キノコは山の恵みとして親しまれてきた食材ですが、2011年の福島第一原発事故以降、放射性セシウムによる汚染が野外での栽培や採取を難しくしてきました。特に、土壌や落ち葉に直接触れる形で屋外に菌床を置く「露地の菌床栽培」については、キノコがどれくらい放射性セシウムを取り込むのかが十分にわかっておらず、栽培再開の障壁になっていました。今回プロス・ワン誌に発表された研究では、この空白を埋めるため、福島県内の森林でキノコ2種を実際に栽培する実験が行われました。

研究チームには、国立環境研究所(福島県福島地域協働研究拠点、地域環境保全領域など)や、福島県森林・林業・緑化協会きのこ振興センター、福島国際研究教育機構、森林研究・整備機構森林総合研究所など、日本の研究機関に所属する著者が名を連ねています。対象としたのは、福島の食文化やキノコ産業をかつて支えていたというハタケシメジ(学名Lyophyllum decastes)とムラサキシメジ(学名Lepista nuda)の2種です。

森の中で実際にキノコを育てて調べた

実験は、飯舘村・葛尾村・川内村・平田村、南会津町・下郷町・塙町、郡山市(2地点)・喜多方市・相馬市・伊達市・本宮市・田村市という、福島県内の広葉樹の落葉樹林14地点で行われました。地表から1メートルの高さの空間線量率は、地点によって0.04〜0.89マイクロシーベルト毎時とばらつきがありました。いずれの地点も、避難指示区域の外にあり、土地所有者の了承を得たうえで実施されています。

栽培方法は種によって工夫が分けられていました。ハタケシメジは、掘った穴に菌床を置いたうえで7〜14センチの土をかぶせ、さらにその上を落ち葉(リター)で覆うという、土の中に埋もれた木質を好む性質に合わせた方法がとられました。一方のムラサキシメジは、表土の上に菌床を置き、落ち葉が分解途中の腐植(リーフモールド)で覆う、落ち葉を分解して育つ性質に合わせた方法が採用されています。菌床自体は樹皮堆肥とふすまを10対2で混ぜたもので、堆肥中の放射性セシウム濃度はもともと低く(約50ベクレル/キログラム)、ふすまも汚染がないものを使い、キノコに含まれる放射性セシウムは主に周囲の土や落ち葉に由来すると考えられています。栽培は2024年7〜8月に菌床を設置し、ハタケシメジは同年10月、ムラサキシメジは同年11月に収穫されました。

いずれも国の基準を大きく下回る結果に

収穫されたキノコの放射性セシウム(セシウム137)濃度は、ハタケシメジで0.4〜12ベクレル/キログラム(平均2.2)、ムラサキシメジで0.2〜42ベクレル/キログラム(平均8.0)でした(水分量90%換算)。これは、日本の食品衛生上の基準値である100ベクレル/キログラムを、すべての試料が下回る結果です。研究チームは、この結果から広い範囲で露地の菌床栽培が可能だと考えられるとしています。

興味深いのは、2種のキノコで放射性セシウムを取り込む経路が異なっていたと分析されている点です。統計解析の結果、ハタケシメジでは、落ち葉の層だけでなく、地表から7センチまでの土壌と、7〜14センチの土壌の両方の汚染度と相関がみられました。一方ムラサキシメジでは、地表付近の土壌と、覆いに使った腐植(リーフモールド)の汚染度との相関が確認されています。この違いから、ハタケシメジについては菌床の周りを汚染の少ない土で埋めること、ムラサキシメジについては汚染の少ない腐植で覆うことが、それぞれの種に合わせた対策になりうると論文では述べられています。ただし、これらの対策の効果は、汚染度の異なる土や腐植を使った追加の実験で確かめる必要があるとも記されています。

また、土壌に含まれる放射性セシウムの総量をもとに算出された「移行係数」(土から生物への移りやすさを示す指標)は、ハタケシメジで2.72×10のマイナス5乗平方メートル毎キログラム、ムラサキシメジで5.72×10のマイナス4乗平方メートル毎キログラムでした。これは、これまで報告されている野生のキノコの値と比べて、いずれも1桁小さい数値だったとされています。

この研究を読むうえで気をつけたいこと

この研究は、避難指示区域外で、なおかつ空間線量率がおおむね1マイクロシーベルト毎時を下回る場所を対象にしたものである点に注意が必要です。論文中では、ハタケシメジについては空間線量率が65.71マイクロシーベルト毎時、ムラサキシメジについては2.34マイクロシーベルト毎時を超えると、平均的な条件のもとでは基準値の100ベクレル/キログラムを超える可能性があると試算されており、線量がより高い場所にそのまま当てはめられる結果ではありません。また、湿度や気温、日照時間、栽培期間といった気象条件も濃度と関連していたとされていますが、これらが本当に原因として働いているのかは、今後さらに条件を変えた実験で確かめる必要があるとされています。あくまで今回の14地点・2種における結果であり、他の種や条件にそのまま一般化できるかは今後の研究課題です。

まとめ

今回の研究は、福島県内の森林14地点でハタケシメジとムラサキシメジを実際に露地の菌床で栽培し、収穫したキノコの放射性セシウム濃度がいずれも国の基準値を下回ったことを示しました。あわせて、キノコの種類によって放射性セシウムを取り込む経路が土壌由来か落ち葉由来かで異なる可能性が示され、種ごとに異なる汚染対策のヒントが得られたとされています。研究チームは、これらの知見が汚染地域での露地キノコ栽培の再開を後押しするものだと位置づけていますが、対策の実効性を確かめるにはさらなる検証実験が必要だとしています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Masaru Sakai, Mirai Watanabe, Masami K. Koshikawa, et al. Radiocesium uptake in two fungal bed-cultivated edible mushroom species in forests in Fukushima, Japan. プロス・ワン (2026). DOI: 10.1371/journal.pone.0342639. 原著ライセンス: cc-by.