掲載誌:JGH open : an open access journal of gastroenterology and hepatology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
なぜタンパク質の「種類」が問われるのか
世界の食生活では、この70年ほどでタンパク質の摂取量が増え続けてきました。著者らは、40か国を対象にした系統的レビューで、北欧やアジアの一部では10年ごとに総エネルギーに占めるタンパク質の割合が0.5〜0.7%(およそ4〜6グラム分)増えてきたと報告されていることを紹介しています。同時に、環境への配慮などを背景に植物性タンパク質への関心も高まり、世界の国別食事ガイドラインの40%が、動物性より植物性のタンパク質を勧める内容を含むようになっているといいます。
一方で、動物性タンパク質のとりすぎは炎症性腸疾患(IBD)をはじめとする慢性の消化管疾患と関連づけられてきました。IBDは、大腸に炎症が起こる潰瘍性大腸炎(UC)と、消化管のさまざまな部位に炎症が生じうるクローン病(CD)を含む病気の総称です。著者らはこのナラティブレビュー(あるテーマについて既存の研究を幅広く読み解いて整理する総説)で、動物性・植物性それぞれのタンパク質がIBDの発症や治療においてどう位置づけられるのかを整理し、臨床現場と患者に役立つ具体的な助言を示すことを目的としています。ここでいう動物性タンパク質には赤身肉、豚肉、鶏肉、魚、卵、乳製品が、植物性タンパク質には豆類、ナッツ、種実、大豆、穀類、植物由来の代替肉が含まれます。
どのように調べたか
著者らは文献データベースPubMedを用い、「タンパク質」「動物性タンパク質」「植物性タンパク質」「赤身肉」「発酵」「消化性」「炎症性腸疾患」「潰瘍性大腸炎」「クローン病」「大腸がん」といった語を組み合わせて検索を行いました。対象としたのは英語で書かれた、レビューの範囲に関連する論文です。さらに、選んだ論文の引用文献リストを手作業で確認し、関連する文献を追加しています。
報告されている主な内容
まず著者らは、タンパク質の性質が「動物性か植物性か」という二分法だけでは捉えきれないことを強調しています。動物性タンパク質は消化されやすく必須アミノ酸をひと通り含む良質なタンパク質とされますが、その組成は供給源によってかなり異なります。赤身肉・鶏肉・卵は硫黄を含むアミノ酸が多く、腸内細菌に発酵されて硫化水素などの硫黄代謝物を生みます。鶏肉・赤身肉・ナッツに多い芳香族アミノ酸からはインドールやフェノール類が作られます。こうした窒素を含む代謝物は濃度が高くなると大腸の粘膜に害を及ぼしうると報告されてきました。一方、植物性タンパク質は構造が緻密で消化酵素が届きにくく、消化が不完全になりやすいため「難消化性タンパク質」と呼ばれることもあります。また、植物性タンパク質は食物繊維とともに摂取されるため、大腸では糖質の発酵が優勢になり、腸の上皮の健康に重要な短鎖脂肪酸が多く作られる方向に働くと説明されています。
腸内細菌への影響についても、食事全体の文脈が重要だと著者らは指摘します。動物性食品のみと植物性食品のみという両極端を比べた研究では、動物性に偏った食事で胆汁に強い細菌や分解性の細菌が増え、主要な短鎖脂肪酸である酢酸や酪酸が減ったと報告されています。ただし、こうした変化が目立つのは食事の改変が極端な場合や、食物繊維の摂取が少ない場合だといいます。実際、食物繊維を増やしたうえで動物性タンパク質を倍にした健康な男性28人の試験では、便中のタンパク質発酵代謝物の濃度は変わらなかったと報告されています。
発症リスクとの関連については、結果が一致していません。フランスの女性67,581人のコホートでは、植物性ではなく動物性タンパク質の高摂取がIBDリスクの上昇と関連したと報告されましたが、10か国413,593人を対象としたEPICコホートでは動物性タンパク質とIBD発症の関連は認められず、例外として肉類全体と赤身肉の摂取量が最も多い群でUCの発症との有意な関連(ハザード比1.45、95%信頼区間1.03〜2.04)がみられました。400万人超・IBD発症8,000例超をまとめたメタ解析でも、動物性タンパク質とIBDリスクの明確な関連は確認されていません。ただし用量反応の解析では、肉類全体の摂取が1日100グラム増えるごとにIBDリスクが38%高いという結果が示されています。同じ解析では乳製品の摂取が多いことはIBDリスクの19%低下と関連していましたが、この関連は体格指数と飲酒で調整すると保たれませんでした。植物性については、英国バイオバンクとEPICコホートで、健康的な植物性食パターンを守っている人でCDとUCの発症が25〜29%少なかった一方、精製穀物や超加工された植物性製品を多く含む「不健康な」植物性食では、発症リスクがそれぞれ48%、54%高いと報告されています。
すでに発症している人の再燃については、UCとCDで様相が異なります。1,091人のIBD患者を追跡したPREdiCCt研究では、肉類全体・赤身肉・白身肉の摂取が多い人でUCの再燃リスクがおよそ2倍になったと報告されました。これに対しCDでは、肉類と再燃の関連は認められず、寛解期のCD患者213人を対象とした無作為化比較試験でも、肉を多く食べる群と少ない群で再燃の頻度や再燃までの期間に差はなかったとされています。
著者らが「逆説」と呼ぶ点も紹介されています。CDでは、動物性タンパク質を多く含む食事療法が寛解の導入に有効だという証拠が積み上がっているのです。牛乳由来のタンパク質を唯一または主なタンパク源とする完全経腸栄養は小児CDの第一選択治療として確立しており、鶏肉と卵の摂取を組み込んだクローン病除去食(CDED)と部分経腸栄養の組み合わせも、6件の無作為化比較試験(CD患者297人)のメタ解析で、対照と比べて臨床的寛解に至るオッズが2.5倍と報告されています。著者らは、活動期の病態を動かす食事要因と、再燃を招く要因とは異なる可能性があるという解釈を示しています。
この総説が示すこと
著者らの結論は、タンパク質を「動物性か植物性か」という単純な対立で語るべきではない、というものです。同じ動物性でも赤身肉・加工肉と、乳製品・魚・鶏肉・卵とでは報告されている関連が異なり、同じ植物性でも豆類やナッツ、全粒穀物といった加工の少ない食品と、超加工された植物性代替品とでは向きが逆になりうるからです。
そのうえで実践的な助言として、動物性タンパク質を一律に避けることは現時点の証拠では支持されないこと、とくにCDでは乳・卵・鶏肉・魚由来のタンパク質を含む経腸栄養や除去食が用いられること、一方で寛解期のUCの人には赤身肉と加工肉を控えるよう勧めることが挙げられています。植物性タンパク質は、超加工された代替品ではなく、加工の少ない食物繊維に富む食品から、耐えられる範囲でとることが推奨されています。同時に著者らは、植物性食を支持する証拠の多くが観察研究であり、食事パターン全体や食物繊維摂取といった要因と切り離しにくいことも限界として認めています。食品そのものではなく食事全体の質を見るという視点が、この総説から読み取れる中心的な示唆です。
著者:Mohamedrashed M(Department of Gastroenterology, Eastern Health Clinical School Monash University & Eastern Health Melbourne Australia.)、Chauhan A(Department of Gastroenterology, Eastern Health Clinical School Monash University & Eastern Health Melbourne Australia.)、Svolos V(Laboratory of Clinical Nutrition and Dietetics, Department of Nutrition and Dietetics, School of Physical Education, Sports Science and Dietetics University of Thessaly Trikala Greece.; School of Medicine, Dentistry and Nursing, College of Medical, Veterinary and Life Sciences University of Glasgow Glasgow UK.)、Vasudevan A(Department of Gastroenterology, Eastern Health Clinical School Monash University & Eastern Health Melbourne Australia.)、Yao CK(Department of Gastroenterology, Eastern Health Clinical School Monash University & Eastern Health Melbourne Australia.; Department of Gastroenterology, School of Translational Medicine Monash University & Alfred Health Melbourne Australia.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mohamedrashed M, Chauhan A, Svolos V, et al. Plant and Animal Protein Sources in Inflammatory Bowel Disease: Current Evidence and Clinical Implications. JGH open : an open access journal of gastroenterology and hepatology 2026-08-27. DOI: 10.1002/jgh3.70462. 原著ライセンス:CC BY.