赤ちゃんが授乳の後にミルクを口から少し戻す「吐き戻し」(食物逆流)は、多くの保護者が経験する身近な現象です。医学的には生後2歳未満の子どもに起こる生理的な現象とされ、飲み込んだ液体や食べ物が胃から再び口へ戻ってくる状態を指します。イランのテヘラン医科大学(Islamic Azad University)小児科に所属する研究者が、テヘラン南部の地域住民を対象に、この吐き戻しの頻度や特徴、関連しそうな要因を調べた研究を報告しました。

どのように調べたのか

この研究は横断的な地域調査として実施されました。テヘラン南部にある33か所の保健センターから無作為に5施設を選び、各施設で健診や予防接種などのために訪れた生後18か月未満の乳児を90人ずつ、合計450人を対象にしました。必要な調査人数は統計計算式(Z²×P×(1−P)/d²)に基づき400人以上と見積もられ、実際にはそれを上回る450人が集められています。訓練を受けた調査員が母親に構造化された質問票を用いて面接し、乳児の月齢、性別、出生体重、在胎週数、母親の年齢、分娩方法、離乳食の開始時期、生後6か月間の主な哺乳方法(母乳か人工乳か)、きょうだいの吐き戻しの家族歴、睡眠時の姿勢、授乳時の姿勢、持病の有無などを尋ねました。吐き戻しがある乳児については、1日の回数や起こりやすい時間帯、戻したものの量や性状、授乳との時間関係、授乳後のげっぷの有無、発症・消失の時期なども追加で聞き取っています。統計解析にはSPSS第25版が用いられ、カイ二乗検定によって関連の有無が確認されました(有意水準はp<0.05)。この調査は2020年2月にテヘラン医科大学のイスラム・アザド大学倫理委員会の承認を得て実施されました。

調査でわかったこと

450人のうち344人、割合にして約76.5%の乳児に吐き戻しが認められました。吐き戻しがあった乳児のうち54%(186人)は生後6か月未満で、残り46%は7〜18か月でした。性別では男児が52%、女児が48%を占めています。低出生体重(2500g未満)の乳児12人中10人(約83%)、早産児7人中5人(約71%)で吐き戻しが見られましたが、これらの人数はもともと少なく、統計的に有意な関連は確認されませんでした。実際、月齢・性別・出生体重・在胎週数・分娩方法・出生順位・きょうだいの家族歴・母親の年齢のいずれについても、吐き戻しとの間に統計的に意味のある関連は見つかりませんでした。母乳栄養児では吐き戻しの割合がやや高い傾向(母乳75%、人工乳など72%)でしたが、これも有意差ではありませんでした。一方、ダウン症2例、自閉スペクトラム症3例、心室中隔欠損1例、ヒルシュスプルング病1例、ファロー四徴症1例、けいれん3例という先天性・慢性疾患を持つ乳児10人については、全員(100%)に吐き戻しが見られたと報告されています。授乳後にげっぷをさせる習慣は341人(96%)の母親が行っていましたが、これも吐き戻しの頻度とは有意な関連が見られませんでした。吐き戻しの特徴としては、生後1週目という早い時期に始まったケースが70%と最も多く、消失時期は生後6か月以降が38%と最多でした。1日の中では時間帯を問わず起こることが多く(54%が「一日中」と回答)、量はほとんどの場合ごく少量(98%が「少量」)で、性状はミルクの塊状(凝乳、93%)が大半を占め、授乳中よりも授乳後に起こる割合が99.7%とほぼ全例でした。頻度は1日1〜2回が全体の約6割弱を占めています。

この研究をどう読むか

著者は、乳児期早期に吐き戻しが起こりやすい背景として、食道の未成熟な構造や下部食道括約筋の圧力の低さ、飲み込みと蠕動運動の反射の未発達、胃の伸展能力の限界といった、消化管の発達途上にある特徴が関わっている可能性に触れています。ただし、この研究にはいくつか留意点があります。まず、吐き戻しの有無や頻度はすべて母親からの聞き取りに基づいており、記憶による偏り(想起バイアス)が生じている可能性があります。また、対象者の選び方は各保健センターを訪れた乳児を組み入れる方法であり、資源の制約からくる限界があったと著者は述べています。さらに、吐き戻しの診断は問診のみに基づき、内視鏡やpHモニタリングといった客観的な検査による確認は行われていないため、実際の有病率は過大評価されている可能性があるとしています。低出生体重児や早産児における吐き戻しの割合についても、対象人数が少なかったため、より大規模な研究での確認が必要だと指摘されています。今回報告された76.5%という割合は、過去の研究(40〜90%との報告がある)と比べても高めの数値であり、一つの地域を対象にした調査結果として捉える必要があります。

まとめ

この研究は、テヘラン南部の乳児450人を対象にした地域調査として、吐き戻しが乳児期に非常によく見られる現象であることを改めて示しました。月齢や性別、出生体重、哺乳方法、睡眠・授乳姿勢など多くの要因について統計的に明確な関連は見出されなかった一方、先天性・慢性疾患のある乳児全員に吐き戻しが見られた点は目を引く結果です。著者自身が述べる通り、母親の記憶に頼った調査であることや客観的な検査を伴っていないことから、今回の数値をそのまま一般化するのではなく、今後より大規模で検証された方法による研究が待たれる段階にあるといえます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Parichehr Tootoonchi. Prevalence, Clinical Characteristics, and Risk Factors of Food Regurgitation in Infants Younger than 18 Months: A Population-Based Study in Tehran, Iran. ジャーナル・オブ・インテグレイティブ・アンド・トランスレーショナル・バイオメディシン (2026). DOI: 10.67316/jintb.v1.i3.58. 原著ライセンス: cc-by.