お茶は世界中で親しまれている飲み物ですが、その中に「紫茶(パープルティー)」と呼ばれる珍しい茶葉があることをご存じでしょうか。学名Camellia sinensisに属するチャノキの一品種で、品種名はTRFK306。ケニア共和国で開発されたもので、冷涼な高山地帯という環境と強い紫外線にさらされることで、葉にアントシアニンという色素成分が蓄積し、葉そのものが紫色になるのが特徴です。一般的な緑茶や紅茶、ウーロン茶と同じチャノキから作られながら、見た目も成分も個性的なこのお茶に、研究者たちが着目しました。
お茶類にはこれまでも、抗酸化作用や脂肪燃焼作用、血糖値の上昇を抑える働き、抗菌・抗ウイルス作用、抗アレルギー作用、運動機能の向上など、多彩な機能性が報告されてきました。今回紹介する研究では、紫茶と一般的な緑茶・紅茶・ウーロン茶とを「AGEs(終末糖化産物)生成阻害試験」という手法で比較したところ、紫茶が際立って高い活性を示したといいます。AGEsは、体内のタンパク質と糖が結びつくことで作られる物質で、肌の老化やさまざまな疾患との関わりが指摘されている成分です。この結果を受けて研究チームは、紫茶の中にどのような物質がAGEsの生成を抑えているのかを突き止めることを目的に、成分の探索を進めました。
紫茶から見つかった5つの成分
研究では、紫茶をお湯で抽出したエキスを、ゲル濾過やシリカゲルカラムクロマトグラフィーといった分離・精製の手法を使って分析しました。これらは、混合物の中から目的の化合物だけを段階的に取り出していく手法です。その結果、紫茶の熱水抽出物からは、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、GHG、エピカテキン、EGCGダイマーという5種類の化合物が単離されました。いずれもカテキン類やその関連物質で、お茶に含まれるポリフェノールの仲間です。
単離されたこれらの成分および抽出物そのものについて、AGEsの生成を抑える働きに加えて、チロシナーゼという酵素の働きを阻害するかどうかも調べられています。チロシナーゼは肌のメラニン色素の生成に関わる酵素で、その阻害試験も肌への作用を検討する視点の一つとして行われたと報告されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
今回の要旨からは、紫茶の抽出物や単離された5種の化合物がAGEs生成阻害試験およびチロシナーゼ阻害試験で調べられたこと、その結果として研究チームが「AGEs生成に起因する老化などを抑え、美肌効果をもたらす健康食品や化粧品への応用が期待できる」と述べていることが読み取れます。ただし、これは試験管内などで行われた実験に基づく報告であり、紫茶を飲んだり肌に使ったりすることで、ヒトの体で同じような効果が得られると確認されたわけではありません。一つの研究発表であり、結論が確定したものではない点には注意が必要です。
なお、この研究には日本の研究機関に所属する著者が含まれており、日本食品科学工学会大会の講演要旨集で発表される研究です。紫茶自体はケニアで開発された品種ですが、その機能性を分析する研究に日本の研究者が関わっている点は、お茶の機能性研究における日本とのつながりを示す一例といえるでしょう。
まとめ
紫茶は、ケニアで生まれた紫色のチャノキ品種TRFK306から作られるお茶で、一般的な緑茶や紅茶と比べてAGEs生成阻害試験で高い活性を示したことがきっかけとなり、今回の成分探索が行われました。その結果、エピカテキンガレートやエピガロカテキンガレートなど5種類のポリフェノール化合物が単離され、AGEs生成阻害やチロシナーゼ阻害という肌にまつわる作用の観点から調べられています。研究チームは健康食品や化粧品への応用に期待を示していますが、これは実験段階での知見であり、今後さらなる研究の積み重ねが必要な段階にあるといえそうです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Akiyoshi Sawabe, Nanako Teranishi, Sawa Kobuna, et al. 紫茶に含まれるポリフェノール類のアンチエイジング効果. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_106.