この研究は、イギリスの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Ecological Economics

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

この研究は、私たちが一日の時間をどう使っているかという視点から、暮らしが生み出す温室効果ガス排出と、そこから得られる満足感の両方を捉えようとしたものです。著者らは、時間の使い方の分析が、暮らしの排出量とその暮らしの心地よさを理解するうえで、直感的で分かりやすい方法だと位置づけています。

背景にあるのは、経済成長に依存しない「ポスト成長」の議論です。研究チームは、北半球の豊かな国々の暮らしを、地球が受け止められる環境的な限界(プラネタリー・バウンダリー)の内側に収めつつ、人々の基本的な必要を満たし幸福を高める道筋を、日常の時間という尺度で描こうとしました。具体的には、フィンランド、フランス、英国の三か国を対象に、2016年時点の暮らしがどの程度その限界を超えていたのか、時間の使い方と排出の強さと満足感はどう関係するのか、そして将来の暮らし方の変化が排出と満足感をどう変えうるのかを問うています。

何を調べ、どう調べたか

土台になったのは、CaDDI(Click and Drag Diary Initiative)という時間利用調査です。参加者は電子的な日記に、一日を10分ごとに区切って何をしていたかを記録し、さらにその一区切りごとに「どのくらい楽しかったか」を1から7の段階で評価します。この研究では三か国分の3,214件の日記を使い、37種類の活動を16のグループにまとめたうえで、各国の平均的な24時間の過ごし方と、活動ごとの平均的な楽しさの評価を算出しました。ここでいう楽しさの評価は、活動の直後に近いタイミングで測られる「経験された幸福感」にあたるもので、著者らは、これが幸福のすべてを表すわけではないが、全体像を描くうえで有用な一部だと断っています。

次に、それぞれの活動に伴う排出量を三つの経路で見積もりました。家庭で直接使われるエネルギーによる排出、移動にともなう排出、そして商品やサービスが作られ運ばれる過程で間接的に生じる排出です。三つ目については、国際的な産業連関表を用いた環境拡張型の多地域産業連関分析という手法で、供給網全体にさかのぼって排出をたどっています。これにより、たとえば「英国でバスに1時間乗ると排出はどれだけか」といった、活動1時間あたりの排出の強さが国ごとに算出されました。

そのうえで、著者らは2050年の「充足ベースライン」を組み立てます。家庭の消費水準を、各国で必要とされる最低限の生活費の基準に合わせて全体的に引き下げ、エネルギー効率の改善と電化、生産段階の排出強度の低下、肉に依存しない食事への移行、自動車から公共交通や徒歩・自転車への大きな転換などを想定した、かなり野心的な前提です。この段階では時間の使い方は2016年のまま固定し、技術や仕組みの変化だけの効果を切り分けています。最後に、2050年の条件のもとで三つの時間の使い方のシナリオを組みました。労働時間を少し減らし余暇やケア労働・ボランティアに時間を振り向ける「よい暮らし」、介護や育児の責任が重い「ケア責任」、そして個人主義的な過ごし方の「個人主義」です。著者らはこれらを未来の予測ではなく、暮らし方の違いを比べるための思考の道具だと明記しています。満足感の比較には、活動ごとの平均的な楽しさの評価に、その活動に費やした時間の長さを掛け合わせて足し上げた「累積楽しさ指標」を新たに用いました。

報告された主な結果

まず、技術や消費の仕組みを大きく変えるという野心的な前提を置くと、時間の使い方が2016年のままでも、暮らしに伴う排出は大幅に下がると報告されています。一人あたりの年間排出量は、フィンランドで7.9トンから2.63トンへ、フランスで6.82トンから2.63トンへ、英国で7.38トンから2.28トン(いずれも二酸化炭素換算)へと下がる計算です。しかし著者らは、先行研究が示す、気温上昇2度に整合する一人あたりの目安である1.61トンと比べると、三か国のいずれもなおその水準を超えたままだと述べています。削減への寄与が最も大きかったのは移動に関わる排出で、三か国の削減全体の約4割から5割を占めました。

活動別に見ると、2016年時点で一日の排出に最も大きく寄与していたのは、排出の多い移動(とくに自家用車)、食事(肉の多い食生活が影響)、そして家庭内の家事労働でした。これらは一日の時間のうち1割強しか占めていないにもかかわらず、排出では突出しています。2050年の前提のもとでは、食事に関わる排出は三か国平均で約59.5%、排出の多い移動手段による排出は平均で約79.8%減ると見積もられました。それでもなお、2016年と同じ時間の使い方を続けるなら、食事・移動・家事に費やす時間だけで、一人あたりの環境的な限界を超えてしまうと報告されています。

時間の使い方と満足感の関係については、ケア労働や家庭・地域を支える労働に費やす時間が、賃金を得るための仕事よりも高い満足感と結びついていたことが示されました。また、徒歩や自転車による移動は、他のどの移動手段よりも排出が少なく、かつ満足感が高いという結果でした。三つのシナリオを比べた分析からは、暮らし方を変えることで満足感を高めつつ排出を減らすことは可能である一方、排出を環境的な限界の内側に収めるには、物やサービスを供給する仕組みそのもののさらに抜本的な変革が必要だと結論づけられています。著者らはあわせて、その変革がないまま時間の使い方だけを変えると、社会的には望ましい変化であっても、意図しない環境面の悪影響を生む場合があると指摘しています。

この研究が示すこと

著者ら自身も、この研究には限界があると述べています。同時に行われる二次的な活動は扱っていないこと、楽しさの評価は幸福の一側面にすぎないこと、2016年から2050年まで活動ごとの楽しさの評価は変わらないと仮定していること、そして各国の平均的な一日を見ているため、性別や所得、就労状況による大きな違いが見えなくなっていることなどです。

それでもこの研究は、一日の時間割という誰にとっても身近な尺度を通じて、環境の問題と暮らしの心地よさを同じ土俵に載せてみせました。私たちが何にどれだけ時間を使うかは、排出の量にも、日々の満足感にも効いてきます。ただし、個人が過ごし方を工夫するだけでは届かない部分があり、交通や住まい、エネルギーや食をどう供給するかという社会の仕組みの側が変わらなければ、環境的な限界の内側には収まらない——この研究が示しているのは、そうした見取り図です。

著者:Seán Fearon(Centre for the Understanding of Sustainable Prosperity, University of Surrey, Stag Hill, University Campus, Guildford GU2 7XH, UK)、Ben Gallant(Centre for the Understanding of Sustainable Prosperity, University of Surrey, Stag Hill, University Campus, Guildford GU2 7XH, UK)、Angela Druckman(Centre for the Understanding of Sustainable Prosperity, University of Surrey, Stag Hill, University Campus, Guildford GU2 7XH, UK)、Simon Mair(Centre for the Understanding of Sustainable Prosperity, University of Surrey, Stag Hill, University Campus, Guildford GU2 7XH, UK)、Lirong Liu(Centre for the Understanding of Sustainable Prosperity, University of Surrey, Stag Hill, University Campus, Guildford GU2 7XH, UK)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Seán Fearon, Ben Gallant, Angela Druckman, et al. How will we use our time in a future of sustainable wellbeing?. Ecological Economics 2026-08-28. DOI: 10.1016/j.ecolecon.2026.109221. 原著ライセンス:CC BY.