この研究は、ドイツの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Chemistry

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ調べたのか

食品に含まれる物質を通じて人がどれだけの量を口にしているかを推定するには、まず「よく食べられている食品に、その物質がどのくらい入っているか」という基礎データが必要です。こうしたデータを集める調査手法は「トータルダイエットスタディ(TDS)」と呼ばれ、日常的に消費される食品を実際に買い集め、家庭と同じように調理し、似た食品どうしをまとめて均一にしたうえで分析します。

ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(BfR)は2015年に、ドイツで初めての本格的なTDSである「BfR MEAL研究」を開始しました。研究チームは今回、この枠組みで集められた食品を対象に、可塑剤とその他の添加剤の含有状況を報告しています。

可塑剤とは、プラスチックなどの高分子をやわらかくしたり加工しやすくしたりするために加える添加剤です。食品への移行は、生産・加工・包装・保管・調理といった食品の流れのどの段階でも起こりうると論文は説明しています。可塑剤のうちよく知られたグループが「オルトフタル酸エステル(いわゆるフタル酸エステル)」で、一部は生殖毒性を持つ物質として区分され、内分泌かく乱作用を持つ物質としても指摘されています。そのため欧州では、フタル酸エステル以外の代替可塑剤への置き換えが進んでいると論文は述べています。

ただし、幅広い種類の可塑剤や添加剤を、さまざまな食品で同時に、しかも低い濃度まで測れる検証済みの手法は限られていました。ドイツにおいても、これほど広い対象について食品中の実態を示すデータは乏しい状況にありました。研究チームは、そのデータ不足を埋めることを目的としています。

どのように調べたか

分析対象となったのは、BfR MEAL研究で集められた226の「プール試料」です。プール試料とは、似た食品を複数まとめて混ぜ合わせ、均一にしたもので、今回は1試料あたり15〜20品目から構成されています。対象食品は、成人と子どもの食事調査に基づいて選ばれた、ドイツでよく消費される食品のリストから決められました。購入にあたっては、約3万世帯の購買パネルのデータを用いて、銘柄や製法、包装の種類などドイツの買い物の実態が反映されるよう配慮されています。

調理は、実際の家庭での食べ方に合わせて行われました。焼き色の好みについてのオンライン調査や、使われる調理器具の材質についての電話調査の結果も踏まえられています。均一化の作業では、プラスチック製のへらや容器を使わないなど、分析対象物質による汚染を避ける注意が払われました。試料はガラス容器に入れ、加熱処理したアルミ箔をプラスチック製のふたとの間に挟んだ状態で、分析まで−20℃で保管されています。

測定は、ガスクロマトグラフィーと液体クロマトグラフィーをそれぞれタンデム質量分析につないだ手法を組み合わせた「マルチテクニック法」で行われ、60種類の物質を対象としました。食品によって水分や脂肪、でんぷんやたんぱく質の量が大きく異なるため、研究チームは前処理の方法を3通り用意し、脂肪が多い食品や肉・魚介類を含む食品、飲料、それ以外、というように試料に応じて使い分けています。この手法は、7種類の代表的な食品を用いて妥当性が確認されました。検出限界は食品と物質によって1kgあたり5〜20マイクログラム、定量限界は10〜60マイクログラムの範囲でした。ここでの「検出限界」は存在の有無を判断できる下限、「定量限界」は濃度として数値を出せる下限を指します。また、測定値については、可能な場合にドイツの食品モニタリングや類似のTDSの報告値と比べる妥当性確認が行われています。

何が分かったか

すべての試料で、60種類のうち少なくとも1つの物質が検出されました。226試料のうち211試料では、少なくとも1つの物質を濃度として定量できています。一方で、60種類のうち実際に1試料以上で定量できたのは30種類でした。

定量された回数が多かったのは、フタル酸エステルのDINP(128試料)、クエン酸エステルのATBC(104試料)、トリアセチン(81試料)、アジピン酸エステルのDEHA(57試料)、および脂肪酸アミドのOEA、OA、EA(それぞれ119、117、64試料)です。ただし論文は、ATBCやトリアセチン、脂肪酸アミドなどについて、可塑剤としての用途だけでなく、香料や乳化剤としての使用、滑剤としての使用、あるいは天然に存在することが、検出の多さに関係している可能性を注記しています。

健康影響の観点から注目されるフタル酸エステルについては、含有量が多くの場合低い水準にとどまりました。DEHPは34試料で定量され、濃度は1kgあたり17〜720マイクログラム、中央値は46マイクログラムでした。DINPは128試料で1kgあたり10〜1000マイクログラム、中央値41マイクログラム。DNBPは11試料で12〜170マイクログラム、中央値25マイクログラムでした。BBPは3試料のみで、蒸留酒、オリーブ油、各種ナッツからそれぞれ47、31、11マイクログラム/kgが定量されています。また、鎖の短いものから長いものまで多くのフタル酸エステルは、どの食品群でも検出されませんでした。

研究チームは、生殖毒性等が問題となるフタル酸エステル5種(DEHP、DIBP、DNBP、BBP、DINP)について、毒性の強さで重みづけして合算した値を求めています。この「DEHP換算」での合計含有量の中央値は食品1kgあたり15.3マイクログラムで、著者らは、これは全体としての摂取が耐容一日摂取量(TDI、生涯にわたり毎日摂取しても健康への懸念がないと考えられる量)である体重1kgあたり1日50マイクログラムDEHP換算を十分に下回ることを示唆する、と述べています。

一方、代替可塑剤や他の添加剤では、検出頻度も濃度も高いものがありました。最大値としては、DINCHがサラダドレッシングの試料で1kgあたり23000マイクログラム、ATBCがペストの試料で19100マイクログラム、DEHAが1300マイクログラムに達しています。ただしこれらは例外的な高値であり、中央値はDINCHで99マイクログラム、ATBCで95マイクログラム、DEHAで56マイクログラムと、ずっと低い水準でした。

食品群による違いも報告されています。穀物・穀物製品や複合料理といった、材料も製法も多様な食品群では、見つかった物質の種類が最も多くなりました。逆にじゃがいも製品やアルコール飲料のような均質な群では、種類は少なくなっています。個々のプール試料で最も多くの物質(最大13種類)が定量されたのは、ペスト、オリーブ、チョコレート、各種ソーセージ、ツナ缶などでした。反対に、一部の果汁や生・ゆでの果物や野菜、生ソーセージ、バターミルク、魚では、定量できた物質はありませんでした。DEHPが最も高かった2試料は、各種ナッツ(720マイクログラム/kg)とピーナッツバター(560マイクログラム/kg)で、いずれも豆類・ナッツ・油糧種子・香辛料の群に含まれます。

この研究が示すこと

この研究は、ドイツでよく食べられている食品全体を見渡して、可塑剤とその他の添加剤がどの程度含まれているかを、共通の検証済み手法で測った記録です。生殖毒性や内分泌かく乱との関連が指摘されるフタル酸エステルについては大半の食品で含有量が低く、代替可塑剤や他の添加剤のほうが検出頻度も濃度も高いという構図が、数値として示されました。同時に、ごく一部の食品で突出した値が出ることも記録されています。

著者らは、この結果がドイツで日常的に消費される食品中の現在の含有水準について確かなデータベースを提供し、今後の食事由来の曝露評価の設計を支えるものだと位置づけています。個別の食品を避けるべきかどうかを示すものではなく、社会全体として何をどれだけ口にしているかを見積もるための土台を整えた研究だといえます。

著者:Andriy Kuklya(German Federal Institute for Risk Assessment, Reference Centre for Food and Feed Analysis, Max-Dohrn-Straße 8-10, 10589 Berlin, Germany. Electronic address: [email protected])、Elisabeth Koch(German Federal Institute for Risk Assessment, Department of Chemical and Product Safety, Max-Dohrn-Straße 8-10, 10589 Berlin, Germany)、Ezgi Eyluel Bankoglu(German Federal Institute for Risk Assessment, Department of Food and Feed Safety in the Food Chain, Max-Dohrn-Straße 8-10, 10589 Berlin, Germany)、Oliver Kappenstein(German Federal Institute for Risk Assessment, Reference Centre for Food and Feed Analysis, Max-Dohrn-Straße 8-10, 10589 Berlin, Germany)、Irmela Sarvan(German Federal Institute for Risk Assessment, Department of Exposure, Max-Dohrn-Straße 8-10, 10589 Berlin, Germany)、Sara Perestrelo(German Federal Institute for Risk Assessment, Department of Exposure, Max-Dohrn-Straße 8-10, 10589 Berlin, Germany)、Sebastian Zellmer(German Federal Institute for Risk Assessment, Department of Food and Feed Safety in the Food Chain, Max-Dohrn-Straße 8-10, 10589 Berlin, Germany)、Thomas Tietz(German Federal Institute for Risk Assessment, Department of Food and Feed Safety in the Food Chain, Max-Dohrn-Straße 8-10, 10589 Berlin, Germany)、Oliver Lindtner(German Federal Institute for Risk Assessment, Department of Exposure, Max-Dohrn-Straße 8-10, 10589 Berlin, Germany)、Andreas Luch(German Federal Institute for Risk Assessment, Department of Chemical and Product Safety, Max-Dohrn-Straße 8-10, 10589 Berlin, Germany)、Alexander Roloff(German Federal Institute for Risk Assessment, Department of Chemical and Product Safety, Max-Dohrn-Straße 8-10, 10589 Berlin, Germany)、Torsten Bruhn(German Federal Institute for Risk Assessment, Reference Centre for Food and Feed Analysis, Max-Dohrn-Straße 8-10, 10589 Berlin, Germany. Electronic address: [email protected]

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Andriy Kuklya, Elisabeth Koch, Ezgi Eyluel Bankoglu, et al. Occurrence and concentrations of phthalates, alternative plasticizers and other additives in food samples from the German market. Food Chemistry 2026-08-26. DOI: 10.1016/j.foodchem.2026.150907. 原著ライセンス:CC BY.