この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Physiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
柔道やレスリングのような階級制競技では、より軽い階級で戦うために、公式計量の直前に短期間で体重を落とす「急速減量」が広く行われています。計量後は競技開始までのわずかな時間で水分や食事を摂り、体重を戻す「急速体重回復」が続きます。研究チームは、こうした短期間の体重変動が体の中で何を起こしているのかに注目しました。
これまでの研究の多くは減量が競技成績や水分状態に与える影響を扱っており、計量後の体重回復の時期については十分に調べられていなかったと著者らは述べています。そこで本研究は、男子柔道選手を対象に、急速減量とその後の体重回復が「酸化ストレス」と「筋損傷」の指標にどう影響するかを検討することを目的としました。
ここでいう酸化ストレスとは、体内で生じる活性酸素などの酸化させる働きと、それを抑える抗酸化の働きとのバランスが崩れた状態を指します。本研究ではこのバランスを、酸化させる側の総量(総酸化能:TOC)、抑える側の総量(総抗酸化能:TAC)、そして両者の比から計算される酸化ストレス指数(OSI)という三つの指標でとらえています。筋損傷については、筋肉に含まれるタンパク質で、筋の細胞膜が傷つくと血液中に漏れ出てくるミオグロビンを測定しました。
何をどのように調べたか
参加したのは11名の男子柔道選手(平均20.8歳)です。同じ選手を3つの時点で繰り返し測定する設計がとられ、一人ひとりが自分自身の比較対象となるようにしています。測定は、減量を始める前、5日間の減量を終えた後、そして計量後15時間の回復期間を経た後の3回行われました。
減量の方法は、実際の競技現場に近い状況を保つため、研究側が統一した食事や手順を指示せず、選手が自分で選ぶやり方に任されました。認められたのは運動量を増やすこと、摂取エネルギーの制限、水分制限、サウナの利用、発汗を促す衣服の着用などで、利尿薬や下剤といった薬剤の使用は禁止されています。目標は5日間で体重の5%以上を減らすことでした。計量後の15時間は、水分補給も食事も選手の自由に委ねられ、この期間は決まった運動を行わないこととされました。各時点で体重を測定し、採血によってTOC、TAC、OSI、ミオグロビンの値を調べています。
主な報告結果
体重は減量後に約6%減り、体重回復を経てもなお開始前より約4%低い水準にとどまったと報告されています。つまり、計量後に体重を戻しても元の値までは回復していませんでした。
酸化に関わる指標は、減量の時期と回復の時期とで異なる動きを示しました。抗酸化側のTACは減量後に20%増え、回復後も開始前より11%高い水準を保っていました。一方、酸化側のTOCは減量後に12%低下したものの、回復後には開始前より33%高くなりました。両者の比であるOSIも同様に、減量後は28%低下し、回復後には開始前より21%高い値となっています。
筋損傷の指標であるミオグロビンは、測定された項目の中で最も大きく変化しました。減量後には339%という顕著な増加を示し、体重回復後も開始前より42%高い水準が残っていたと報告されています。さらに、TACの変化量とミオグロビンの変化量との間には、減量の時期(r=0.727)にも回復の時期(r=0.609)にも正の相関がみられました。ただしこれは両者が一緒に動いたという関連であって、一方が他方を引き起こしたことを示すものではありません。
著者らは考察の中で、減量時に水分摂取を控えることで血液が濃縮され、その影響がミオグロビンや酸化ストレスの測定値の一部に反映されている可能性にも触れています。また、参加者が少人数であること、水分状態や食事内容を直接評価していないこと、減量方法が選手ごとに異なり統一できなかったことなどを、本研究の限界として挙げています。
この研究が示すこと
著者らは、急速減量と体重回復がそれぞれ異なる形で体内の酸化のバランスを変化させたと結論づけています。減量の段階では抗酸化の働きが高まる反応がみられた一方で、計量後に体重を戻す段階ではむしろ酸化側が優勢になっていました。
この結果が示唆するのは、階級制競技における体重管理を考えるとき、減量の時期だけを見ていては全体像をとらえられない、ということです。計量を通過した後の回復の過ごし方もまた、体内のバランスに関わる重要な局面として扱う必要があるという点を、この研究は浮かび上がらせています。
著者:Büşra Özdek(Faculty of Aksaray University Sports Sciences, Aksaray University)、Hamza BUDAK(Faculty of Aksaray University Sports Sciences, Aksaray University)、Emre Karaduman(Faculty of Yaşar Doğu Sports Sciences, Ondokuz Mayıs University)、Eda Karaduman(Faculty of Yaşar Doğu Sports Sciences, Ondokuz Mayıs University)、Mahmut Esat UZUN(Faculty of Sports Science, Karabük University)、Ali Kerim Yılmaz(Faculty of Yaşar Doğu Sports Sciences, Ondokuz Mayıs University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Büşra Özdek, Hamza BUDAK, Emre Karaduman, et al. Effects of rapid weight loss and rapid weight regain on oxidant status and muscle damage in judo athletes. Frontiers in Physiology 2026-09-15. DOI: 10.3389/fphys.2026.1953888. 原著ライセンス:CC BY.