果物の皮は多くの場合、廃棄されてしまう部分です。しかし柑橘類の果皮には香り成分である精油が豊富に含まれており、これを食品の保存に役立てようとする研究が進められています。今回紹介する研究は、オレンジ果皮から得た精油と、トウモロコシ由来のデンプンを組み合わせて「クライオゲル」と呼ばれる多孔質の素材を作り、これを生鮮チーズの保存に応用できるかを調べたものです。研究にはブラジルのペロタス連邦大学(UFPel)の研究者らが取り組みました。

クライオゲルとは、水分を含んだゲルを凍結・乾燥させることでできる、スポンジのようにすき間の多い構造を持つ素材です。この研究では、アミロースという成分の含有量が異なる4種類のトウモロコシデンプン(ワキシー種、レギュラー種、ハイロンV、ハイロンVII)を使ってクライオゲルを作り、そこにオレンジ果皮精油(OPEO)を10%(重量比)加えて性質を比較しました。アミロース含有量はデンプンの構造や、糊化のしやすさ、熱への反応、結晶化の度合いといった性質に影響することが知られており、これがクライオゲルの出来にどう関わるかが調べられました。

アミロース含有量とクライオゲルの構造

まず、オレンジ果皮精油そのものについて、Aspergillus flavusとPenicillium crustosumという2種のカビに対する抗菌試験(空気を介して作用するかを調べるマイクロアトモスフィア試験)が行われ、いずれのカビの増殖に対しても有意な抑制効果が確認されました。

次に、4種類のデンプインから作られたクライオゲルはいずれも空隙率78.0〜86.5%、密度0.089〜0.152 g/cm³という、すき間の多い軽量な構造を示しました。ただし、アミロース含有量が高いデンプイン(ハイロンV、ハイロンVIIなど)から作られたクライオゲルは、より密で空隙率が低い構造になることが分かりました。これは「老化(レトログラデーション)」と呼ばれる、デンプイン分子が再び結晶構造を作る現象が起きやすいためと説明されています。

4種類の中で最も高い吸水率(1055%)を示したのはレギュラー種(一般的なアミロース含有量を持つ通常のトウモロコシデンプイン)のクライオゲルでした。構造がしっかりしており空隙率が高く密度が低いこと、また離水(ゲルから水分がにじみ出る現象)が少ないことから、このレギュラー種のクライオゲルが以降の詳しい構造解析と、実際のチーズへの応用試験の対象として選ばれました。

チーズでの実証試験の結果

レギュラー種のクライオゲルは、内部でつながり合った多孔質構造を持つことが確認されました。ここにオレンジ果皮精油を加えると、素材の孔のサイズは平均201マイクロメートルから128マイクロメートルへと小さくなり、結晶化度も28%から5〜6%へと大きく低下しました。これは精油の添加がデンプインの構造そのものを変化させたことを示しています。

このクライオゲルを、市販のミナスフレスカルチーズ(水分が多く傷みやすいブラジルの生鮮チーズ)と一緒に4℃で12日間保存する試験が行われました。その結果、クライオゲルを使うことでチーズ中のカビ・酵母の数が減少したことが報告されています。一方で、チーズのpH、酸度、水分活性といった品質指標には目立った変化がなく、さらにクライオゲル自体がチーズから出る水分(ドリップ)を最大149%吸収したことも確認されました。これらから、この素材はカビ・酵母を抑える働きと、余分な水分を吸収する働きの両方を兼ね備えた「デュアルファンクション」の包装材料となる可能性が示唆されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、デンプインの種類(アミロース含有量)を変えることでクライオゲルの構造や機能性が変化することを示し、その中から選んだ一種類について、実際のチーズを使った12日間の保存試験まで行った点に特徴があります。ただし、これは一つの研究であり、素材の設計や試験条件が変われば結果も変わりうるため、結論が確定したものではありません。ここで示された効果は、あくまでこの研究で用いられた条件下での観察結果として理解する必要があります。

なお、この研究や記事の中に、日本の研究機関や日本の食品・食習慣への言及は含まれていません。

まとめ

オレンジの皮という廃棄されがちな資源から得た精油と、トウモロコシデンプインを組み合わせることで、カビ・酵母の増殖を抑えつつ余分な水分も吸収できる多孔質素材が作れる可能性が、この研究によって示されました。今後、こうした素材が生鮮食品の保存にどのように活用されていくのか、さらなる研究の展開が注目されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Élder Pacheco da Cruz, Jéssica Silveira Vitoria, Gabriel Lucas Pail, et al. Corn starch cryogels with orange peel essential oil: Influence of amylose content and application in Minas Frescal cheese. フードリサーチインターナショナル誌 (2026). DOI: 10.1016/j.foodres.2026.120330. 原著ライセンス: cc-by.