強い日差しを浴び続けると、肌は乾燥やシワ、たるみといった変化を起こしやすくなります。これは「光老化」と呼ばれる現象で、紫外線(UVA・UVB)が肌の内部に酸化ストレスを引き起こすことが主な原因とされています。とくに沿岸地域では紫外線の影響を受けやすいと指摘されており、これを和らげる方法として天然の抗酸化物質に注目が集まってきました。今回紹介する研究では、天然抗酸化物質の中でも特に活性が高いとされるアスタキサンチンを使い、皮膚への効果を高めるための新しいナノ粒子(ナノデリバリーシステム)を作り、その働きをマウスと培養細胞で調べています。

会合体アスタキサンチンを閉じ込めたナノ粒子を作製

アスタキサンチンは水に溶けにくく、そのままでは体内での安定性や利用効率に課題があるとされています。研究チームは、アスタキサンチンをウシ血清アルブミン(BSA)とキトサンで包み込む「ボトムアップ・レイヤーバイレイヤー自己組織化法」という手法を用い、水に分散しやすく安定性の高いナノ粒子(H/J-ABC-NP)を作製しました。できあがった粒子は球形で、粒径はそれぞれ231±9ナノメートルと368±5ナノメートル、表面電位(ゼータ電位)は+26mVと+30mVでした。アスタキサンチンをナノ粒子内に閉じ込める効率(カプセル化効率)は90%以上に達し、分光分析からは、静電的な引き合いや疎水性の相互作用、水素結合といった複数の力がナノ粒子形成に関わっていることが確認されました。

細胞とマウスの実験で抗酸化・抗光老化作用を検証

まず、過酸化水素(H2O2)で酸化ストレスを与えたL929細胞(マウス由来の線維芽細胞)を使い、このナノ粒子の抗酸化能力を調べました。その結果、H/J-ABC-NPは95%以上という高い細胞生存率を保ちながら、細胞内の活性酸素の産生を抑え、抗酸化酵素であるSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)やCAT(カタラーゼ)の発現を促す様子が確認されています。続いて、UVA・UVBを照射して光老化状態を再現したBALB/cマウスを用いた実験では、H/J-ABC-NPを投与した群で肌のシワ形成や表皮の肥厚が抑えられ、コラーゲン線維の構造が保たれる傾向が報告されました。さらに、抗酸化酵素(SOD、CAT、GSH-Px)の発現が促進される一方で、炎症や酸化ダメージの指標となるMDAやIL-1α、IL-6、IL-1βといった物質の過剰な発現が抑えられたとされています。加えて、コラーゲンを分解する酵素MMP-1の発現が抑制され、コラーゲンの構成成分であるヒドロキシプロリン(HYP)やヒアルロン酸(HA)の発現が増えることで、コラーゲンの分解が緩和される方向の変化が見られたとまとめられています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、培養細胞と動物モデルを用いた基礎研究の段階であり、ヒトの肌で同様の効果が得られるかどうかは今後の検証が必要です。研究チームは、今回の結果をもとに、アスタキサンチンを会合体として利用したナノ粒子が機能性食品や医薬品への応用につながる可能性を示唆していますが、これはあくまで研究段階での提案であり、実用化や効果を保証するものではありません。なお、著者らの所属機関には日本の研究機関が含まれています。

紫外線による肌ダメージへの対策として、抗酸化物質を届ける技術の工夫は研究が進む分野の一つです。今回の成果は、アスタキサンチンという素材の可能性を示す一つの研究成果として捉えるのが妥当でしょう。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yingyuan Zhao, Panpan Pei, Yuting Sun, et al. Intervention of aggregates astaxanthin nano-delivery system on skin photoaging. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_78.