著者の所属・活動拠点の国は、オーストリア、デンマークです。
掲載誌:Frontiers in Microbiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
牛肉の衛生と品質には、と畜・解体の過程で枝肉の表面に付く細菌が大きく関わります。細菌の種類を調べる方法として、遺伝子(DNA)を読み取って群集の構成を調べる手法が広く使われています。ただし著者らは、DNAを調べる方法では生きている細胞と死んだ細胞、細胞の外に残ったDNAを区別できないことを課題として挙げています。
そこで研究チームは、細胞内でたんぱく質をつくる装置であるリボソームのRNA(rRNA)を対象にしました。rRNAはDNAより壊れやすいため、調べると「活動している可能性のある細菌」をより反映できると考えられます。研究の目的は、この方法を使い、と畜工程の段階ごとに枝肉表面の細菌群集がどう違うかを明らかにすることでした。
何をどのように調べたか
調査地は、食品安全規格の認証を受けたオーストリアのと畜場です。1日の調査で、3つの段階の枝肉から試料を採りました。皮をはいだ直後(9頭)、枝肉を縦に二分割した直後(10頭)、冷却室で24時間以上冷やした後(9頭)です。各段階では別々の枝肉を調べており、同じ枝肉を追跡したわけではありません。試料は、もも上部の表面10平方センチメートルを滅菌したメスで削り取って集めました。
試料からRNAを取り出し、残っているDNAを取り除きました。そのうえで、細菌の種類を見分ける目印となる16S rRNAの一部を読み取りました。こうして、各試料に含まれる細菌の構成と、その割合を調べています。
主な結果
皮はぎ直後の段階では、シュードモナス門(Pseudomonadota)が中央値で約6割を占めていました。属のレベルでは、大腸菌と赤痢菌をまとめた「Escherichia-Shigella群」が中央値16.1%で全試料から見つかり、シュードモナス属(Pseudomonas)も中央値5.1%でした。Escherichia-Shigella群は、糞便による汚染や衛生上の不備を示す目安としてよく使われる細菌です。シュードモナス属は低温でも増殖できる性質を持ち、肉の腐敗に関わる細菌として知られています。
二分割の直後には群集の構成が大きく変わり、バシロータ門(Bacillota)が最も多い門になりました。属のレベルでは、グルベンキアニア属(Gulbenkiania)、エペリスロゾーン(マイコプラズマ)、コリネバクテリウム属、エキシグオバクテリウム属がすべての試料で見つかりました。このうちグルベンキアニア属とエキシグオバクテリウム属は、皮はぎ直後の試料からは一つも検出されていませんでした。
冷却後の枝肉では再びシュードモナス門が中心となり、Escherichia-Shigella群(中央値11.6%)とシュードモナス属が多く見られました。著者らは、冷却は低温に強い腐敗菌を抑えるための重要な管理点であり、そこでシュードモナス属が検出されたことは重要だと述べています。
群集全体で見ると、工程の段階は細菌の構成の違いに統計的に有意に関わっていました。ただし、段階で説明できる違いは全体の約16%にとどまります。著者らはこの結果を、群集が大きく作り変わったのではなく、段階ごとに構成の割合がずれた程度だと解釈しています。また、1試料あたりの細菌の多様さには、段階による有意な差は見られませんでした。
この研究が示すこと
著者らは、枝肉表面で活動している可能性のある細菌が、皮、糞便、施設環境といった複数の由来から来ていると考察しています。そのうえで衛生管理の要点として三つを挙げました。皮はぎでは皮に由来する汚染を厳しく抑えること、二分割以降では水や器具を通じた細菌の持ち込みに注意すること、冷却では低温に強い腐敗菌を抑えるよう工程を最適化することです。
一方で著者らは、rRNAが検出されても、その細菌が確実に活動しているとは言えないと注意しています。今回の結果は、少ない試料数で1日だけ、しかも段階ごとに別の枝肉を調べたものです。そのため、枝肉ごとの違いや施設に特有の条件が結果に影響している可能性があります。この研究は、RNAに注目することで、牛の解体工程で活動している可能性のある細菌の姿を、DNAとは異なる角度から描けることを示しました。
原著論文の著者・所属:Muhammad Sharjeel Chaughtai(Centre for Food Science, Clinical Department for Farm Animals and Food System Transformation, University of Veterinary Medicine Vienna)、Franz-Ferdinand Roch(Centre for Veterinary Public Health and One Health, Clinical Department for Farm Animals and Food System Transformation, University of Veterinary Medicine Vienna)、Sarah Thalguter(Clinical Centre for Population Medicine in Fish, Pig and Poultry, Clinical Department for Farm Animals and Food System Transformation, University of Veterinary Medicine Vienna)、Tea Movsesijan(Austrian Competence Centre for Feed and Food Quality, Safety and Innovation FFoQSI GmbH; Centre for Food Science, Clinical Department for Farm Animals and Food System Transformation, University of Veterinary Medicine Vienna)、Beate Conrady(Department of Veterinary and Animal Sciences, University of Copenhagen)、Monika Dzieciol(Centre for Food Science, Clinical Department for Farm Animals and Food System Transformation, University of Veterinary Medicine Vienna)、Martin Wagner(Centre for Food Science, Clinical Department for Farm Animals and Food System Transformation, University of Veterinary Medicine Vienna)、Evelyne Selberherr(Centre for Food Science, Clinical Department for Farm Animals and Food System Transformation, University of Veterinary Medicine Vienna)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muhammad Sharjeel Chaughtai, Franz-Ferdinand Roch, Sarah Thalguter, et al. RNA-based characterization of ribosomally active microbial communities during beef slaughtering. Frontiers in Microbiology 2026-09-30. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1946469. 原著ライセンス:CC BY.