長距離を走る選手にとって、貧血や鉄不足は競技力に直結しかねない身近な悩みです。近年、腸内環境と鉄の代謝には関係がある可能性が指摘されており、腸内環境を整えることが鉄の栄養状態の改善につながるのではないか、という視点から行われた研究が発表されました。今回は、大学生の駅伝選手を対象に、食事を通じて腸内環境を整える取り組みが鉄の栄養状態にどう影響するかを調べた研究をご紹介します。
研究の背景には、「腸内環境が乱れると鉄代謝が抑制され、鉄の栄養状態が悪化しやすくなる可能性がある」という考え方があります。そこでこの研究では、腸内環境を整える食事内容への介入によって、実際に鉄の栄養状態にどのような影響が及ぶのかを検討することを目的としています。
研究でわかったこと
対象となったのは、大学生男子駅伝ブロックに所属する選手13名です。2024年4月から2025年1月にかけて、血液検査、腸内細菌叢(そう)検査、食物摂取頻度調査を2〜3か月に1回、合計4回実施しました。検査結果をもとに個別の栄養指導が行われ、寮で提供される食事に腸内環境を整える食材が取り入れられたほか、栄養セミナーを通じて選手自身の知識を高め、行動の変化につなげるアプローチが取られました。
今回の発表では、箱根駅伝本選に選抜された選手(5名)と、選抜されなかった選手(8名)を比較し、腸内細菌叢や鉄の栄養状態に群間の違いがあるかが検討されています。
1回目と4回目の調査結果を平均で比較すると、腸内細菌叢検査ではビフィズス菌と酪酸産生菌の増加率が、選抜選手でそれぞれ326%と258%、非選抜選手で159%と150%となり、特に選抜選手で増加が顕著だったと報告されています。一方、お腹の不調に関わる機能性下痢(IBS)スコアの増加率は、選抜選手では64%へと減少したのに対し、非選抜選手では482%へと増加したとされています。
食物摂取頻度調査では、水溶性食物繊維と鉄の摂取量の増加率は全選手で減少していた一方、ヨーグルトの摂取頻度の増加率は183%、107%と高く、2回目の調査以降は全員がビフィズス菌入りの製品を摂取していたとのことです。しかし血液検査では、鉄の栄養状態に明確な変化は認められなかったと報告されています。
研究チームは、食事介入によって有用菌が特に選抜選手で顕著に改善したことが、IBSスコアの変化に影響した可能性があると考察しています。一方で、夏合宿や実習などにより食事の環境が不安定になった時期(2・3回目の調査)には腸内環境が一時的に悪化する様子もみられ、これが鉄の栄養状態に変化がみられなかった要因の一つである可能性があるとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は大学生駅伝選手13名という限られた人数を対象とした調査であり、この結果だけで腸内環境の改善が鉄の栄養状態を改善させると断定できるものではありません。また、合宿や実習などで食事環境が変わる時期があったことも結果に影響した可能性があるとされています。研究チーム自身も、今後はより長期的な介入を行い、腸内環境を長期的に安定させることが鉄の栄養状態にどう影響するかを改めて検討する必要があると述べています。あくまで一つの研究段階の報告であり、結論が確定したものではない点に留意して読む必要があります。
まとめ
今回紹介した研究では、大学生駅伝選手を対象に腸内環境を整える食事介入を行ったところ、ビフィズス菌や酪酸産生菌の増加、お腹の不調スコアの改善傾向が示唆された一方で、鉄の栄養状態そのものには明確な変化が認められなかったと報告されています。腸内環境と鉄代謝の関係については、今後さらに長期的な研究による検討が必要とされています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:大学生駅伝選手における腸内環境の改善が鉄栄養状態へ及ぼす影響(日本体育・スポーツ・健康学会予稿集・2025年12月)