ザクロ(Punica granatum L.)は栄養価の高さと生理活性成分の豊富さから、古くから世界各地で親しまれてきた果物です。トルコはインド、イラン、中国などと並ぶ主要な生産国のひとつで、年間およそ65万トンが生産されているとされています。地中海沿岸、エーゲ海、南東アナトリアといった地域が主な産地で、なかでもトルコ産の代表品種「ヒジャズ(Hicaz)」は、濃い赤色の種子(アリル)、甘みと酸味のバランスの良さ、高い水分含量、そして輸出向けとしての強みで知られています。今回紹介する研究は、このヒジャズザクロがトルコ・アダナ地方の異なる地区でどのように育つと、色や抗酸化にかかわる成分がどう変わるのかを調べたものです。
どんな方法で調べたのか
研究チームは、アダナ地方のサルュチャム、コザン、フェケ、イマモールの4地区で栽培されているヒジャズザクロを対象としました。各地区で3本の木を用い、それぞれの木から東西南北の方向を意識して果実を10個ずつ、合計で1地区あたり30個、4地区で計120個の果実を集めました。収穫は2023年9月12日から20日にかけて行われ、集めた果実はホモジナイザーで果汁にした後、マイナス20度で保存されました。なお2023年のアダナは典型的な地中海性気候で、夏は高温乾燥、冬は温暖多雨、年平均気温はおよそ15〜16度、年間降水量はおよそ600〜650ミリと、平年より高温・多雨の年だったと報告されています。
色の測定には、コニカミノルタ製の色彩色差計(CR-400)が使われ、果皮とアリル(種子部分)それぞれについて、明度を示すL値、赤み(プラス)〜緑み(マイナス)を示すa値、黄み(プラス)〜青み(マイナス)を示すb値というCIELAB表色系の指標が測定されました。さらにこれらの値から、色の鮮やかさ・彩度を示すクロマ(C)と、色調(赤・黄・青・緑のどれに近いか)を示す色相角(h°)が計算式によって算出されています。
生化学的な分析としては、DPPHという試薬を使って抗酸化活性を測定する方法(結果はビタミンE類似物質であるトロロックス相当量、新鮮な果実1グラムあたりのミリモル数で表示)、フォーリン・チオカルト法による総フェノール含量の測定(没食子酸相当量、果実100グラムあたりのミリグラム数で表示)、そして果汁を用いた総モノマーアントシアニン含量の測定(1リットルあたりのミリグラム数で表示)が行われました。
研究でわかったこと
果皮の色については、サルュチャム産が最も明るく(L値67.58)、コザン産が最も暗い値(L値51.77)を示しました。赤みを示すa値はコザン産が最も高く(39.14)、黄みを示すb値はサルュチャム産が最も高い(45.87)一方でコザン産は最も低い値(28.35)でした。色相角もサルュチャム産(74.23)に対してコザン産は35.95と大きく異なり、コザン産の果皮がより濃い赤色を帯びていたことがうかがえます。彩度(クロマ)はイマモール産(49.75)とコザン産(48.37)で高く、これらの地区の果実は色鮮やかだったと報告されています。
アリル(種子部分)の色についても地区による違いが見られました。最も明るい値はサルュチャム産(L値44.60)で、最も暗い値はイマモール産(26.64)でした。赤みを示すa値はイマモール産(48.55)、コザン産(47.61)、フェケ産(42.95)で高く、サルュチャム産のアリルは黄みが強く(b値42.15)、より明るい赤みがかった色調(色相角58.37)を示したのに対し、イマモール、フェケ、コザンの各産地はより濃い赤色を示したとされています。
生化学的な成分では、アントシアニン含量が最も高かったのはコザン産(16.61)で、次いでフェケ産(13.89)、最も低かったのはイマモール産(4.17)でした。抗酸化活性についてはイマモール産(84.14)、コザン産(83.91)、フェケ産(82.66)が統計的に同程度の高い値を示し、サルュチャム産(78.62)は相対的に低い値でした。総フェノール含量はコザン産(267.16)が他の地区を大きく上回り、サルュチャム産(148.40)、イマモール産(142.95)は中程度、フェケ産(117.41)が最も低い値でした。
あわせて行われた主成分分析では、最初の2つの主成分で全体のばらつきのおよそ72パーセントが説明され、第1主成分は果皮・アリルの色特性、第2主成分はアントシアニン、総フェノール、抗酸化活性といった生化学的な特性と関連していたとされています。また相関分析では、総フェノール含量、アントシアニン含量、抗酸化活性の間に強い正の関連が見られ、フェノール化合物が抗酸化能を左右する重要な要因である可能性が示唆されています。色に関する各指標同士(L値、a値、b値、色相角、クロマ)も互いに強く関連しており、これらが果実の色全体の特徴をまとめて決めていると考察されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
研究チームは、遺伝的要因(品種の性質)と栽培地の環境条件の両方が、ヒジャズザクロの色特性や生理活性成分の組成に大きく影響していると結論づけています。ただしこの研究は、トルコ・アダナ地方の4地区、2023年という1年分の収穫時期のデータに基づくものであり、他の産地や年による違いまでを示したものではありません。また、抗酸化活性や含有成分の値は実験室での測定によるものであり、これらの成分を摂取した場合に人の健康にどのような影響があるかを直接確かめた研究ではない点にも留意が必要です。研究チームは、これらの知見が今後の育種研究や果実の品質評価、ザクロを使った機能性食品の開発に役立つ可能性があるとしています。
まとめ
今回紹介した研究では、同じヒジャズ品種のザクロでも、トルコ・アダナ地方内の栽培地区によって果皮やアリルの色、アントシアニン含量、抗酸化活性、総フェノール含量に明確な違いがあることが示されました。特にコザン産はアントシアニンと総フェノールが多く、イマモール産は抗酸化活性が高いなど、産地ごとの個性が浮き彫りになった形です。あくまで一つの研究であり、これをもって特定の産地や食品の健康効果が確定したわけではありませんが、栽培環境が果物の色や成分に与える影響を知るうえで興味深い報告といえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:トルコ・アダナ地方で栽培されたヒジャズザクロの色特性、アントシアニン含量および抗酸化特性(トルコ農業・食品科学技術ジャーナル・2026年08月)