著者の所属・活動拠点の国は、サウジアラビアです。
掲載誌:Brain and Behavior
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
試験前になるとつい甘いものに手が伸びたり、逆に食欲が失せたり——ストレスと食べ方の関係は誰しも心当たりがあるテーマです。サウジアラビアのキング・アブドゥルアジズ大学(ジェッダ)の臨床栄養学科の研究者らが、大学生297人を対象に、感じているストレスの強さと肥満の指標(BMIや腹囲)が、実際にどのような『食べ方の癖』を介してつながっているのかを調べました。
これまでにも、ストレスが乱れた食習慣と関連するという報告は欧米を中心に蓄積されてきましたが、非西洋圏の若年層でのデータは限られていました。研究チームは、ストレス自体が体重に直接影響するのではなく、ストレスによって『感情的に食べる』『食べ始めると止まらない』といった行動が引き起こされ、それが体格の指標と結びついているのではないかという仮説を検証しています。
どのように調べたのか
対象は2024年2月に同大学に在籍する18〜26歳の学部生339人のうち、糖尿病や高血圧などの慢性疾患がない297人(女性66.7%)です。参加者はまず身長・体重(BMI算出用)、腹囲、そして握力を実測されました。腹囲は肋骨下縁と腸骨稜の中間で測定され、性別とBMIごとに異なる基準値(国際アテローム性動脈硬化学会などによる基準。サウジアラビア独自の基準がまだ無いため、地理的・文化的に近いとされるヨルダンの基準値が代用されました)を用いて、心血管代謝リスクの高さも分類されています。
そのうえで、アラビア語版の『知覚ストレス尺度(PSS-10、過去1か月のストレスの感じ方を0〜40点で評価)』と、食行動を3つの傾向——認知的抑制(意識的に食事量を抑えようとする傾向)、非制御的摂食(食べ始めると自分でコントロールしにくい傾向)、情動的摂食(嫌な気持ちのときに食べてしまう傾向)——に分けて測る『三因子食行動質問票(TFEQ-R18)』に回答してもらいました。統計解析では、ストレスが直接BMIや腹囲に影響するかだけでなく、これら3つの食行動を介した『間接的な経路』があるかどうかを、性別と年齢の影響を調整したうえで検討しています。
ストレスと体格を直接つなぐ経路は見つからなかった
まず単純な比較では、男子学生の方がBMI・腹囲・握力ともに高い一方、女子学生の方が知覚ストレスの点数と認知的抑制の点数が高いという結果でした。ストレスが高いグループ(PSS-10で27点以上)ほど腹囲が小さい、握力が弱いといった一見意外な傾向も見られましたが、これは横断的な相関であり、原因と結果の関係を示すものではありません。
肝心の解析結果として、知覚ストレスとBMI、知覚ストレスと腹囲の間には、統計的に意味のある直接の関連は見られませんでした。しかし、間に食行動を挟んだ『間接的な経路』では、2つの結びつきが確認されています。一つは、ストレスが強いほど情動的摂食の傾向が強まり、それがBMIの高さと関連するという経路です。もう一つは、ストレスが強いほど非制御的摂食の傾向が強まり、それが腹囲の大きさと関連するという経路です。研究チームの試算では、知覚ストレスが集団内の標準偏差1つ分(この集団ではおよそ6.3点)上がると、情動的摂食を介してBMIが約0.20kg/m²、非制御的摂食を介して腹囲が約0.30cm、それぞれ高くなる計算になるとされています。ただし論文中でも強調されている通り、これらの効果は『非常に小さい』ものです。なお、意識的に食事を控える『認知的抑制』はBMI・腹囲の両方と関連はしていたものの、ストレスとの間の橋渡し役にはなっていませんでした。
この結果をどう受け止めるか
著者らは、この研究が横断研究(ある一時点でのデータを比較したもの)であることを明確な限界として挙げています。つまり、ストレスが先に食行動を変え、それが体格に影響したという因果関係を証明したものではなく、あくまで『関連が見られた』という段階の報告です。実際に論文の結論でも、得られた間接的な関連は臨床的に意味のある大きさとは言えず、今後は同じ人を時間を追って調べる縦断研究が必要だと述べられています。また使用されたストレス尺度は直近1か月の状態を尋ねるものであり、より長期・慢性的なストレスとは性質が異なる可能性もあるとされています。
とはいえ、大学生の間でストレスを感じる人の割合は決して少なくないとされ、たとえ一人ひとりへの影響が小さくても、集団全体で見れば無視できない意味を持つ可能性があると著者らは指摘しています。
知覚ストレスと体格を結ぶ『万能の原因』が一つあるわけではなく、感情に流されて食べてしまう傾向や、食べ始めると止まらない傾向といった個々の食行動の癖が、目立たない形で関わっているかもしれない——今回の研究は、そうした複雑さを丁寧に切り分けて示した一例だと言えそうです。今後、より長期間にわたる調査でこの関連が確認されるかどうかが注目されます。
著者:Sahar Afeef(Department of Clinical Nutrition, Faculty of Applied Medical Sciences King Abdulaziz University Jeddah Saudi Arabia)、Sundus Malaikah(Department of Clinical Nutrition, Faculty of Applied Medical Sciences King Abdulaziz University Jeddah Saudi Arabia)、Nehal AlSharif(Department of Clinical Nutrition, Faculty of Applied Medical Sciences King Abdulaziz University Jeddah Saudi Arabia)、Noor Algoregry(Department of Clinical Nutrition, Faculty of Applied Medical Sciences King Abdulaziz University Jeddah Saudi Arabia)、Reoff Alobeidi(Department of Clinical Nutrition, Faculty of Applied Medical Sciences King Abdulaziz University Jeddah Saudi Arabia)、Eram Albajri(Department of Clinical Nutrition, Faculty of Applied Medical Sciences King Abdulaziz University Jeddah Saudi Arabia)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Sahar Afeef, Sundus Malaikah, Nehal AlSharif, et al. Emotional and Uncontrolled Eating as Mediators Between Perceived Stress and Adiposity Indicators in University Students: A Cross‐Sectional Study. ブレイン・アンド・ビヘイビア (2026). DOI: 10.1002/brb3.71647. 原著ライセンス: cc-by.