お茶の産地は、味や香りだけでなく、価格や品質の信頼性にも関わる大切な情報です。しかし実際には、ラベルに書かれた産地と中身が本当に一致しているかを見分けるのは簡単ではありません。今回紹介する研究は、中国雲南省で作られる大葉種の日干し緑茶を対象に、茶葉に含まれる微量元素や安定同位体の組成を手がかりとして、産地を科学的に判別できるかどうかを調べたものです。
研究を行ったのは、雲南省農業科学院農業品質標準検測技術研究所(Institute of Agriculture Quality Standards & Testing Technique, Yunnan Academy of Agricultural Science)と雲南農業大学食品科学技術学部(Faculty of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University)の研究者らです。
どのように調べたのか
研究チームは、雲南省内の寧洱県(Ning'er County)、盈江県(Lianghe County)、思茅区(Simao District)、景洪市(Jinghong City)という4つの産地から集めた大葉種日干し緑茶、合計80検体を分析しました。それぞれの茶葉について、24種類の微量元素、14種類の希土類元素、そして5種類の安定同位体を、元素分析計-同位体比質量分析計(EA-IRMS)と誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)という装置を使って測定しています。
得られたデータは、分散分析(ANOVA)、主成分分析(PCA)、直交部分最小二乗判別分析(OPLS-DA)、線形判別分析(LDA)という複数の統計手法で解析されました。これらは、多数の測定値の中から産地ごとの違いを表すパターンを見つけ出すための手法です。
研究でわかったこと
まず、盈江県産の茶葉は、他の3産地に比べてミネラル元素の合計含有量が統計的に有意に高いことが示されました(P<0.05)。
次に主成分分析では、7つの主成分が抽出され、これらを合わせるとデータ全体のばらつきの80.831%を説明できることがわかりました。さらにOPLS-DAというモデルを用いると、4つの産地由来のサンプルを効果的に区別できることが示され、その中でも判別への寄与度(VIPスコア)が1を超える15の指標が特に重要な変数として選び出されました。具体的には、水素の安定同位体(δ2H)、酸素の安定同位体(δ18O)、ルビジウム(Rb)、アルミニウム(Al)、タリウム(Tl)、セシウム(Cs)、硫黄の安定同位体(δ34S)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、カドミウム(Cd)、ガリウム(Ga)、バリウム(Ba)、鉄(Fe)、ヒ素(As)、ストロンチウム(Sr)の15項目です。
これら15の指標を使ってフィッシャーの線形判別分析(LDA)を行ったところ、モデルは100.0%の正判別率を達成し、交差検証(モデルの信頼性を確かめるための検証手法)でも92.5%という高い一致率が得られました。この結果は、雲南省の大葉種日干し緑茶について、産地を追跡するうえでこの手法が頑健な能力を持つことを示すものだとされています。
この研究の位置づけ
この研究は、ミネラル元素と安定同位体の分析を組み合わせることで、雲南省の大葉種日干し緑茶の地理的原産地を追跡できる可能性を示したものです。著者らは、この成果がより精密な地理的スケールでの産地判別や、雲南省における地理的表示(産地を示すブランド)製品の保護に向けた研究の土台になるとしています。
今回の分析対象は雲南省内の4産地・80検体に限られており、この研究だけで産地判別の方法が確立したと結論づけるものではない点には留意が必要です。
まとめ
この研究では、雲南省産の日干し緑茶に含まれる微量元素・希土類元素・安定同位体のデータを統計的に解析することで、4つの産地を高い精度で判別できる可能性が示されました。お茶の産地表示の信頼性を科学的に裏づける手法の一例として、今後の研究の広がりが注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ミネラル元素と安定同位体の組み合わせに基づく雲南日干し緑茶の産地判別(DOAJ(オープンアクセスジャーナルディレクトリ)・2026年09月掲載予定)