.98%)なりました。
機能性の評価では、ヒートポンプ乾燥(60℃)の粉末が強い還元力とDPPHラジカル消去能を示し、還元力の値は1.55、DPPHラジカル消去率は73.77%だったと報告されています。さらに、RAW264.7細胞(マウス由来のマクロファージ細胞)を用いた実験で、リポ多糖(LPS)により誘導される一酸化窒素(NO)の産生を、対照群と比べて37.4%減少させたとされ、抗炎症活性が示唆されると述べられています(統計的に有意な差、P<0.05)。
これらの結果から、マイクロ波前処理を伴うヒートポンプ乾燥(7分、60℃)で得られた粉末は、固形飲料をはじめとする様々な食品に配合する機能性素材として適した特徴を持つ一方、ヒートポンプ乾燥(60℃)単独で得られた粉末は、比表面積の大きさや抗酸化・抗炎症活性の高さから、表面吸着を利用した機能性食品や機能性製品の配合に適していると考察されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ネーブルオレンジの搾汁粕という特定の副産物について、実験室レベルで乾燥条件を比較検討したものです。ここで示された数値や活性は、あくまでこの研究で用いられた試料・条件のもとで得られた結果であり、一つの研究の知見として捉える必要があります。また、細胞を用いた実験結果は、ヒトの体内で同様の効果が得られることを直接示すものではありません。
まとめ
ネーブルオレンジの搾汁粕は、乾燥方法によって粉末の粒度や保水性・保油性、フェノール含量、抗酸化・抗炎症に関わる活性などが変化することが、この研究により示されました。特にマイクロ波を併用したヒートポンプ乾燥は、乾燥時間の短縮とフェノール含量の向上を両立させる方法として、ヒートポンプ乾燥単独は高い機能性を持つ粉末を作る方法として、それぞれ異なる用途への応用可能性が示唆されています。搾汁粕の有効活用に向けた基礎的な知見として位置づけられる研究といえます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:異なる乾燥方法がネーブルオレンジ搾汁粕の品質に及ぼす影響(DOAJ(オープンアクセスジャーナルディレクトリ)・2026年09月掲載予定)