著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ食事療法に注目するのか

炎症性腸疾患(IBD)は、潰瘍性大腸炎やクローン病などを含む慢性の病気で、腸に炎症が続きます。論文によると、患者の約10〜20%は子どもの時期に発症します。原因は完全には分かっていませんが、遺伝的な要因に加えて環境要因、とりわけ食事が発症や経過に関わることを示す報告が積み重なっています。著者らは、脂肪や動物性たんぱく質、精製された糖が多く、果物や野菜が少ない「西洋型の食事」がIBDのリスクと関連するという研究を紹介しています。ただし、これらの多くは食習慣と発症との関連を示したものです。

クローン病では、栄養療法がすでに確立した治療の一つになっています。「完全経腸栄養(EEN)」と呼ばれる方法で、6〜8週間、栄養が完全にそろった液体の栄養剤だけを食事の代わりにとります。国際的な指針でも、病気の勢いを抑える最初の治療として推奨されています。一方で、味が単調で続けにくく、子どもが受け入れにくいという課題があります。また、終了後に普通の食事に戻すと、2〜3週間ほどで炎症が再び強まることが多いとされています。

そこで研究チームは、普通の食べ物を使いながらEENに近い効果を目指す「食事に基づく治療法」について、小児IBDを中心に、考え方の根拠と現時点の研究結果を整理しました。この論文は、既存の研究を幅広く読み解いて解説する総説です。

どのような食事法が検討されてきたか

著者らによると、多くの食事療法は二つの原則に基づいています。害を及ぼす可能性のある食品を避けることと、良い働きが期待される食品を取り入れることです。超加工食品や一部の食品添加物などが腸内細菌のバランスを乱し、腸の防御機能を損ない、炎症を続かせる可能性があるという仮説が背景にあります。

最も多く研究されているのは「クローン病除外食(CDED)」です。加工食品、動物性脂肪、グルテン、乳製品、乳化剤などの添加物を避け、指定された食品を取り入れます。そこに、必要な栄養の一部を栄養剤で補う「部分経腸栄養(PEN)」を組み合わせ、段階的に制限を緩めていきます。最初の報告では、軽症から中等症の早期クローン病の子どもで、寛解(症状が落ち着いた状態)の割合が70.2%でした。別の研究では、寛解の割合がCDEDとPENの併用で75.0%、EENで68.9%と同程度でした。続けやすさについては、ある研究で治療を受け入れられた割合がCDEDとPENの併用で97.5%、EENで73.6%と報告されています。生物学的製剤が効かなかった患者での効果を示す報告もあります。一方で、制限が厳しいことから、12週間を超えて続けられたのは57%にとどまったという報告もあります。

加工食品や動物性脂肪、グルテンを避け、新鮮な食品を中心にする「テイスティ・アンド・ヘルシー(T&H)」という食事法も紹介されています。6〜25歳の軽症から中等症のクローン病患者83人でEENと比べた臨床試験では、続けられた割合がT&Hで88%、EENで52%でした。寛解の割合はT&Hで56%、EENで38%でした。

潰瘍性大腸炎では、食事療法の研究はまだ少ない段階です。赤身肉や加工食品を避け、果物や野菜を必ず取り入れる「潰瘍性大腸炎除外食(UCED)」の小規模な試験では、軽症から中等症の子ども24人のうち9人(37.5%)が、この食事法だけで寛解に至りました。地中海食については、クローン病または潰瘍性大腸炎の子ども100人を対象とした臨床試験があります。12週間後、通常の食事を続けた群と比べて、症状の指標や炎症の検査値が下がったと報告されています。ただし著者らは、この試験では開始時に使っていた薬が報告されておらず、結果に影響した可能性があると指摘しています。

このほか、特定炭水化物食、CD-TREAT、植物性中心の食事、ケトン食などにも触れていますが、小児での研究は症例報告や少人数の研究が中心です。

子どもに食事療法を行う際の注意点

著者らは、子どもならではの配慮の必要性を強調しています。子どもの栄養管理では、栄養不足を防ぐだけでなく、成長と発達を支えることも求められます。しかし、食事療法で栄養が十分にとれるかについての証拠はまだ限られています。そのため、制限の強い食事法では、栄養状態や成長、食事内容を注意深く見守るべきだとしています。

続けやすさも大きな課題です。思春期では心理的・社会的な理由から制限食を続けにくいことがあります。IBDのある思春期の患者の60%近くが、特定の食品を避けるなど食習慣を変えているとされています。年少の子どもでも、偏食や摂食障害が治療の妨げになることがあります。著者らは、本人と家族への教育、レシピや食事記録アプリなどの支援、必要に応じた心理専門職を含むチームでの対応が重要だと述べています。

この総説が示すこと

著者らは、食事に基づく治療法を、EENの続けにくさを補いながら寛解を目指せる有望な選択肢として位置づけています。なかでもCDEDとPENの併用は、小児クローン病で最も研究が進んでおり、軽症から中等症での最初の治療や、他の治療が効かない場合の選択肢として、効果と安全性を示す研究が複数あります。一方で、多くの食事法は研究の数や規模がまだ限られており、初期の結果は励みになるものの、証拠は十分とはいえないというのが論文の見方です。食事が治療の一部になりうることと、子どもの成長や生活に寄り添った支援が欠かせないことを、この総説は示しています。

原著論文の著者・所属:Irene Dalpiaz(Gastroenterology and Nutrition Unit, Meyer Children’s Hospital IRCCS, 50139 Florence, Italy)、Luca Scarallo(Gastroenterology and Nutrition Unit, Meyer Children’s Hospital IRCCS, 50139 Florence, Italy)、Alessia De Blasi(Gastroenterology and Nutrition Unit, Meyer Children’s Hospital IRCCS, 50139 Florence, Italy)、Margherita Vita(Gastroenterology and Nutrition Unit, Meyer Children’s Hospital IRCCS, 50139 Florence, Italy)、Benedetta Pasquini(Department of Chemistry “Ugo Schiff”, University of Florence, Sesto Fiorentino, 50019 Florence, Italy)、Elena Banci(Gastroenterology and Nutrition Unit, Meyer Children’s Hospital IRCCS, 50139 Florence, Italy)、Sara Renzo(Gastroenterology and Nutrition Unit, Meyer Children’s Hospital IRCCS, 50139 Florence, Italy)、Elena Sofia Pieri(Pediatrics, Department of Medical and Surgical Sciences, University of Foggia, 71122 Foggia, Italy)、Giulia D’Arcangelo(Gastroenterology, Hepatology and Cystic Fibrosis Unit, Fondazione IRCCS Cà Granda, Ospedale Maggiore Policlinico di Milano, 20122 Milan, Italy)、Salvatore Oliva(Pediatric Gastroenterology and Liver Unit, Department of Maternal Infantile and Urological Sciences, Sapienza University of Rome, 00161 Rome, Italy)、Fabio Salvatore Macaluso(IBD Unit, “Villa Sofia-Cervello” Hospital, 90146 Palermo, Italy)、Angelo Campanozzi(Pediatrics, Department of Medical and Surgical Sciences, University of Foggia, 71122 Foggia, Italy)、Paolo Lionetti(Department NEUROFARBA, University of Florence, 50139 Florence, Italy; Gastroenterology and Nutrition Unit, Meyer Children’s Hospital IRCCS, 50139 Florence, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Irene Dalpiaz, Luca Scarallo, Alessia De Blasi, et al. Food-Based Therapies in Pediatric Inflammatory Bowel Diseases. Nutrients 2026-08-02. DOI: 10.3390/nu18152493. 原著ライセンス:CC BY.