鉄分不足を補うためのサプリメントは、味や胃腸への負担が原因で続けにくいという課題があります。そこで注目されているのが、鉄をそのまま摂取するのではなく、デンプンのような食品由来の担体に鉄を組み込んで食品に加える方法です。中国・甘粛農業大学食品科学工程学院の研究グループは、米デンプンに鉄塩を組み合わせた複合体を作り、その物理的な性質や消化のされ方がどう変わるのかを調べました。

どのように鉄をデンプンに組み込んだのか

研究チームは、鉄塩としてグルコン酸第一鉄(FG)とクエン酸第二鉄(FC)の2種類を用意し、それぞれを米デンプンに組み込みました。組み込みの方法としては、超高圧処理(200・400・500メガパスカルの3段階)と、湿熱処理(加熱を伴う処理、Hと表記)の2系統を比較しています。できあがった複合体について、粒子の形や大きさ、水を吸う力(吸水性)、水への溶けやすさ、膨らむ力(膨潤力)、水分が分離してしまう度合い(離水)、そして粘弾性(G′・G″という指標で表される弾性と粘性の強さ)や消化されにくいデンプン(レジスタントスターチ、RS)の割合などを、試験管内での実験で確認しました。

鉄を組み込むとデンプンはどう変わったか

結果として、鉄塩を組み込んだデンプンは、組み込む前に比べて粒子サイズや吸水性、溶解性、膨潤力、離水の度合いがいずれも大きくなったと報告されています。その程度は、湿熱処理でグルコン酸第一鉄を組み込んだもの(H-FG)が最も大きく、続いて超高圧500メガパスカル、400メガパスカル、200メガパスカルでグルコン酸第一鉄を組み込んだ順に小さくなるという傾向が見られました。一方で、弾性(G′)や粘性(G″)、粘度、そしてレジスタントスターチの割合は、鉄塩を組み込むことでいずれも低下したとされています。また、できあがった複合体は、力を加えるほど流れやすくなる性質(せん断減粘性、ずり応力をかけると粘度が下がる典型的な挙動)を示し、冷凍と解凍を繰り返したときの安定性も処理条件によって調整できる可能性があるとされています。こうした性質から、研究チームは穀物主食やソース類、冷凍食品といった食品への鉄強化素材としての応用可能性を挙げています。

この研究をどう読むか

この研究は試験管内での理化学的な測定と消化性の評価にもとづくものであり、実際にヒトや動物が食べた場合の鉄の吸収効率や健康への影響を検証したものではない点には注意が必要です。また、比較されたのはグルコン酸第一鉄とクエン酸第二鉄という2種類の鉄塩、米デンプンという特定の原料に限られており、他の鉄源やデンプンの種類でも同様の結果になるかどうかは今回の要旨からは分かりません。あくまで一つの研究であり、これをもって鉄強化食品の効果や安全性が確定したわけではない点をふまえて読む必要があります。

まとめ

今回の研究では、米デンプンに鉄塩を組み込む際の処理方法(超高圧処理か湿熱処理か、圧力の強さ)によって、できあがる複合体の吸水性や粘弾性、消化されにくさなどの性質が変化することが示されました。鉄不足への対応として、味や食感を損ないにくい食品素材の設計に向けた基礎的な知見を提供するものといえそうです。今後、実際の食品への応用や、体内での鉄の利用のされ方についてのさらなる検証が待たれます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Jiayuan Li, Xinhua He, Jiamin Yang, et al. Physicochemical properties and digestibility of starch-iron salt complexes under ultra-high pressure and hydrothermal treatment. npjサイエンス・オブ・フード (2026). DOI: 10.1038/s41538-026-01056-3. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.