著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
炎症性腸疾患(IBD)は、消化管の粘膜に慢性的な炎症が起き、良くなったり悪くなったりを繰り返す病気の総称で、主にクローン病と潰瘍性大腸炎が含まれます。根本的に治す治療法はなく、患者は長期の治療を必要とします。論文によると、世界の新規患者数は1990年から2021年にかけて大きく増えており、予防につながる環境や生活習慣の要因を明らかにすることが重要だとされています。
大気汚染は炎症や酸化ストレス(体内で活性酸素などが過剰になり、細胞を傷つける状態)を通じて体に害を及ぼすと考えられています。一方、植物性食品を中心とした食事には、食物繊維やポリフェノールなど、炎症を抑える働きを持つ成分が多く含まれます。ただし、これまでの研究は調べた汚染物質の種類が限られ、大規模な前向き研究(健康な人を将来に向けて追跡する研究)も少ない状況でした。研究チームは、複数の大気汚染物質とIBD発症との関連を調べるとともに、植物性食品中心の食事をどの程度実践しているかによって、この関連が変わるかどうかを検討しました。
どのように調べたか
研究チームは、英国の大規模な住民調査「UKバイオバンク」のデータを使いました。参加開始時点で消化器の病気がなく、食事調査を1回以上受けた人など、16万5722人を分析の対象としています。発症の有無は医療記録をもとに確認しました。
大気汚染については、英国政府が1km四方ごとに推計している年平均濃度を、参加者の居住歴と結びつけました。引っ越しも考慮したうえで、追跡期間中に各参加者がさらされた濃度を推定しています。対象は、微小粒子状物質PM2.5、粒子状物質PM10、二酸化窒素、窒素酸化物、二酸化硫黄、ベンゼンの6種類です。
食事は、前日に食べたものを答えるウェブ調査(最大5回)で把握しました。17の食品群について、野菜などの植物性食品を多く食べるほど点数が高く、肉などの動物性食品を多く食べるほど点数が低くなる「植物性食事指数」を算出し、参加者を実践度の低い群・中程度の群・高い群の3つに分けました。分析では、年齢、性別、喫煙、飲酒、運動量、収入、教育などの影響を統計的に調整しています。
主な結果
追跡期間の中央値は約13.2年で、その間に1037人がIBDを発症しました。内訳はクローン病が370人、潰瘍性大腸炎が731人で、両方と診断された人も含まれます。
6種類の汚染物質はいずれも、濃度が高いほどIBDの発症リスクが高いことと関連していました。各物質の濃度が、参加者の濃度分布の中ほど半分にあたる幅(四分位範囲)だけ高くなるごとに、発症リスクの比はPM2.5で約1.29倍、ベンゼンで約1.22倍、PM10で約1.22倍、二酸化窒素で約1.17倍、窒素酸化物で約1.15倍、二酸化硫黄で約1.11倍でした。病型別では、クローン病はPM2.5、二酸化硫黄、ベンゼンと、潰瘍性大腸炎はPM2.5、PM10、窒素酸化物、二酸化窒素、ベンゼンと統計的に意味のある関連を示しました。発症初期の患者を除くなどの追加分析でも、結果はおおむね一貫していました。
食事の実践度別にみると、植物性食事指数が低い群では、多くの汚染物質がIBDのリスク上昇と有意に関連していました。これに対し、指数が高い群では関連の推定値が小さくなり、統計的に有意ではなくなりました。潰瘍性大腸炎でも同様の傾向がみられています。ただし、大気汚染と食事の組み合わせによる効果を直接確かめる交互作用の検定では、統計的に意味のある差は認められませんでした。そのため著者らは、食事によって関連が弱まるという所見は「示唆的なもの」として慎重に解釈すべきだと述べています。
この研究が示すこと
この研究は、長期的な大気汚染への曝露がIBDの発症リスクの高さと関連すること、そして植物性食品を多く取る人ではその関連が弱く見える可能性を示しました。ただし観察研究であるため、因果関係を証明するものではありません。著者らは限界として、参加者の大半が白人であること、比較的健康な人が多く参加していること、食事は追跡中に変わらないものとして扱ったこと、調整しきれない要因が残りうることを挙げています。
著者らは、IBDの環境面での負担を減らすうえで、大気汚染そのものを減らすことが最優先の対策であり続けるとしています。そのうえで食生活は、より広い予防の取り組みの一部になりうると位置づけています。環境と生活習慣の両面からIBDのリスクを考える必要性を示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Lili Liu(School of Public Health, Guangzhou Medical University)、Kequan Chen(Department of Gastroenterology, The First Affiliated Hospital of Guangzhou Medical University)、Di Liu(School of Public Health, Guangzhou Medical University)、Jinjian Chen(School of Public Health, Guangzhou Medical University)、Siru Yang(Hospital-Acquired Infection Control Department, ShunDe Hospital of Guangzhou University of Chinese Medicine)、Su Yao(Department of Pathology, Guangdong Provincial People's Hospital, Guangdong Academy of Medical Sciences)、Zhenzhang Li(College of Mathematics and Systems Science Guangdong Polytechnic Normal University)、Jun Yang(School of Public Health, Guangzhou Medical University)、Nannan Chen(School of Public Health, Guangzhou Medical University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lili Liu, Kequan Chen, Di Liu, et al. Association between long-term ambient air pollution and incident inflammatory bowel disease across levels of adherence to a plant-based diet: a prospective cohort study in the UK Biobank. Frontiers in Nutrition 2026-08-10. DOI: 10.3389/fnut.2026.1893740. 原著ライセンス:CC BY.