卵を長く産んできた採卵鶏(老鶏)は、卵を産む役目を終えたあとは食肉として利用されます。しかし長期間の産卵を経た鶏の肉は、脂肪が多くなったり酸化が進んだりして、若い鶏に比べて肉質や商品価値が落ちやすいことが知られています。中国では鶏肉は豚肉に次いで多く消費される肉であり、こうした老鶏の肉をどう活用するかは食肉業界にとって現実的な課題です。今回、中国・天津農学院などの研究グループが、桑(Morus alba L.)に含まれるアントシアニン(以下、桑アントシアニン)を鶏の餌に混ぜることで、老鶏の肉質や体内の酸化状態、腸内細菌叢にどのような変化が起きるかを調べました。桑アントシアニンには抗酸化作用や抗炎症作用、脂質を下げる作用が報告されており、これを老鶏の飼育に応用できないかという発想が背景にあります。

どのように調べたのか

実験には370日齢の健康な華北柴鶏240羽が使われました。鶏たちは、通常の飼料のみを与える対照群と、桑アントシアニンを飼料1kgあたり50mg、100mg、200mg、400mgの割合で加えた4つの群、合わせて5グループに分けられ、30日間飼育されました。飼育終了後、と体の歩留まり(枝肉率)やもも肉の収量、血液中の中性脂肪(TG)や肝機能に関わる酵素(ALT、AST)の値、抗酸化に関わる指標(T-AOC、T-SOD、グルタチオンペルオキシダーゼ、カタラーゼ)、脂質の酸化を示すマロンジアルデヒド(MDA)や薄層バルビツール酸反応性物質(TBARS)などが測定されました。また肉そのものについても、加熱による減量(蒸し煮した際の水分の抜け具合)、脂肪含量、赤み(a*値)、たんぱく質・水分・ミオグロビン・コラーゲンの含有量が調べられています。さらに16S rRNA遺伝子の解析によって盲腸内の腸内細菌叢の構成も比較されました。加えて、桑アントシアニンに含まれる主要成分であるシアニジン-3-O-グルコシド(C3G)とシアニジン-3-O-ルチノシド(C3R)が、鶏の体内にどう取り込まれるかを確かめるため、別途1,500mg/kgを一度に経口投与し、投与後の血漿中濃度の推移を追う実験も行われました。

研究でわかったこと

対照群と比べ、桑アントシアニンを与えた群では枝肉率ともも肉の収量が高くなり、血清中のTG・ALT・ASTの値は低くなったと報告されています。抗酸化指標については、T-AOC、T-SOD、グルタチオンペルオキシダーゼ、カタラーゼが上昇する一方でMDAは減少しており、体内の酸化ストレスが抑えられた可能性が示唆されています。肉質に関しては、加熱による減量や脂肪含量、TBARS値が下がる一方、赤み(a*)、たんぱく質・水分・ミオグロビン・コラーゲンの含有量は増加したとされ、見た目や保水性、栄養成分の面で変化が見られたことになります。腸内細菌叢については、桑アントシアニンの投与によって盲腸内の細菌の構成が変化し、有用と考えられる菌の割合が増える傾向が確認されました。経口投与実験では、C3GとC3Rはいずれも投与から15分後には血漿中で検出され、およそ30分後にピークに達し、24時間後には検出限界を下回るまで低下したと報告されています。これは、桑アントシアニンの主要成分が鶏の体内に一定時間とどまり、その後速やかに代謝・排出される可能性を示すものです。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、中国国内で飼育されている華北柴鶏という特定の鶏種を対象に、限られた投与量・期間の条件下で行われたものです。得られた結果が他の鶏種や、より長期間・異なる飼育環境でも同様に見られるかどうかは、この研究だけでは分かりません。また、血中への取り込みを調べた経口投与実験は、通常の飼料での摂取量とは異なる高用量(1,500mg/kg)を一度に投与するという別条件で行われている点にも注意が必要です。抗酸化指標や肉質の各数値に変化が見られたことは事実として報告されていますが、これは特定の飼育条件下での結果であり、桑アントシアニンの摂取がヒトの健康に効果をもたらすことを示すものではありません。一つの研究として得られた知見であり、結論が確定したわけではない点を踏まえて読む必要があります。

まとめ

今回の研究では、桑由来のアントシアニンを老齢の採卵鶏の飼料に加えることで、抗酸化に関わる血液指標や一部の肉質特性、腸内細菌叢の構成に変化が見られたことが報告されました。研究グループは、これらの結果から、桑アントシアニンが老鶏の利用価値を高める天然の飼料添加物となる可能性を指摘しています。今後、異なる条件下での検証が積み重ねられることで、より確かな知見につながっていくと考えられます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Meijiao Liu, Ruijie Yu, Songhan Li, et al. Effects of dietary mulberry anthocyanins on meat quality, antioxidant capacity, gut microbiota, and plasma anthocyanin exposure in North China Chai chickens. ポウルトリー・サイエンス (2026). DOI: 10.1016/j.psj.2026.107590. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.